新人は雑用からと決まっている
登録料は、案外高かったが、
年間の料金だし、傭兵の保険料というものが
含まれているらしいから仕方ない。
そして、『ランク外』なので紋章みたいなものは
もらえなかったが、代わりに『会員証』という
小さなプレートをもらった。
馬車で出会った傭兵のように『傭兵ランク』は
名乗れないが、これで職業を『傭兵』だと名乗ることに
罪悪感を感じることは軽減されるだろう。
「ついでに、残っている依頼書を見て行くか。」
毎日、掲示板に張り出される依頼書は、
午前中のうちに、多くの傭兵たちが押し寄せ、
我先にと仕事を取り合い、すぐに無くなるのだと
窓口の女性に聞いた。
それでも、ここに入ってきたときに
依頼書が2枚ほど残っていたはずだ。
「どれどれ・・・。」
「『下着泥棒討伐』と『ボルカノ配達』ですって。」
オレの横から掲示板を見た木下が
依頼書の内容を言った。
「し、下着ドロボー!?
こんなの、小さな警備会社が請け負うことだろう?
どこかへの配達ってのも、
これこそ配達会社の仕事じゃないのか?」
窓口の女性が言っていたように、残っているのは
どれも雑用と言われるレベルだ。
依頼書に『ランク問わず』と書かれている。
「つまり、私たちは、こういう雑用をこなしていって
実績を積み重ねていかなくちゃいけないってことです。」
木下が、溜め息まじりに言った。
「まぁ、そういうことだな。
雑用の内容は、だいたい把握できたな。」
そう言って、オレは店の出口へ向かおうとしたが、
「それで、どうしますか?
どちらか引き受けますか?」
「じょ、冗談だろ?」
木下が、これから雑用をこなそうと
促してきたので、さすがにオレは断りたかった。
どっちの雑用もそれほどいい報酬ではない。
どちらも時間がかかりそうなわりに、
対価に値しない金額だ。
「下着泥棒は、今日中には無理そうですから却下として、
もうひとつの配達のほうは、うまくいけば
時間のロスもなくて、移動中にこなせそうですよ。ほら。」
そう言って、木下は地図を取り出し、
配達先の位置を確認しだした。
たしかに、この町から東側に
その配達先の村があるようだ。
東へ移動するがてら達成できそうだが・・・。
「しかし、配達会社が断るぐらいの
危険な荷物か、もしくは配達先が危険区域か、
とにかく、ろくでもない依頼じゃないのか?
それに、配達し終わったら、
ここへまた戻って、依頼達成を
報告しなくちゃならないんじゃないか?」
また、この町へ戻らねばならないようなら、
それはオレたちの『特命』遂行の
大きな時間のロスになる。
「たしかに、そうですね。」
すると、木下は、また窓口へ戻り、
あの窓口の女性に、なにやら質問している。
そして、ニコニコと作り笑顔のまま戻ってきた。
「配達の依頼を受けた場合は、達成した時点で、
配達先で依頼書にサインをもらえばいいそうです。
それだけで達成した証になり、
その依頼書をほかの支店で見せれば、
そこで報酬が支払われるシステムのようです。」
「へ・・・へぇ・・・。」
それは便利な仕組みだが・・・
「う、請け負うのか?」
「あら、おじ様。地道に働くことに
慣れてらっしゃるのではなかったのかしら?」
「うっ・・・!」
イタイ指摘をされて、さっそく前言撤回したくなる。
「オレは、もうちょっと体を動かす仕事のほうが
性に合うというか・・・。」
小さくてもいいから魔獣か害獣の討伐の方が
オレとしては気楽でいい。
配達は、ラクそうではあるが・・・
荷物に気遣いながら移動するのは、
どうも苦手というか・・・。
「私は、早くランクインしたいので。
では、これは私だけで請け負うことに・・・。」
「いや、待て!やらないとは言ってない!
オレも!オレもやる!」
慌てて請け負う返事をしてしまった。
しかし、木下だけが先にランクインしてしまうのは
なんだかイヤだった。
「では、この依頼は、
私たちのパーティーで請け負うことにしましょう。」
そう言って、木下は、
掲示板から依頼書をはぎ取り、
さっさと窓口へ持っていった。
『パーティー』ってなんだ?
ちなみに・・・オレは、気になって
『下着泥棒討伐』の依頼内容を
チラリと確認してみた。
下着泥棒に困っているのは、いつだって女性だ。
依頼者が女性ならば、すぐに誰かが
下心100%で請け負うようなものなのに。
「ぅげっ・・・。」
「なにが『ぅげ』なんですか?」
「うわっ!」
いつの間にか、依頼の手続きを終えてきた
木下が後ろに戻ってきていたのでビックリした。
「な、なんでもない。」
「? では、依頼を請け負いましたので、
依頼主から荷物を受け取ってきましょう。
ちょうど、この店のすぐそばにいるようですから
行きましょう。」
「あ、あぁ。」
オレは木下の後に続いて、店を出る。
・・・『下着泥棒討伐』の依頼主は、
たしかに女性だったが、『86歳』と書かれていた・・・。
討伐せずとも討伐が完了しているような気がした・・・。




