パーティー名、決定(仮)
馬車は、山道を走っている時よりも
とても緩やかな振動だ。
馬車は『ボルケーノ』という町を出て、
王都までの街道と呼ばれる道幅の広い道路を走っている。
周りは、砂地が目立つが、道は硬い土でならされている。
人や馬車の往来が多いからか、
道がデコボコしていない。とても快適だ。
パッカ、パッカ、パッカ、パッカ・・・
馬の蹄が規則正しく聞こえてくる。
すこし気温が暑いが、風が心地よい。
眠れそうだ・・・。
「ところで、傭兵の依頼は
2人以上で受けるとき、
パーティーを組んで受けれるんですけど。」
いきなり、
木下が聞き慣れない横文字を使いだす。
そう言えば、依頼を受けるときにも
同じ単語を使っていた気がする。
「なんだ、パーティーって?
あれか? 結婚式の披露宴とか2次会のことか?」
思わず『パンティー』というオヤジギャグにもならない
シモネタの単語が思い浮かんだが、
絶対ひかれると感じて言わなかった。
「いえ、それもパーティーっていうんですが、
この場合は、そうじゃなくて。
チームを組むことをパーティーって言うんです。」
「最初から、チームを組むと言ってくれ。
まぎらわしい。」
「今では、チームを組むことを
パーティーを組むって言うんです。
これぐらいは覚えておいてください。
とくに傭兵の間では、これが普通です。」
なるほど、傭兵用語というやつか。
ならば、馴染みがないからと言っていられないか。
オレも覚えなくては。
「パーティーだな、分かった。
それで、パーティーを組んで
依頼を受けたら、なんなんだ?」
「えぇ、それでパーティーで依頼を請け負う場合、
一応、パーティー名が登録可能らしいんです。」
「パーティー名?
ダンスパーティーとか?
卒業パーティーとか?」
「おじ様、そのパーティーじゃないって
言ってるでしょ。
でも、まぁ、わざとそういうパーティー名にする
おちゃめな傭兵たちもいそうですけどね。」
オヤジギャグのつもりで言ったのに、
本当に、そんな名前のパーティーがいるのか?
「それで、私たちのパーティーにも
名前が必要だと思いまして。」
「必要ない。
現に、パーティー名は必須じゃなかったんだろ?
だから、今回の依頼も滞りなく請け負ってきたんだろ?」
なんの話かと思えば、パーティーの名前か。
くだらない。
「たしかに、パーティー名は必須ではないのですが、
依頼を請け負う際に記入する項目がありまして。
パーティー名がない場合は、二人の名前を
毎回、わざわざ書かなきゃいけないんですよ。
パーティー名さえあれば、
その煩わしさが解消されるのです。
今後もおじ様とパーティーで依頼を受けるなら
パーティー名を決めてしまった方がラクになるのです。」
「そうは言ってもだな・・・。」
オレが反論しようと思って、
木下のほうを向いた瞬間、
木下は、バッグから今回の依頼書と
『ヒトカリ』の契約書を取り出していた。
そして、依頼書を広げて見せてきた。
依頼書の『パーティー名』の項目に・・・
「はぁ!?」
もうすでに『パーティー名』が記入されている。
「・・・おい、なんだ、この
『森のくまちゃん』って!?」
「私が咄嗟に考えた、パーティー名です。」
「ふざけるなよ!」
「ふざけてません!」
ざわっ・・・
オレたちが急に声を荒げたので、
周りの乗客が少しざわついた。
いかん、いかん。
目立ってはいけない。
隠密行動中だ・・・。
「このパーティー名の、どこが
ふざけてないんだ? 言ってみろ!」
オレは、なるべく小声で
木下に問いただす。
「まじめに考えた結果です。」
木下のほうも小声で返す。
作り笑顔が消えている。
・・・本気ということか。
「オレたちは傭兵なんだぞ?
危険な仕事を請け負うこともあるかもしれない。
そんなときに、こんな平和ボケしていそうな
パーティー名のヤツに仕事を任せてくれるわけないだろ?」
「おじ様、もしかして
『森のくまちゃん』のお話をご存知ないのですか?」
「いや、知ってるよ!
おとぎ話だろ!」
「いいえ、童謡です。」
「どっちでもいい!
とにかく、こんな幼稚なパーティー名の
傭兵は有り得ない!」
オレも人のことは言えないが、
名づけの才能が無さすぎる。
「『森のくまちゃん』は、
森で迷子になった女の子を助ける、
とても頼りになる
くまちゃんが主人公の童謡です。」
そんな話だったか?
「いや、森でばったりクマに出会ったから
女の子が走って逃げるのを
クマが追いかけてくるという
ホラー要素満載の歌だっただろ!」
話の最後は、どうだったか忘れてしまったが。
「私が女の子で、おじ様がクマ。
まさしく『森のくまちゃん』じゃないですか?」
「どこが、まさしく、だ!?
こじつけもいいところだ。
お前は、オレをクマだと思っているのか!?」
「けっこう体つきが似ていると思いますよ?」
「お前は、クマを見たことがあるのか?」
「はい、歌の教科書で。」
たしかに、それはオレも見たことがある。
かわいらしい絵だった・・・。
「それは絵だろ!
実物は、獰猛な害獣だと言われているんだぞ?」
「私の中では、害獣ではなく
かっこよくて、かわいいのが、くまちゃんなんです!」
こいつと言い合っていると、
感情が高ぶって、
また声が大きくなってしまう。
周囲の乗客の視線が
また集まっていることに気づく。
いかん、また目立っている。
「はぁ・・・。」
ここで、一度、溜め息をついて
落ち着いてみる。
「なんで、こんな大事な項目を
オレに相談もせず記入してしまったんだ?」
「パッと思いついたんです。」
さっき「まじめに考えた結果」って言っただろ。
単なる思いつきじゃないか。
「あのなぁ・・・はぁ~。」
オレはもう一度溜め息をついた。
落ち着くためじゃなく、
本気で呆れている。
「たしかに、私の独断で決めてしまったのは
多少、悪いと思ってます。
ですから、おじ様とこうして話し合いを求めているのです。
おじ様の代案を聞かせてください。」
木下が、オレを真剣に見つめてくる。
目が本気だ。
『ケチをつけるだけなら誰にでもできる。
異論があるなら、相手の案より断然良い代案を必ず出せ』
昔、オレがお世話になった先輩が
よく言っていた台詞だ。
「パーティー名か・・・。」
そんなことを急に言われても、
パッと思いつくはずもない。
「ほかのパーティーは、
どんな名前を使っているんだろうか?
それらを見て、参考にしてからではダメなのか?」
なにか参考になるものが欲しい。
木下の名づけの才能には呆れたが、
オレも人のことを笑えるほど名づけの才能があるわけじゃない。
子供たちの名前を考えていた時も、
いろんな人たちの意見を聞いて
ずいぶん時間をかけて、やっと決めたほどだ。
「すぐには思いつかないということですね?」
「うっ・・・。」
木下が、ニヤリと笑う。
「では、おじ様がほかの名前を思いつくまで、
私たちのパーティーは、『森のくまちゃん』ということで。」
木下が勝ち誇ったような顔で言う。
とてもイラっとさせる顔だ。
「はぁ・・・仕方ないな。」
「幸い、パーティー名は依頼を受けるごとに
変更可能なようです。いつも同じ名前でもいいし、
パーティーの編成次第では、
毎回違うパーティー名ということもあるでしょうね。
ただし、決まったパーティー名じゃないと
いつまでも『ヒトカリ』にパーティー名を覚えてもらえず、
信頼と実績が積み重ねられないということです。
あと、すでに使われている名前は使えないそうなので、
誰も思いつかないような名前を考えてくださいね。」
木下が契約書を見ながら
パーティー名について説明してくれた。
つまり、このままオレが代案を思いつかなければ、
『ヒトカリ』の中で、『森のくまちゃん』というパーティー名が
定着してしまい、その名前に実績と信頼が蓄積されるわけだ。
「~♪」
しばらく自分のつけたパーティー名が採用されると
分かったとたんに、木下は上機嫌になり
ニコニコしながら鼻歌っぽい声を小さくもらしている。
その様子を見ていると、とても『スパイ』に見えない。
わが娘のような、かわいい姿・・・
そんな微笑ましい姿に見えてくる。
そう感じると、言い負かされて
イライラさせられた気持ちも・・・
かわいすぎて恥ずかしいと感じるパーティー名も・・・
オレが名前にこだわらなければ、
それでいいような気がしてくる。




