相部屋問題
「つまり、ユンムは
オレと寝食をともにしていても、
なんら弊害はないと、そう言いたいのか?」
「はい。」
「オレがこの場で裸になっても?」
「はい。」
・・・開いた口が塞がらなくなりそうだ。
「本当か!?
そこまでいくと親戚がどうこうよりも、
女性として、その反応はどうなんだ?
たとえ、親戚でも
その距離感は、おかしいと思うのだが?」
こいつと話していると、
なんだか、ここまでこだわっているオレのほうが
おかしいのではないか?と錯覚してしまう。
「ユンム、もしかして・・・
親父さんとお風呂とか、何歳まで入っていた?」
「えっ?
今、そんなこと問題では・・・。」
「いや、こうして話していて、
お互いの『異性への距離感』の認識というか
常識が、こんなに違うものかとオレは感じている。
たとえ、親戚であっても、だ。
だから一番近い異性であり、家族である
親父さんとの距離感を聞きたい。
何歳まで、いっしょに風呂に入っていた?」
「私は、お父様といっしょに
湯舟へ入ったことはありません。」
きっぱり言いきった木下。
その回答に、すこし安心して、
オレは、水を飲みながら、
「なんだ、そうか。
てっきり大きくなっても、いっしょに
入っているのかと・・・。」
「娘として、いつもお父様のお背中を流す程度です。」
「ぶはっ!!!」
オレは思わず、水を噴き出してしまった。
「おじ様、汚いです。」
「ゲホッ!ガハッ!」
オレは水で、むせ返りながら
「ゴホッゴホッ!
ふぅ・・・ユンム、あのな・・・。」
オレは、世間一般的な
『父と娘』の距離感について、ユンムに説明した。
実例は、オレと娘・香織の話だ。
オレといっしょに風呂に入っていたのは、
幼い頃までのこと。
自分で自分の体を洗えるようになるまで、だった。
そのあとは、周りの同性の友達が
次々に「父親と風呂は有り得ない」という話が
『常識』として刷り込まれ、
自ら一人で風呂へ入るようになった。
それをキッカケに、少しずつ
娘はオレと距離を開けていった・・・という経緯だ。
周りの父親となった者たちの話も似たようなものだった。
つまり、それが世間一般的な『父と娘』の距離感なのだ。
「ちなみに、ユンム。
お前が裸を見せた異性は、親父さんだけか?
お前が見た異性の裸は、親父さんだけなのか?」
「はい・・・。」
ちょっと気まずそうに答える木下。
だいたい、木下の親父さんって
『ハージェス公国』の大臣だろ。
娘にどんな教育してるんだ。
それとも、これは
お金持ちならではの常識なのだろうか?
「・・・はぁ~。」
「そこで溜め息をされると
さすがに傷つきます!
これでも処女であることを
少し恥ずかしいと思っているのに・・・!」
「いや、そこまで聞いてないぞ!」
「あっ!」
木下が「しまった」という顔をしている。
なんか、こいつ、オレと話している時だけ
スパイとしてマヌケになるなぁ。
「い、今のは忘れてください・・・。」
木下の顔が真っ赤になっている。
自ら知られたくない情報を漏らすとは。
まさか、これも演技か?なにかの策略か?
「あー、ともかくだ!
話を戻すが、本当の父親にすら
その歳で裸を見られるのは、一般女性として
恥ずかしいこと、イヤなことなのだ。
さきほど、オレの裸を見るのは
ぜんぜん問題ないと言っていたが、
逆に、オレの前で裸になるのは問題だろ?」
「問題・・・なのでしょうか?
お父様と似たような存在として、おじ様を見ているので
お父様と同様に、普通におじ様の
お背中を流せる気がしてました。」
「おいおい。」
そりゃ、嬉しいけど。
こいつの貞操観念はどうなってるんだ?
「そりゃダメだ。
親父さんとの距離感については・・・
各家庭の事情だから、一概に、
一般常識を押し付けれるものではない。
だから、お前が今後も親父さんの背中を流してやることに
オレがどうこう言うつもりはないが、
オレと親父さんは、別の人間だ。
たとえ、演技で親戚の間柄であっても
赤の他人、親父さんとは別の『異性』なのだ。」
「・・・。」
なんとなく困り顔の木下。
まぁ、自分が『常識』として信じてきた情報が
世の『常識』と違っていることを指摘されれば
誰だって、理解と納得するのに苦しむものだ。
「お前にも本当の親戚がいるだろ?
本当の叔父という『異性』に対して、
裸を見られることを想像してみろ。イヤじゃないのか?」
「うっ・・・たしかに。
でも、それは私が特別に本当の叔父を
嫌っているから、イヤだと感じるわけで。
こうして、お父様のような親近感がある
おじ様に対しては、あんまりイヤって感じないような・・・。」
それはそれで、
ちょっと嬉しいような・・・じゃなくて。
「そうか、本当の叔父という人物は
あまり好きではないか。
これ以上の余計な詮索はしないが、
オレがその叔父に似てなくてよかったと、今は思うし、
『スパイ』であるユンムが、親父さんに少し似ているってだけで
オレに対して、そこまで警戒心がなくなるわけだから、
今は、素直に似ててよかったと思うよ。
しかし、だ。
お前が親近感を感じるのは、本当の親父さんだけにしろ。
オレに対しては、というか
ほかの男に対しても『女』としての隙を見せるな。
分かったな?」
オレが、あえて「スパイ」という言葉を使ったからか、
木下の表情が固くなった気がする。
「そうですね。
裸は、もっとも無防備な状態・・・
老若男女問わず、相手が誰だろうと
そのような状況下に身を置かないのが鉄則ですね。」
そういう鉄則があったのか。
だったら、ちゃんと厳守してくれよ。
「そういうわけだから、一部屋に
オレと同室で寝食をともにするということが
お互いに、よくないってことで・・・。」
「それとこれとは話が別です。」
「おいーーー!」
また話が最初に戻るのか。
木下が、真面目な顔のまま話を続ける。
「裸を見せ合わなければ問題ないはずです。」
「さっきの鉄則はどうした!」
「それよりも、長旅に必要な『お金』の問題が最優先事項です。
ここの宿代が、一部屋単位での値段になっています。
つまり、一部屋に何人泊まろうと同じ値段なのです。」
「あぁ、それは逢引き宿と同じ手法だな。」
「あいび? なんですか、それ?」
しまった。この手の情報を
木下は知らないから通じない。
オレも説明などしたくない。
「あ、いや、関係ない話だった。すまん。」
「・・・話を戻しますが、
一人で一部屋ずつ泊まると、当然、宿代が2倍になります。」
「分かっている。
だから、経費がかかると言うんだろ?
だったら、オレが自腹で払う分には問題ないよな?」
「問題、大ありです。
長旅なのですから、自腹もなるべく控えないと
すぐに散財してしまいますよ?
だからこそ、経費を最大限活用しなければなりませんが、
経費も限りがあるので、無駄使いはできません。
だから節約しなければならないのです!」
お金に関しては、あまり長けていないオレ。
木下の話を聞いているだけで、
だんだん、めんどくさくなってくる。
「なんで、そんなに真面目なんだ・・・。」
オレが独り言のように言ったが、
「これでも王様の秘書でしたので。」
木下が、あの作り笑顔になって答えた。




