表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
52/502

ウソをつくコツ




眼下に広がる風景は・・・

さきほどまでいた『ソール王国』の

国境の村と大差ない。

木造の建物が、勾配のある道路を中心に建ち並び、

そのほかの場所は、鬱蒼とした森が広がっている。

スタスタと歩き、道を下っていく。

おそらく馬車に乗る停留場がどこかにあるはずだ。


「さきほどは、お見事でした。」


後ろからついてくる木下が

小声で、誉めてきた。


「なんのことだ?

オレは、何も喋ってないぞ?」


「それが一番いいのです。

『私が』教えた通り、それを実践してくれたので

無事に通ることができましたね。」


「う、うむ。」


木下は「私が」という点を強調して言った。

それが、少しイラっとさせる。


昨夜、『隠密』とはなんたるかを教えてくれた木下。

木下によれば、口下手な人でも誰でも

簡単に『真実』を隠し通すことができる方法があるという。

それが『黙ること』であった。

口下手なヤツ、またはウソが下手なヤツは

とにかく『ウソをつかなくてはいけない』と思い込み、

相手が聞いていないことまで、勝手に喋りまくり、

墓穴を掘り、自爆するのだという。

正しいウソのつき方は、

相手が質問してきたことにだけ、ただ答える。

決して、自分からは話さない。

真実に至ろうとする質問をされた場合だけを想定して、

ウソを用意しておく・・・。

なので、オレは黙ることに徹底したのだった。


そういえば、オレが女房に

ウソがばれた時は、だいたいオレがあたふたして

喋りすぎたあとだったことを思い出す。


「それにしても、関所を越えただけで

ものすごく空気が変わりましたね。」


「あぁ。」


木下と二人で、改めて眼前に広がる風景を見つめた。

『レッサー王国』の国境の村『マグ』・・・

関所から続く道路は、そこそこ広いが、

『ソール王国』の国境の村『ガ・ソール』と変わりない。

人の往来が少なく、

道に沿って木造の店が建ち並んでいる。

ただ、店で売られている食べ物が、どれも赤い。

きっと、例の『烈辛料』をふんだんに使われている料理だろう。

それらが大量に並べられているため、

刺激ある匂いが辺りに漂ってきている。

呼吸するだけで、口の中が辛くなりそうな、

そんな空気だ。


「ここからのルートは、この近くにある停留場から

また馬車に乗って、『レッサー王国』の中央部にある

王都へと向かいます。そこで馬車を乗り継いで、

王国の東へと向かっていきます。」


隠密行動としては、王都のような賑やかな場所を

避けて移動したいところだが、王都を避けて通ると

大きな遠回りになってしまう。

『特命』を最短で遂行するためにも

最短ルートを通らないと

この国に何日も滞在してしまうことになる。


「今日中に王都へ辿り着けるか?」


「どうでしょう。馬車の速度によっては

その一歩手前で宿をとらなきゃいけない時間に

なりそうな予想です。」


「まぁ、長旅だから焦る必要もないか。」


そう言いながら、停留場に向かう。




「号外~!号外~!」


停留場の近くまで行くと

速報の紙面をばらまいている男が

叫びながら駆け抜けていった。

周りの人々がその速報を拾い上げて

溜め息をついている。

オレも拾ってみた。

『例の窃盗団がまた現れた』という

見出しが目に飛び込んでくる。


「窃盗団ですか?」


オレの後ろから速報を見た木下。


「そうらしいな。

窃盗団の規模が分からないが、

すぐに鎮圧されるだろう。」


国の警備隊は、いわば国家最強の『軍隊』だ。

その気になれば、盗人の集団など

ひとたまりもないはず。


「それは・・・『ソール王国』とは

違いますから、難しいかもしれませんね。」


木下が、そんなことを言う。


「そ、そういうものなのか?」


「はい、私もその窃盗団の規模が分かりませんが、

『また現れた』と書いてあるあたり、

ここの警備隊では、なかなか鎮圧できないほどの

規模になっている可能性があります。

もしかしたら、相当な強さのリーダーがいるとか。」


「なるほど。」


自分の基準で考えてはいけないと

先日分かったばかりだが、

まだまだ、うっかり忘れてしまう。

ここの警備隊と同じレベルの窃盗団か。

戦闘を繰り返しているのであれば

それは、もはや『内戦』に近い被害が出ているのでは?


「巻き込まれないように

この国を抜けれればいいな。」


他国の面倒なことに巻き込まれるのは御免だ。

隠密行動としても、それはマイナスにしかならない。

オレは速報を腰の布袋に入れた。

馬車での移動時間で、ヒマつぶしに読むためだ。


ほどなくして停留場に馬車が来た。

『王都行き』というプレートではない。

『ボルケーノ行き』と表記されている。


「『ボルケーノ』は、

ここと王都の中間地点にある街ですね。

そこで馬車を乗り継いでいかなきゃですね。」


地図を見ながら、木下が説明してくれた。

荷物を馬車に積み込む前に、

オレは、荷物から『着替え』の袋を取り出した。

ケツに敷くためだ。


馬車に乗り込むと、騎士と思えるほど

立派な鎧の男が一人、すでに座っていた。

この馬車にも護衛役の傭兵が乗っているわけか。

男は、若い印象だったが、無精ヒゲがあり、

やたらと目が血走っていて、老けて見える。

なにより気が立ってイライラしているような感じがする。

こんな状態の男が、護衛なんて務まるのか?

むしろ、魔獣や山賊より、この男の方が危ないのでは?


ふと目が合ったが、すぐに目を背けられた。

どうやら、不愛想な男らしい。

話しかけないでおこう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ