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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第一章 【異例の特命】
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リストラの竜騎士たち




そうして、残ったのは『リストラ』を言い渡された5人だけとなった。


オレは、ドカっとその場に座り込み、あぐらをかく。

急に、着ている鎧が重たく感じた。重すぎて、もう一歩も動けない気分だ。

鈴木は、ずっと四つんばいの格好で、うなだれたままだ。

オレの様子を見た小林も、ヘナヘナとその場に座り込み、

高橋も、イライラしながら、乱暴にドカっと座り込む。

後藤は・・・まだ立っている。直立不動だ。

やがて、後藤は回れ右をして、オレたちの方に体を向けた。

しかしオレたちには目も合わさず、その表情は、いつも通り硬い。

そして、そのまま扉に向かって歩き出した。帰る気だ。


「お、おい! 後藤、ちょっと待てよ!」


高橋が慌てて後藤を呼び止める。

後藤の足の勢いからして、止まらないと思っていたが、立ち止まった。


「お前はどうするつもりだ!?」


高橋が気になることを聞く。オレも気になる質問だ。

後藤がこちらに向き直って


「『どうする』とは?」


と、冷静な声で聞き返してきた。


「『特命』だよ。受けるのか?」


高橋が聞く。


「・・・。」


どんな時も、どんな質問でも即答する後藤が・・・高橋の問いに即答しない。

他のヤツらも後藤の答えが気になって、後藤を見つめている。

やがて、後藤は答えた。


「それを高橋隊長に答える義務はない。

ワタシの答えによって、あなたたちの

身の振り方が変わりそうならば、なおのこと・・・。

今、ここでワタシは答えるべきではないし、あなたたちもお互いの答えを

言い合うべきではない。用は済んだのだから、あなたたちも早々に帰られるがよかろう。

では、失敬。」


後藤は淡々と、そう答えて、マントを翻して退室して行った。

後藤にしては口数が多かったほうだ。


「後藤! オレの問いに答えられないのか!」


高橋は、納得できない様子で、後藤の背中に叫んでいた。

たしかに、カチンとくる口調ではあるが・・・後藤の言うことが、今は『正しい』。

ヤツはヤツなりに、オレたちに言葉を発することによって、

自分の考えをまとめようと、冷静になろうとしていたのだろう。

現に、即座に王様に食ってかかったのはヤツなのだから。

絶対服従のヤツが、初めて王様に口答えしたところを見た気がする。

それにしても・・・


「んで、お前らはどうなんだ? ん?」


高橋が落ち着きなく、オレたちに答えを求めてくる。

高橋って、こんな性格だったか?

いつもなら、感情を表に出さずに、ヘラヘラとしてて、

女の尻を追いかけることばかり考えている男が・・・。

むかついたとは言え、女である村上に怒鳴ったり、隊長たちのトップである後藤に、

食ってかかったりして・・・。この姿が、コイツの本来の姿なのだろう。


「別に、後藤に賛同するつもりはないが、たしかに他人の答えによって

誰かの身の振り方が変わってしまう可能性があるのならば、

ここで『答え合わせ』をするのは、得策ではないのかもしれんな。」


オレは、できるだけ、柔らかい口調で高橋に答えた。


「ちっ・・・後藤め・・・。」


高橋も、オレが後藤の言ったことをもう一度言うことによって、

後藤の意見を冷静に理解できたようだった。

オレも内心、冷静ではないのだが・・・誰かがパニックになっているのを見ると

逆に落ち着きを取り戻せるというか・・・。

今、オレが少しでも冷静でいられるのは、後藤や高橋が冷静じゃない姿を

見せてくれたからかもしれないな。

・・・おかしな話だ。

心が落ち着きを取り戻したところで、現状は変わらない。


「急・・・でしたね。」


顔面蒼白の鈴木が、やっと口を開いた。

鈴木の言葉を聞いて、改めて『リストラ』を実感する。

そうだ・・・この十数年間がんばってきたけど、

いきなり・・・今日、終わったのだ。

明日は、二択の中から、どちらを選択しても、

もう、いつもの生活には戻れないのだ。


「うっ・・・うぅ・・・」


小林が突然、泣き出した。いや、さっきから泣いていたのかもしれない。

40歳を越えている男が人前で泣く・・・それほどのショックだった。

オレも泣きたい気分だ。

言葉が出てこない。何も考えられない。何も考えたくない。


「ちっきしょう・・・。」


高橋がイライラして、立ち上がった。


「オレは、もう帰る・・・女、抱いてくる・・・やらなきゃおさまらねぇ。」


まるで独り言のような声で、ブツブツとそう言ったかと思ったら、

高橋は、ズカズカと早足で退室していった。

ちょっと冷静になったかと思ったが、やはり気持ちはおさまらなかったようだ。

『女を抱く』? ここ数年、使ったことも考えたこともない言葉だ。

その言葉を、同じ50代の高橋から聞いて、なんだかビックリした。

高橋・・・冷静さを失ってバカなことをしなきゃいいが。


「うぅ・・・うううぅ・・・」


小林は、まだ泣いている。はっきり言って、泣き声が鬱陶しいのだが、

今はその気持ちが分かるのでやめさせることもできない。

鈴木のほうを見たら、さっきよりは顔色が良くなった。

そして、オレと目が合った。


「佐藤さんは、さすがだなぁ。こんな時でも冷静でいられて・・・。」


鈴木は、冷静さを取り戻したようだ。いつもの社交辞令みたいなことを言い出した。


「いや、なに・・・冷静っていうよりは、どうしていいか分からずに、

ただ黙って、ただ動けずにいただけだ。」


オレは本音を言った。


「ワタシも、どうしていいのか・・・真っ白になって冷静さを失いました。

王様の御前でヒザをついてしまうなんて、情けない限りで・・・。」


鈴木はそう言って苦笑いしながら、頭をかいた。

敬語ではあるが、それが鈴木の本音だと感じた。


「うぅ・・・どうしよう・・・どうすれば・・・うぅうぅ・・・。」


小林は、まだ泣いている。

混乱した頭を、必死に落ち着かせようとして、ボソボソと独り言を言い出した。

オレは、その言葉を拾って


「どうするも、なにも・・・どうにもならねぇよな。

本当に・・・こんなことになるなんて思ってなかったからなぁ。

オレは、てっきり皆勤賞の件だと思ってたからよ。

金一封が出たら飲みに行こうってワクワクしてたのに・・・。」


少し、ぼやいてみた。

すると、小林が泣き止み、キョトンとした顔でオレを見て


「きんいっ・・・ぷっ」


と吹き出した。すると、鈴木も、


「・・・くくくっ」


と笑い出した。それが引き金となって、小林が声を上げて笑い出す。


「わははははっ」


泣いていたヤツが笑い出し、鈴木もそれに続いて笑い出す。


「あっはははは」


2人の笑い声につられて、オレまで笑い出した。


「あっはっはっは、なんだ、泣いてたヤツが、もう笑ってら!」


「わっはは、こりゃ申し訳・・・ははは、だって、あまりにも

佐藤隊長が滑稽なことを言うから・・・はっはっは!」


「くっくっく、そうですよ・・・ワクワクしてただなんて!

本当に滑稽だ!あははは!」


笑っている場合じゃない。でも、もうこれは笑うしかない。

込み上げてくる感情を、そのまま吐き出すしかないのだ。

王室にオレたちの笑い声が響く。

オレたちは呆れるほど声を出して、しばらく笑い合った。





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