首を突っ込むおっさん
「分かった。
それは、いつ聞かせてくれるんだ?」
「そうですね、今夜の宿がどこになるか
まだ分かりませんが、宿の部屋でお話ししましょう。」
誰にも話を聞かれない場所と言ったら
そうなるよな。
「ユンムの話の件は、了解した。
それで、クラテルの件は、どうすればいい?」
木下の話は、とりあえず夜までお預けということだが、
今はクラテルにどう答えるべきか。
「気になる点をはっきりさせるため、
条件付きで引き受けようと思います。」
「条件?」
「私たちが、この国を
通過するまでの間だけ協力する、という条件です。
あくまでも私たちは『特命』を最優先にします。」
クラテルの願いに応じる
義理も義務もないと言っていた木下。
その木下を説得することを、半ば諦めていただけに
オレとしては嬉しい返事だった。
「この国を抜けるまでにかかる日数は、
2~3日って話だったな。」
「そうです。このまま何事もなければ、
今夜は、王都の宿屋で泊まることになると思います。
そこから次の国境の村まで、時間とタイミング次第で
また1日か2日かかる見込みです。」
つまり、クラテルへの協力は
最長でも3日間以内だけということか。
窃盗団の鎮圧は無理でも、
なんとか情報収集だけでも協力できれば。
「せめて、窃盗団が潜伏している場所だけでも
見つけてやることができればいいな。」
「・・・そうですね。しかし、実際は
私たちが移動する道のりは、まっすぐ東へ向かうだけなので
その間に見つかる確率は、極めて低いと思われます。
この『レッサー王国』は、
『ソール王国』の国土よりも広いのですから。
一国の範囲で、隠れている人間を2日か3日で
探しだすなんて・・・厳しい状況だと思います。」
木下の分析は冷静だ。
そう言われてしまうと、とてもじゃないが
オレたちがこの国を出るまでに
協力してやれることは、かなり少ないと思う。
ともすれば、まったく役に立たないまま
この国を去ることになりそうだ。
「仕方ないことだな。
まだ隣国に到達しただけなのに、
ここで長く滞在するわけにはいかんからな。」
「おじ様がちゃんと『特命』優先ということを
忘れていないようで安心しました。」
「オ、オレはいつでも『特命』最優先に
行動しているつもりだ。」
「そうだといいんですが・・・。」
木下の中でオレは、厄介ごとに
自ら首を突っ込んでいるおっさんだと
認識されているようだ。
自覚はないが、自重していかねばならない。
「そうと決まれば、さっそく
クラテルに返事を・・・。」
と、オレが席を立とうとしたら、
木下がオレの腕を引っ張った。
「な、なんだ?」
「ダメです。」
「なぜだ?」
「今、クラテルさんへ返事をしに行くと、
おじ様は、そのままクラテルさんの横に座って
話し合ってしまい、今よりも、もっと
クラテルさんと親睦を深めてしまいます。」
「うっ・・・。」
「親睦を深めてしまうだけでなく、
要らぬことまで喋ってしまう可能性が高いです。
そして、おじ様はクラテルさんへの協力に
チカラを注ぎ込もうとしてしまう。
『特命』のことを忘れて。」
「そ、そんなことは・・・。」
すぐに反論できなかった。
木下に言われたとおりの自分が
容易に想像できてしまったからだ。
「はぁ・・・お前の観察力は大したものだな。」
オレは溜め息とともに木下を誉めたが、
「おじ様が分かりやすいだけです。」
木下からは、誉め言葉はなかった。




