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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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傭兵斡旋会社『ヒトカリ』




なかなか大きな町である『ボルケーノ』の北東に、

例の『ヒトカリ』という会社があった。

周りの建物より大きくて、

けっこう目立った外装だし、なにより

大きな垂れ幕に『ヒトカリ』の文字があったから、すぐに分かった。

中へ入ると、広い空間があるが

ぜんぜん人がいない。

『依頼掲示板』と書かれたプレートが

壁にかかっていて、その下に大きな掲示板があるが、

そこには、2枚の依頼書らしきものが貼り付けてあった。

奥に、『受付』と書かれた窓口が2箇所あるが、

『受付』には女性が一人しかいない。

その窓口の女性に尋ねてみた。


「ようこそ、『ヒトカリ』へ。

お仕事は、だいたい午前中のうちに

みなさんが請け負ってしまうため、

この時間に残っているお仕事は、

雑用しかありませんよ?」


「あ、いや、そうじゃなくて、

オレたちは登録をしに来たんだ。」


「え、登録ですか?」


そう言って、受付の女性は

オレたちをジロジロ見始めた。


「うーん、そちらの女性なら

いいお仕事をご紹介できそうですが、

あなたの場合は、ちょっと・・・

あまり良いお仕事は無いかもしれませんねぇ。」


「そ、そうなのか?」


男女で仕事の内容が違ったりするのかもしれないな。


「それでも登録されますか?」


「あぁ、頼むよ。

それで、どうやって登録すればいいんだ?」


「こちらの契約書に目を通していただいてから

こちらの登録書にサインしていただいて、

年間登録料をお支払いください。」


「それだけでいいのか?」


「はい。」


なんと!

ものすごく簡単じゃないか。

時間もかからず、とても助かる。

受付の女性から受け取った契約書は、

ちょっとした小冊子ぐらいのものだ。

20ページぐらいはあるだろうか。

さっそく契約書を読む。


「えーっと、なになに・・・

『ヒトカリ(以下「甲」という)』と請負人(以下「乙」という)は、

甲の行う業務に関して、次のとおり業務契約を締結する、と。」


契約書のセオリーから始まっている。

依頼書の達成報酬額の表示額は、

そのまま受け取ることができるとか。

国や貴族からの依頼には、

その都度、細かい契約書を結ぶ必要があるとか。

規約違反の場合は、罰金やペナルティーが発生するとか・・・。

・・・文字ばかりで、読む気が失せる。


ふと木下を見ると、真剣に契約書を読んでいるし、

読むスピードも速い。

細かいことは、木下に任せよう。

オレは、契約書をそこそこ読んで、

さっそく登録書にサインを書こうとした。


「ちょっと待ってください。」


「えっ?」


木下が、オレを止めた。

いや、正確にはオレを止めたのではなく

窓口の女性に質問したかったようだ。


「この登録書には『ランク外』と記載されているのですが?」


「えぇっ?」


サインしようとしていた登録書には、

たしかに『ランク外』と記載されていた。


「あれ? 『ランク外』っていうのは、

つまり・・・どういうことだ?」


契約書を読めば分かるのかもしれないが、

いまいち『ランク』の意味が分かっていない。


「つまり、ランク指定の依頼書を

請け負えないということですよね?」


木下が窓口の女性に質問した。


「えぇ、そういうことです。

詳しい説明は、

そちらの契約書の5ページに記載されていますが、

ランク指定の依頼は、報酬額も当然、高額になります。

それゆえに信頼や実績がある人に依頼を受けてもらいたいので。

登録したての方々は、当然『ランク外』という

最低ランクから始めていただいて、そういう

ランク指定の依頼を請け負う資格がない者と見なします。」


なるほど。筋が通っている。

高額な仕事となると、国や貴族からの依頼が多いだろう。

そんな仕事を、実績もない者にやらせるわけにはいかないもんな。


「ということは、

みんな『ランク外』から始まるとして・・・

どうやって、そのランクをあげるんだ?」


「最初は、ランク指定がないお仕事をこなしてもらいます。

そうですね、最低でも3つから5つぐらいは

こなしていただかないと実績として認めかねますね。

実績が認められたら

一番下の『ランクF』の依頼を請け負う資格が得られます。

それを無事にこなしていただいたら

『ランクF』として認められます。」


「そうですか。完全実力主義ということですね。」


「そういうことです。

腕力や知力がなくとも、たとえ生まれが

貴族だろうと、そうじゃなくても、

みんな平等に『ランク外』から

始めていただくことになっています。」


「貴族だろうと、か。

いいな、それは。」


お金も地位もある貴族は、その財力や権力で

『ランク』を獲得してしまいそうなものだが、

そういう不平等なことがない仕組みになっているようだ。

まぁ、貴族に生まれたなら、

傭兵になるというヤツはいないだろうけど。


オレが『ヒトカリ』の仕組みについて

感心しているところ、木下がヒジで

オレの腕をつついてくる。


「おじ様、このシステムだと

今日中に登録はできても、

ランクを上げるのは無理ですよ。」


「あ・・・。」


木下に言われて気づいた。

たしかに、登録は今すぐにでも完了しそうだが、

ランクを上げるのは、今日は無理だ。

いや、この仕組みだと

旅を続けながらランクを上げるのは難しそうだ。


「オレたちは、旅をしながら

傭兵の仕事をしてランクをあげたいんだが、

それは可能だろうか?」


オレは窓口の女性に思い切って聞いてみた。


「そういう人は多いです。

大丈夫ですよ。達成した依頼書を無くさず

ほかの『ヒトカリ』の各支店へお持ちになれば、

そのうち『ランクF』の依頼を請け負う資格が

認められると思いますよ。」


「そうか、分かった。」


窓口の女性にそう聞いて、安心した。

今日中は無理でも、旅を続けていくうちに

傭兵としての仕事もこなしていけば、

おのずと『ランク』が上げられる・・・。

そうなれば、ランク指定の高額依頼も

請け負えるようになれるわけだ。


「ランクインの道のりは遠いですね。」


木下がそう言ったが、


「地道に働くことには慣れているからな。」


そう答えて、オレたちは

登録書にサインをした。





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