必須の登録
ほどなくして、馬車が動き始めた。
乗客は、オレたちの他に商人っぽい男たちが2人ほど。
2人とも、ずっとお金の話ばかりしている。
先に乗っていた傭兵らしき若い男は、
おそらく『レッサー王国』の騎士らしい。
着ている鎧に『レッサー王国』の紋章が入っている。
そうなると、傭兵ではなく
国の任務で、この馬車の護衛をしているのか。
一般の傭兵ではなく、こんな移動だけの
馬車の護衛に騎士を遣わすとは・・・。
税金の使い方が『ソール王国』とは違うということか。
ガタガタガタッ・・・ガガッタン・・・
馬車は相変わらず、よく揺れる。
国境付近の道の悪さは、自国も他国も変わらないということだ。
昨日の馬車の移動で、痛い目に遭ったオレは
乗る時に、持っていた
着替えが入った袋をケツに敷いているため、
今日はぜんぜん腰が痛くならない。
木下も、昨日と同じく『衣類』と書かれた袋を
ケツに敷いている。
道が下り坂になっているようで、
馬車の速度が速い。
これなら、目的地へ早く着くかもしれない。
オレたちは二人並んで座って、
ヒソヒソと今後の話をし始めた。
「次の町は、大きいかな?」
「さぁ、どうでしょう。
私が『ソール』へ来た時も通ったと思いますが
全然、記憶にないですね。」
「もし、大きい町なら・・・
もしかして、例の傭兵の斡旋会社があるんじゃないか?」
「あぁ、『ヒトカリ』ですか?」
「そうだ。その『ヒトカリ』の会社があれば
傭兵として登録しときたいんだ。」
長旅の間、ウソとはいえ、オレは傭兵なのだ。
昨日の馬車内での傭兵との会話のように、
自己紹介せざるをえない場合が
今後もあるかもしれない。
「登録さえすれば、昨日会った傭兵のように
『ランク』を表す紋章がもらえるんじゃないか?
それがあれば、昨日のような場面でも
ウソにウソを重ねる必要がなくなると思ってな。」
昨日の場面では、木下がいなかったら
オレが傭兵だというウソは
完全にバレていただろう。
「それに、長旅の間、
自分のお小遣いが底をつかない程度に
稼がせてもらえるかもしれないし。」
「おじ様は、ウソがばれるよりも
お金稼ぎの方がメインのようですね。」
「そ、そんなことは・・・ある。」
木下相手にウソをつくことは無理だな。
「なにせ、『特命』が急な話だったからな。
準備する時間もほとんどなかったから
持ってきた小遣いも少ないし、
家にあった物で間に合わせた
この装備品では長旅に耐えられそうにない。
どこかの町で買い替えねばならないだろう。」
剣のほうは、昨日の魔獣討伐で
じゅうぶん使えることが分かったから
当分は、この剣でいけるかもしれないが、
鎧の方は、オレが騎士になる前からの代物だ。
古すぎるし、耐久度も低い。
「つまり、いろいろ買い揃えるためにお金が必要だ。」
「旅の資金を、行く先々で調達し、
経費をなるべく使わないのは、
たしかにいいことですね。」
時間のロスになるような提案だったが、
お金のことなので、木下も納得してくれたようだ。
「ついでに、私も登録すれば
二人で稼げて、かなり経費削減できるかもしれませんね。」
「ならば、決まりだな。
次の町に、その『ヒトカリ』という会社があったら
二人で登録しよう。」
これで、宿代も稼げるな。
自分の提案がすんなり通って、
オレは一安心した。




