ワケありの騎士
「私の父は、『赤い騎士団』の団長でした。
誰よりも強く、王国最強と謳われるほどで。
誰よりも厳しく、誰よりも優しく、誰からも好かれていて、
王様からの信頼も厚かったのです。
いつか、私も父のような団長になろうと思っていました。
憧れであり、いつか超えたい存在でした。」
・・・つい、聞いてしまった。
「わが国には、二つの騎士団があって、
ひとつが父が率いる『赤い騎士団』、もうひとつが『黒い騎士団』。
この二つの騎士団が、お互いの役割を分担して
この国を守っていたのです。
しかし、『黒い騎士団』の団長が・・・」
オレのことを「父のようだ」なんて言ったので、
つい、オレが「どんな父親か?」と尋ねてから、
クラテルは、ずーっと喋り続けている・・・。
「『黒い騎士団』は、団長が変わってから
『赤い騎士団』と何かと争うようになってしまいました。
とうとう怪我人が出てしまって。
そこで、今まで協力体制だった二つの騎士団に
優劣をつけることになりました。
どちらが王国一の騎士団なのかを
団長同士の決闘で決めることになってしまって・・・。」
ふと木下の顔を見てみたが、
いつもの作り笑顔で、クラテルの話を聞いている。
その作り笑顔が、逆に怖い・・・。
「勝った方の騎士団が、この国の騎士団を
まとめ上げることになったのです。
その決闘で、父は・・・敗れてしまいました。
しかし、父を信頼していた王様が
最初の取り決めを反故にしてしまい、
負けた父を勝者に決めてしまったのです。」
クラテルは、こちらが聞いていないことまで
ベラベラ喋りまくっている。
もはや父親の話だけじゃない。
おそらく、この国の重要な話も喋ってしまっている。
しかし、ここまで話してくれるということは、
すでに国中に知れ渡っている事実なのだろう。
「『黒い騎士団』は、『赤い騎士団』に吸収される予定でした。
しかし、一部の団員たちを引き連れて、
『黒い騎士団』の団長が、王国を去っていったのです。」
クラテルの声のトーンが下がり始めた。
「それから半年後・・・つい最近の一ヵ月前のことです。
王都からかなり離れた小さな村が、
謎の『窃盗団』に壊滅されてしまいました。
すぐに、父が『赤い騎士団』を率いて出撃したのですが・・・」
クラテルがうつむき、拳を強く握っている。
「・・・そこで父は戦死しました。
私が応援に駆け付けた時には、もうすでに
『窃盗団』の姿は無く・・・
父の首と、『赤い騎士団』たちの首が
村の中央にさらされていたのです・・・。」
クラテルの目が、また赤く充血しはじめた。
涙を堪えている・・・だけじゃない。
怒りと悲しみを堪えている目だ。
慕っている父親の惨殺された場面を
目撃するなんて・・・
相当、大きなショックだろう。
「そうだったのか。
親父殿の命を奪った相手が、その『窃盗団』か。
それで、血眼になって探しているわけだな。
なおさら、こんな『速報』など
ここで広げるものではなかったな。」
オレは、『速報』をビリビリと破り、
馬車の外へ放り出した。
木下が、ふぅっと小さな溜め息を吐いたかと思ったら
重い口を開いた。
「もしかして、『窃盗団』というのは
この国を去った『黒い騎士団』たちなのですか?」
「なに!?」
とんでもないことを言い出すな。
そんなわけ・・・
「そのとおりです。
今、この国を騒がせている『サウラ窃盗団』は、
元・『黒い騎士団』の一部の団員たち。
そのリーダーは、元・『黒い騎士団』の団長・トライゾン。」
「えっ!」
クラテルは、小声で答えた。
つまり、この情報は
まだみんなに知れ渡っていない
極秘情報ということだ。
まさか、木下の読みが当たるとは。
「主犯が分かっているので、本来ならば
指名手配して、国民たちにも協力してもらったり
警戒してもらうべきなのですが・・・
このことが知れれば、王様は国民からの信頼を失うので・・・。」
信頼とか言っているレベルではないと思うが、
どこのお偉いさんも、わが身のことしか考えないものだな。
「それで、クラテル殿のように
馬車の護衛役をしながら、窃盗団の捜索も兼ねている、と?」
「はい。でも、こうしているのは
私を含めた数人の騎士団員だけでして・・・。
父が亡くなった後に団長となったのは、
元・『黒い騎士団』の副団長で、
あの人の考えでは、あまり大人数で捜索してしまうと
かえって国民の不安をあおってしまう上に
極秘としている『窃盗団』の正体に気づかれてしまう恐れがある
という理由で、騎士団全員では捜索をしていないのです。」
悔しそうな表情のクラテル。
本当なら、騎士団全員で捜索したいのだろう。
そして、早く父のカタキをとりたいのだろうな。
「それで?」
木下が、冷めた声で言い出した。
「えっ?」
「国の極秘とされている情報を
関係のない私たちに語られたのは、
なにか理由があるのでは?」
「・・・はい。」
クラテルが少し申し訳なさそうな表情になる。
ちょっと会話の展開についていけてなかったオレも
その表情で、木下の言った意味が分かった。
・・・嫌な予感がする。
「佐藤殿は傭兵だとお聞きしましたし、
私より強いお方だと感じました。
なので、ぜひ、この私に
その力をお貸し願えないでしょうか?」
「うっ・・・。」
予感が的中した。
木下のほうをチラリと見たが、
冷めた目で、オレを見ている。
「不躾なお願いだと、じゅうぶん承知しております。
しかし、情けないことに、少人数の騎士たちでは
『窃盗団』の情報収集も難航していて・・・
それに、最強であった父さえも倒されてしまうほど
『窃盗団』のリーダーは強く・・・
今は、少しでも戦力となる人材が必要なのです!」
「いや、しかし・・・。」
「私を負かしてしまう佐藤殿なら、あるいは!
ぜひ、私のために・・・いや、この国のために!
なにとぞ、お力添えを!」
クラテルの勢いが止まらない。
対面に座っている男たちに聞かれないように
小さな声で話しているが、かなり必死な声だ。
「ちょ、ちょっと!姪っ子と相談させてくれ!」
「わ、分かりました。
この馬車は、あと2時間ぐらいで
目的の町へ到着します。
この馬車を降りるときに、
お返事をお聞かせください。」
そう言うと、クラテルは
席を立ち、最初に座っていた位置へ
ゆっくり移動していった。
「あー・・・そのー・・・ユンム。
これは、どうしたものかなぁ?」
オレは、クラテルが戻っていったのを見て
木下に小声で話しかけたのだが、
「あれほど『隠密行動』について
教えたのに、なぜ話しかけたのですか?
黙れと言ったでしょう・・・お・じ・さ・ま?」
木下の怒りはもっともで。
小声で返ってきた言葉には、
もはやトゲしかなかった。




