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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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関所越え




関所は石造りで、堅牢な雰囲気がある。

周りの建物は木造が多く、関所だけが

異様な空気を醸し出している。

関所の前に、数人の旅商人たちがいる。

警備隊に通行の許可をチェックしてもらっているようだ。

警備隊員は、3名。

そのうち、2名が許可証のチェック、

1名は詰所の入り口に待機している。

関所は、トンネルのような門になっており、

トンネルは50mほどの長さ。向こうの景色がすこし見える。

トンネルの入り口の上には、

『ソール王国』の大きな国旗が掲げられている。


はて、国境警備隊の隊長は、誰だったか?

顔を見れば思い出すかと思っていたが、

今、見えている隊員たちの顔に見覚えがない。

隊長格と話さねばならないことはないが、

そのほうが、話が通じやすいと思っていただけに

ちょっと残念だ。


いよいよ自分たちの番となり、

許可証を見せた。


「あっ、佐藤隊長!」


許可証を見せるまで、オレだと気づかなかったようだ。

まぁ、なかなか他の隊員たちと会う機会がない場所だ。

今は王宮から支給された鎧も着ていないから、

気づかなくて当然だろう。


一人の隊員の声を聞き、

詰所にいた隊員も出てきた。

3名、そろってオレたちに向かって敬礼をする。

あー、見事に目立っちゃってるな、オレたち。

ほかの通行人がいなかったから良かったけど。

オレも敬礼する。


「あぁ、お勤め、ご苦労さん。

ところで、オレたちの『特命』のことは

ここにも聞き及んでいるか?」


「はい、ちょうど昨日、

早馬の伝令が来て、伝わっております。」


早馬はやうまは、

緊急の伝令がある場合にだけ用いられる。

この国で5本の指に入るほど早い馬で使いを出し、

素早く情報を伝える。

それにしても、急な『特命』のために

いろいろお金が使われているな。

まぁ、オレが『特命』を引き受けてしまったのが

人事室長の誤算だったわけだから、

この早馬の出費も誤算なのだろう。


「それで、その・・・このことは

隣りの国の警備隊には伝わっているだろうか?」


「いえ、伝えておりません。

特に伝えなければならないという決まりはないので。

それに、急な伝令だったので。」


そりゃそうだ。


「それでいい。この『特命』は

他国には伝えてはいけないということになっている。

今後も、ウワサ話は流れてしまうだろうが、

自分たちから情報を漏らさぬように注意してくれ。」


「はっ!」


これで、とりあえず口止めはできたか。


「ここの隊長は?」


「あ・・・伊藤隊長は、その~・・・。」


隊長について聞いただけなのに、

急に隊員たちがバツの悪そうな表情になる。


「もしかして、遅刻ですか?」


木下がそう指摘したが


「はっ! あ、いえ、その!」


「あっ・・・その・・・!いつもは・・・!」


3名の隊員が、オロオロしているあたり、

ここの隊長は、遅刻常習犯だと確信した。

伊藤か・・・記憶にないなぁ。

話したことも、会ったこともないだろう。

王宮へ招集される新年の時ですら、

隊長全員が集まるとはいえ、そのすべての者の

顔と名前を覚えられるわけもない。

取り立てて、特徴のある姿や性格じゃない限り、

物覚えが悪いオレは覚えられない。

遅刻ばかりするなら、相当、たるんでいるヤツなのだろう。


「まぁ、いないものは仕方ない。

我々の任務とは関係ないことだしな。

さっき言った注意事項は、お前たちから伝えておいてくれ。」


「はっ!!」


何もお咎めがないことに安堵した様子で、

3名がビシっと敬礼した。

オレたちが同じ王宮に仕える者たちということで

ほとんど質問も検査もなく、許可証だけで通してもらえた。


さて、問題はここからだ。


50mほどの長さのトンネルを歩いていく。

さきほどの敬礼や会話は、トンネルに響いていたと思うが、

音が反響して正確な言葉は聞こえてなかっただろう。


トンネルを進んで数歩、ふと足を止め、

来た道を振り返る。

後ろについてきていた木下が、

きょとんとした表情で立ち止まっている。

さきほどの隊員たちが、まだ敬礼をしていた。

その向こう・・・

『ソール王国』の風景は、村の建物や森しか見えない。


これが母国の風景、最期の見納めか・・・

いや、また絶対、帰ってくる!


想いを強く、自分を奮い立たせ、

また歩き始めた。

隣りの国『レッサー王国』の警備隊員が見えた。

隊員は、2名。詰所には、誰もいないように見える。

先に行った数人の商人たちが、まだ隊員たちの前にいたが、

ちょうど手続きが終わって、お辞儀をして通過していく。

いよいよ、オレたちの番だ。


「許可証を。」


レッサー王国の隊員が、許可証を求めてきた。

オレは、何も言わず、そのまま見せた。

途端に隊員の表情が変わる。


「ソール王国の!?」


出国許可証には、オレと木下の名前、生年月日、住所しか

記載されていないから、役職などは分からないはずだ。

黙っていれば、『特命』のことも分からないだろう。

ただ黙っているだけなのに、なにか悪いことをしてるみたいで、

オレは、内心ドキドキしてしまう。


「あぁ、そうだ。」


やんわりと答える。

できれば、それ以上、なにも聞かないでほしい。


「なにかあったのか?」


ちょっと離れて立っていた、もう一人の隊員が近寄ってきた。


「いや、ほら、ソール王国の者らしいぞ。」


「別に珍しくもないだろう。」


「いや、商人はよく通るけど、

どう見ても商人じゃないし。」


二人の隊員は、

オレたちをジロジロ見ながら話している。

そして・・・木下に視線が集中する。


「・・・なんか、すごいな。」


「あ、あぁ、ただモンじゃない感じがするな。」


こいつら・・・

いくら木下が美人だからって、

本人を目の前にしながら、

品定めするような眼をしやがって・・・。

なにか言ってやりたい気がするが、

ここで口を開くのは、まずい。

チラリと木下のほうを見たが、

本人は、いつもの作り笑顔だ。


「通っていいぞ。」


二人の隊員は、木下の姿を見るだけで満足した様子だった。

根掘り葉掘り聞かれるのではないかと

ヒヤヒヤしていたが、なにも聞かれることはなかった。

無言で、お辞儀して出口へ向かって・・・


「おい、ちょっと待て!」


ドキっとした!

無事に通過できると思って歩き始めた矢先、

隊員の一人が、大きな声で呼び止めてきた。

オレは緊張している顔になっているから、

悟られまいと、すこし後ろを振り向く程度にした。


「なに、か?」


まずい、声まで強張っている感じだ。

緊張が相手に伝わってしまう。


「おっさんに用はねぇ。

そこのお嬢ちゃん!」


「はい、なにか?」


木下は作り笑顔のまま、振り向いていた。

声に震えもない。さすがだ。


「レッサー王国は、初めてか?

ここの料理は、どれも激辛だから、

注文するときは、サラダ系を注文した方がいい。

気をつけろよ。」


よかった・・・

とてつもなく、どうでもいい情報だったが、

オレは、ものすごく安堵した。


「ご忠告、ありがとうございます。」


木下は、作り笑顔のままお辞儀した。

隊員たちが、ふやけた笑顔になっていた。


こうして、難なく関所を通ることができた。





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