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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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誓わされるおっさん



木下との話し合いの末、

今後は、二部屋を用意できる宿に限っては

オレが自腹で自分の部屋代を払って

別々の部屋で泊まるというルールになった。

ただ、二部屋用意できない宿の場合は

いっしょの部屋で泊まることになる。

そして、オレの所持金が無くなった時も

一部屋で泊まることになる。


でも、今のオレはウソの設定ではあるが『傭兵』だ。

所持金が無くなる前に、

旅先で、傭兵としての仕事をこなしていけば

金欠になることもない・・・かもしれない。

オレは、そんな安易な考えもあり、

木下が提案したルールを承諾したのだった。


とりあえず今夜だけは、

二人一部屋という状況に早く慣れるために

このまま泊まることになった。

木下はオレを意識していないのだから、

あとはオレが木下を女性として意識しないように

慣れるしかない。

ウソの設定どおり、『姉の娘のまたいとこ』として

見なければ・・・あれ、『姉の息子の子』だったか?

また、木下に聞かねばならんな。


木下は、しっかり寝間着に着替えなければ

眠れないらしく、着替えるために

洗面所へと行こうとしていたが、


「そうそう、今一度、確認しておくことがありました。」


と言って足を止める。


「改めて言いますが、おじ様は、

私より身体能力が高く、戦闘能力においても私より上です。

昼間の魔獣討伐を見て分かりました。

おじ様が本気で私を襲った場合、

私は成す術もないでしょう。」


「な、なにを!?」


なにを言い出すんだ、こいつ。


「私が攻撃魔法で抵抗しようにも

詠唱する前に接近されれば、

無抵抗のまま襲われてしまうと思われます。」


「そんなことは!」


「そんなことは、万が一にもない、と・・・

おじ様が、女性に危害を加えない紳士的な男性であり、

騎士道の精神を遵守する騎士である・・・

そう、おじ様は言いたいのですよね?」


「そ、そのとおりだ!

オレは、そういう男だ!」


なんだか、言わされた感じがするが、

木下の言っていることに間違いはない。

オレは、女性を襲うようなゲスではない!


「私も、おじ様はそういうお人であると信じております。

つまり、私が同じ部屋で着替えをしても、

私が、ここで裸になっても、

おじ様が私を襲うことはない・・・ということですよね?」


木下が、その場で裸になろうとしているような気がして

オレは顔を真っ赤にしながら、慌てて反論した。


「ば、ばかもの!

オレが襲わないのは事実だが、だからと言って

男の前で、お前が裸になっていいわけではないぞ!

いかに気を許していたとしても、

他人の前で無防備になるなよ!分かったか!」


木下は、表情を変えず


「分かっております。

私もそこまで、バカではありません。

今の言葉を聞けて、改めて安心いたしました。」


そう言って、クスっと笑った。

おそらく、自分の予想通りの反応をオレがしたのだろう。

うまく乗せられた気がして、さすがにイラっとする。


木下は、脱衣所の扉の前で

またオレに向き直り、


「覗かないでくださいね。」


と、作り笑顔のまま言った。


「覗くか!」


イラっとさせられて、つい怒鳴ったが、

木下の方は意に介さず、クスクス笑いながら

脱衣所へ消えていった。


あー・・・

若いヤツに、いいように弄ばれている気分だ。

イライラする!

次の宿では、絶対に部屋を別々にする!


娘と同じような年頃なのに

育ちによって、こうも違うものか。

香織はもっと無口で・・・

いや・・・オレと口を聞いてくれないだけか。

きっとオレが知らないだけで、

家の外では、こんなふうに他人と話しているのかもしれない。

当たり前か。

そうじゃないと結婚できないわけだからな。




こんな会話がしたいわけじゃないが、

もっと砕けた会話を

嫁いでしまう前に香織としたかったなぁ・・・。

今さらだが。




性悪な木下のせいで苛立った気持ちを

落ち着かせるように、オレは部屋の窓から

宿の外に目を向けた。

村の入り口から関所までの道沿いに

家や店が建ち並び、灯りがポツポツと並んでいる。

それ以外は、ただただ広い田畑が広がっているせいで

真っ暗だ。

角度があって関所の灯りは見えないが、

なんとなく、オレは関所のほうへ視線を送る。


明日は早めに動き出し、関所を越える予定でいる。

関所に駐在してる『ソール王国』の警備隊には

すでに今回の『特命』のことは通達してあるはず。

ただ、『レッサー王国』側の警備隊に

その話が、どのように伝わっているのやら。

もしかしたら、話が通じていない可能性もある。

そのときは、どう説明して納得させるか。

『特命』のことを説明できれば、

造作もないことなのだが。


「『特命』の任務だけでも大変なのに、

そのうえ、『隠密行動』で遂行するなんて、

バカ正直だけのオレには

ハードルが高すぎる任務だよなぁ・・・はぁ~。」


思わず、ため息が出る。


オレは自分の知能が低いことを自覚している。

魔獣の名前すら、まともに覚えられない。

よく学校を卒業できたものだ。

だからこそ、ウソがつけない。

「ウソをつきたくない」のではなく「つけない」のだ。

ウソは、架空の設定を

いちいち覚えていないと隠し通せない。

いつ、だれに、どんなウソの設定を話したか・・・

そんなもの、オレはいちいち覚えていられない。


腹を割って話すのは得意だ。

ただただ本音を語ればいいだけだから。

腹の内を探って話すのは苦手だ。

もし、木下と腹を割らずに、腹の探り合いで

説得しようと思えば、きっと

木下の協力は得られず、この国から逃げられていただろう。

いや、木下がもっと悪知恵を働かせば、

逆に利用されて、抹殺されていたかもしれない。


頭の悪いオレが警戒するだけ無駄かもしれないが、

木下の策略にかからないように・・・

この国がオレのせいで、危機的状況にならないように、

気を引き締めねば・・・。






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