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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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夜が明けて





陽が昇り始めるころに起床した。

窓の外は、まだまだ薄暗い。

年寄りは早起きだとか、そういう理由ではない。

単に、あまり眠れなかったのだ。


昨夜、木下としっかり話し合って、

男女のどうのこうのは、もう解消されている。

だから、

木下を女性として意識して眠れなかったわけではない。

あまり眠れなかった理由は、

木下が『スパイ』だからだ。

昨日、一日中、いっしょに行動して、話し合って、

木下が、少なからずオレに親しみを

感じてくれているのは分かった。

しかし、だからと言って、

木下が『スパイ』であることに変わりはない。

「お互いに寝首をかかない」というのは

あくまでも口約束だし、それを守る義務は無い。


正面から戦闘となった場合、

身体能力的に、オレが有利かもしれないが、

睡眠中の隙を突かれれば

どうなるか分からない。

だから、オレはウトウトと

気を張りながら寝ていたわけだ。


木下は、特に怪しい動きをせず、

でも、決して熟睡しているふうには感じなかった。

きっとオレと同じ理由で

気を張りながら、仮眠程度に寝ていたのだと思う。


その証拠に、早朝にも関わらず、

オレが起きだすと、木下も無言で

ムクっと起きだしたのだ。


「おはよう。」


「おはようございます。」


目が合ったので、お互いに挨拶をかわす。

その挨拶で、やっと張っていた気を緩める。


「ふわぁぁ~ぁ」


背伸びしたら大きな欠伸が出た。

とりあえず、初日の夜は

何事もなくお互いに少し眠れたようだった。

しかし、こんな日々が続けば、

体に疲れが蓄積されてしまう。

やはり、別々の部屋で就寝する方が

熟睡できる気がする。

しかし、それはそれで、いつ部屋に忍び込まれるかと

警戒してしまうだろうか?

早くお互いに熟睡できるような信頼関係を築く方が得策か・・・。




身支度をしてから

宿屋の1階で朝食を食べたのだが、

ジャムを思いっきりパンに塗ったら、

それはジャムではなく

『レッサー王国』の

名物『烈辛料れっしんりょう』のペーストだった。

臭いで気づくべきだったが遅かった。


例のごとく、オレが食べ始めるのを確認してから、

食べる木下は、この罰ゲームのような

朝食を回避していた。


「はぁー、まだ舌がビリビリする。喉が痛い。

朝から、あんな激辛料理を食べるとは、

『レッサー』のヤツらはすごい辛党なのだな。」


「そういえば、数年前に

『レッサー王国』を通過する際、

私は食事をあまり摂らないようにしていたのを

今、思い出しました。あまりの辛さに、

何も食べれなかったから、早く通過するようにしてました。」


つまり『レッサー王国』では、

辛い食べ物が当たり前になっているということか。


「ここはまだ『ソール王国』なのに、

すっかり『レッサー王国』の食文化が

この村に浸透しているなぁ。」


「東の停留場付近にも、すでにありましたね。

烈辛料は、かなり強烈ですし、

今までにない味が、あっという間に広まって

浸透してしまうのも自然な流れでしょう。」


慣れた生活に、刺激あるものが流行るのは世の常か。


「ユンムが『レッサー王国』を通過するのに

要した日数は?」


「うーん、かなり前なので正確には覚えていません。

一日では通過できなかったと思います。

二日か、三日ぐらいだったかと。」


持っている地図で見る限り、『レッサー王国』の領地は

『ソール王国』の2倍ほどだ。

やはり、それだけ日数がかかるのか。


「そうか。ならば、なおさら

今朝の朝食は、この国の料理が食べたかったな。

これで、しばらく食べれなくなるわけだし。」


「そうですね。私は、食べましたけど。」


オレが辛さで慌てふためく姿を見て、

すぐに違う料理を注文していた、木下。

本当に、いい性格をしている。


「・・・毒見役がいて、よかったな。」


「そうですね、ありがとうございます。」


木下の作り笑顔が、なんともイラつかせる。




陽が完全に昇り、外は眩しいぐらい明るくなった。

今日も良い天気に恵まれたな。

荷物をまとめ、宿泊代を支払い、宿屋を出た。

いよいよ関所へと向かう。


「この『出国許可証』を見せるだけで

何事もなく通過できるはずだが、

警備隊に何か質問されるやもしれん。

その時は・・・どうする?」


一般人には、ウソの設定で

話を通せるかもしれないが、

関所では、そうもいかない。

『出国許可証』は、いわば『身分証明証』だ。

この『出国許可証』を見せた時点で、

二人が『ソール王国』の者だとバレるわけだ。

出国の理由を聞かれた場合、

『ソール王国』側の警備隊なら

『特命』の説明をしても問題ないが、

他国の警備隊に、『特命』のことを隠して、

どう説明したものか。


「いいですね、おじ様。

ウソをつく前に、ウソの言い訳を事前に用意する・・・

隠密行動の基本的な考え方が、身についてきましたね。」


木下が他人事のように

オレを評価し始めた。


「そりゃ、昨夜、

木下先生に、しっかり教えてもらったからな。」


「誉めた途端に、『木下』と言い始めてますよ。

おじ様、マイナス50点。」


いきなりマイナスの点数を

つけられてしまった。


「わ、分かってる、ユンム。

つい口から出ただけだ。」


「いつ誰が聞いているか分からないのですから

徹底してくださいね。」


「分かってるって。

それより、どうなんだ?

関所での問答は、どうすればいい?」


「大丈夫です。

数通りの問答を想定してますから、

おじ様は、私に合わせてください。」


やはり木下は頭がキレるな。

さすが『スパイ』と言ったところか。

頼もしいが、このまま味方でいてほしいものだ。


「では、頼りにしているぞ。」


「おじ様は、余計なことを口走らないように

気を付けてさえいてくれればいいです。」


「う、うむ。善処する。」


オレは釘を刺されて、背筋を伸ばした。




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