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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
464/503

騎士たちの酒盛り




大きな町『メトレイオフロン』から、町『クルド』へ到着したのは、

すっかり日が暮れてからだった。

空は大きな雨雲に覆われていて、時間が分からないほど暗い。


ザァァァァァァァァ・・・


昼間の暑さを忘れさせるほどの、冷たい雨が降っている中、

大型馬車の御者に、宿屋の情報を聞き、そこへ向かった。

ニュシェの負担になっていると知りつつも、

クラリヌス・・・ブルームを背負う役目は、ニュシェだ。

馬車での移動中に、しっかり休めたからと笑顔で

引き受けてくれているニュシェだが、馬車での長距離移動は、

ただ乗っているだけでも、なんとなく疲れてしまうものだ。

早く休ませてやらねば。

この町『クルド』は、そこそこの規模の町だ。

あの『クリスタ』の町と同等か。

御者に教えてもらった宿屋『マナオ』は、馬車の停留場から、

ちょっと距離があり、オレたちの体は、

冷たい雨ですっかり冷え切ってしまっていた。

吐きすぎて、ぐったりしているブルームの体が心配だ。


宿屋『マナオ』は、2階建ての大きな宿屋だった。

遅い時間だったが、空き部屋がたくさんあったので助かった。

ただし、ここも高額の宿代だ。

オレたちが一泊するだけで、そこそこ高価な武器が買える額。

しかし、今から安い宿を探すことは無理だと判断して

オレたちは、そこに泊まることにした。

値が張るが、3つの部屋を用意してもらった。

人数分の部屋を用意することも可能だったようだが、

ブルームを一人には出来ないから、また二人ずつの部屋にしてもらった。


一刻も早く、ブルームの体を風呂で温めて、

早く休ませてやらねばならないので、

女性陣が風呂へ入っている間に、オレとファロスで

食事を買ってくることにした。

宿屋の一階の奥に位置する食堂がとても広く、

そこには大勢の客たちが騒いでいた。

どうやら商人の格好をした者たちが多いようだ。団体客か?

とても賑やかで、酒を飲んで騒いでいる客たちを

オレは、うらやましそうに見てしまっていた。

が、我慢だ・・・。


適当に、肉と魚の料理と、サラダとスープを注文して、

ブルームたちがいる部屋へと運んだ。

女性陣には、先に食べてもらい、

オレとファロスは冷えた体を温めるために風呂へ入った。

ファロスは、あまり体が冷えていないと言っていたが、

一応、入らせた。オレの体の方が冷えているのは、

ファロスよりも筋肉が少なく、脂肪が多い証拠か。

早朝鍛錬だけでは、いつまでもファロスには及ばない、か。

もっと筋力の底上げをするための鍛錬が必要かもな。


風呂上がりに女性陣のいる部屋へ行って、

オレたちも食事に加わった。

ブルームは風呂で体を温めてから、ベッドで休んでいたが

オレたちが部屋へ来たタイミングで、起き上がり、いっしょに食事を始めた。

起き上がって来たブルームは、

いつの間にか、アルファの人格に入れ替わっていた。

気分が悪いが、スープだけでもと、

スープをかみしめるように、ゆっくり飲んでいる。


「昼間は、ありがとうございました。

私の中で、言い表せない感情が何なのか?が分かって・・・

体調は優れませんが、気分は晴れた気がしました。」


アルファは、こっそりとオレにそうお礼を言った。


「いや、なに・・・

オレも昔の思い出を思い出せてよかったよ。」


「?」


オレがワケの分からない返事をしたため、

アルファは首をかしげていた。


オレとしては、忘れていた娘との大切な思い出を

思い出せて、本当に良かった。

あの頃までは、オレのことを父として想ってくれていたんだよな。

それが、いつの間にか・・・

香織は思春期になってから、態度が変わってしまった。

思春期とは、そういうもんだとも思う。

だから、態度が変わったのは、ごく自然で、当たり前のことで。

それとも・・・態度が変わってしまったのは、

思春期だけが原因ではなかったかもしれないが・・・。


「大丈夫ですか?」


「ん? あぁ、大丈夫だ。」


オレが急に無言になったためか、アルファに心配されてしまった。

今、ここで考えても答えの出ないことは

考えないようにしよう。

オレは、シホの食べっぷりをマネするように

唐揚げに手を伸ばした。




この日の夜は、みんな早めに眠れた。

高値ではあるが、宿屋で、

男女別々の部屋で眠れるのは本当にありがたい。

やはり野宿したり、床で寝たりするよりも、断然、体が休まる。

そして・・・寝る前に確認したが、

今夜、荷物には手紙っぽい物は入っていなかった。

無駄に夜更かしすることなく、眠れた。これもありがたい。




翌日の早朝、オレはファロスが起きる時間に、

起こされる前に自分で起きられた。

昨夜の雨がウソのように、今朝は晴れていた。

今朝も早朝鍛錬。ファロスは外へ走りに行き、

オレは、起きて来たニュシェ、シホ、アルファたちとともに

部屋の中で、筋力の基礎鍛錬をした。

腕立て伏せや屈伸運動だけでも、衰えを感じる。


朝食後、木下と話し合って決めたことだが、

すぐに出発しないことにした。

せめて、朝食べた物を体が消化するまで、数時間待ってから。

そうしないと、アルファの体への負担が大きいからだ。


だから、オレたちは昼近くまで、自由に行動した。

女性陣は町へ買い物へ出かけた。

この国での無駄な買い物は避けるようにと

オレへ言っていたくせに、やたらと買い物へ行きたがる木下。

やれやれ、また荷物が増えるんだろうな。

オレは一人で部屋に残り、基礎鍛錬をしていたが、

いつの間にか、ファロスまでいっしょにやり始めた。

・・・お前に追いつくためにやっているようなものなのに、

お前がやったら、追いつけないじゃないか・・・。

とはいえ、この老体が今さらがんばったところで、

若いファロスの体力や筋力に追いつけるはずもないけどな。

しかし、ファロスがいることで、やたらムキになって

がんばってしまった。気づけば目標よりも多く回数をこなしていた。

暑くなった気温とともに、部屋の温度が蒸し暑い。

・・・つ、疲れた。


昼近くに買い物から帰って来た女性陣たちと合流し、

オレたちは宿屋『マナオ』を後にして、

大型馬車の停留場へ向かった。

昼食抜きで、そこそこの行列に並んで大型馬車へ乗った。

昼食を抜いたのは、やはりアルファのためだ。

アルフェが食べてしまうと馬車の揺れに

胃が耐えられないからだ。


町『クルド』を後にして、馬車が目指すのは

北の方角、次の町『ゼーレーヴェ』。

昨夜は真っ暗で分からなかったが、町の出入り口から

町の外へ出た時、町『クルド』の周りにも、

多くの貧困の者たちが、小さなテントを張って生活している様子が見えた。

本当に、この国は、どこの町も同じ感じだな。


馬車内は、大勢の乗客たちで埋まっていた。

高額の運賃の馬車でも、こんなに人が乗っているとは。

しかし、その理由は、

乗客である商人たちの話声で明らかになった。

どうやら、帝国軍が町『アンザー』で

討伐軍を編成中であることが、ウワサになっているらしい。

当然、そこへ武器や道具が必要になってくるからと、

商人たちが、その町を目指して移動しているようだ。

やはり、人の口にはドアを立てられぬ・・・。

ウワサが国全体に広まるのも時間の問題か。

そうなれば、敵にも勘付かれて・・・いや、そのウワサが

広まり切る前に、討伐の日になれば大丈夫か。


満員の馬車の中、オレは席に座らず、立っていくことにした。

ほかの国よりは揺れが少ない馬車での移動だが、

ただ座っているよりも、立っている方が足腰の筋肉を鍛えられるからだ。

それを察したのか、ただの付き合いか、

ファロスも他の乗客に席を譲り、立っていた。

少しふらつくオレに対して、ファロスは涼しげな表情で立っている。

・・・この筋肉バカめ。


クラリヌス・・・アルファは真っ青な顔色をして、

布袋こそ手にしているものの、吐かずに耐えていた。

乗客が多すぎる馬車内で吐いてしまえば、

またイヤな視線を集めてしまうからか。

あまり我慢させたくないのだが・・・

この馬車での移動自体が我慢をいているようなものか。


整備された街道をひた走る、大型馬車。

日差しは暑く、ほろの中まで暑くなっているから、

外からの風がとても涼しく感じる。

途中で、馬の水飲み場のような池が見えていたが、

御者は、そこでは停まらず、かなり離れた見通しの良い草原で一旦停車した。

荷物に積んでいた水を馬に与えていた。

それもそのはず。途中で見えた池の周りには、多くの『ゴブリン』の死骸が、

ごろごろ転がっていたからだ。ほかの動物の死骸も見えた。

おそらく、やつらは移動中の馬は速すぎて襲えないから、

水を飲みに停まった馬車や集まって来た動物を襲っているのだろう。

本当に、ずる賢い魔物だな。

そんな魔物が、国全体に散らばってしまっている。

早く、住処を掃討そうとうしなければ。




そんな調子で、オレたちを乗せた満員の大型馬車は

日が沈む前に北の町『ゼーレーヴェ』へ無事に到着した。

この町の外にも貧困の者たちが多く住んでいた。


今日はここで宿を・・・と思っていたが、アルファが首を振った。


「今日は調子がいいので、このまま次の馬車に乗りましょう。」


「しかし、無茶をしては・・・。」


「次の町『アンザー』まで、ここから何時間かかるのでしょうか?

依頼には、明日10時に集合とあります。

私は、体への負担よりも、依頼失敗のほうが怖いです。」


たしかに正論だが、青ざめた顔色のアルファから聞いても

説得力に欠けている。しかし、集合時間に間に合わなかったら・・・

そう思うと、アルファの意見は、やはり正しい。

オレたちは、アルファの意見を尊重して、

そのまま次の町行きの大型馬車へと乗り込んだ。

今日の最終大型馬車だからか、商人が2人だけしか乗ってこなかった。

ほとんどの商人は無理に急いで町『アンザー』を目指さないようだ。

がら空きの馬車内では、オレとファロスも席に座れた。

オレとしては、今回も鍛錬を兼ねて、立って行きたかったが、

オレが立っているとファロスが付き合って立ってくる。

ファロスを休ませるためにも、オレも体を休ませることにした。


馬車が走り出すと、やはりアルファは布袋を片手に

吐き気と闘うように、青ざめた顔色で耐えていた。

本当につらいだろうに・・・。


「アルファさんは、この先、

バンダナで顔を隠すことをオススメします。」


ほかの乗客が少ない状態だからか、

木下が、こそこそと、アルファにそう話しかけた。


「できれば、『ヒトカリ』でも、そうすべきでしたが、

傭兵登録の際には、係の者に

素顔を見せなければならないという規則がありまして、

指名手配犯などの犯罪者ではないことを証明するためなのです。

登録さえ済めば、顔を隠していても大丈夫なので・・・

できれば、この国にいる間だけでも、

せめて帝国軍の前だけでも、顔を隠しておいた方が

『エルフ』であることがバレる可能性が低くなります。」


木下の言うことも、もっともだ。

ローブを頭から覆っていたとしても、

戦場では、簡単に脱げてしまう可能性がある。

顔を覆うというよりは、隠している尖った耳を

バンダナで、うまく隠してしまったほうが、

ローブが脱げてしまっても、『エルフ』だとバレにくいだろう。


もう、アルファに対して

オレたちは、パーティーの仲間という認識になっているが、

帝国軍にしたら、アルファは大昔、反逆の罪に問われた罪人なのだ。

たとえ、それが冤罪だったとしても。

おそらく、今も生きているとは思っていないだろうし、

顔を見てもピンとくるやつはいないだろうが、

『エルフ』ということが知れれば、カンのいいやつは

気づいてしまうかもしれない。

バレてしまった場合は、全力で守るつもりだが、

できれば、余計な争いは避けて、旅を続けたい。


アルファは、気持ち悪くて青ざめた顔色のままだが、

木下の提案に、うなづいていた。




大型馬車は、暗い夜道をひた走り、

2時間か3時間後には、町『アンザー』に無事到着した。

そこまで離れた町じゃなくて助かったな。

すっかり暗くなった空には、たくさんの星が輝いている。

明日も晴れて、暑い日になるかもな。


町の出入り口には、帝国軍の騎士たちが数人いて、

馬車を止めて、車内を簡単に確認してきた。

その時には、アルファはバンダナで顔を覆い隠していたが、

特に騎士たちの目に留まることは無かった。

細かく確認されなくて助かったが、

ここまで緩い警備だと、逆に不安になる。

ここの騎士たちは大丈夫なのか?と。


「警備が厳しいな。

今までこの町の出入り口で停められたことなんて・・・。」


「いや、ありゃ討伐軍のせいじゃなくて・・・。

ほら、例の暗殺者の・・・。」


「あぁ、音楽家の・・・だから楽器らしき物を持ち込んでいるかを

確認してるってことか。・・・ピリピリしてる感じが・・・。」


「世界一の・・・だからな。物騒だよな。」


目の前の商人たちが、そんな話をしていた。

小声すぎて聞こえにくかったが、騎士たちが警戒しているのは

例の、世界一の暗殺者か。なるほど。

だから、荷物しか見ていなかったわけか。

つまり、まだその暗殺者は見つかっていない。捕まっていないのか。

世界一の暗殺者なら、見つけることも難しそうだな。

・・・あの町『フルーメン』で見かけた、あの素晴らしい音楽家が、

本当に、世界一の暗殺者だったのだろうか?

遠目からしか見ていないから、全然特徴を覚えていないが。


その後、馬車はゆっくりと町の中へと入っていく。

なるほど、討伐軍のウワサが流れてしまうわけだ。

町の至る所に騎士たちがいる。異常な光景。

まるで戦時中の町のようだ。


大きな噴水がある広場で、大型馬車が停まった。

今回は、最後まで吐くことが無かったアルファ。

しかし、顔面蒼白だから、早く休ませてやりたい。


「んー、こんな時間だからなぁ。

たぶん、宿屋はどこも満室だと思ったほうがいいよ。

今は、帝国軍が貸し切っている宿屋もあるくらいで、

いつにも増して宿泊部屋が少ないからなぁ。」


木下が御者に宿屋の情報を聞いてみたが、

今から泊まれる宿屋は無さそうだ。


「夕飯の時間も過ぎてるけど、

飲食店は、まだやっているところはあるだろうから、

宿屋は諦めて、飲食店を探した方がいいんじゃないか?

あー、腹減ったー。」


シホが背伸びしながら、そう提案する。


「食堂がある宿屋もあるはずなので、

そういう宿屋に入りつつ、遅いけれど夕食にしましょう。」


木下がそう提案した。

結局、木下の提案でみんなが納得したので、

大きな広場からの大通りを歩き、町の出入り口へ向かいつつ、

大通りに面している宿屋を見て回る。


しかし、予想通りというか、あの御者の言う通り、

食堂がある宿屋はあっても、宿泊部屋が空いてなかった。


「仕方ない。ここで食事だけして、今夜は野宿だな。」


オレがそう判断したが、みんな賛成してくれた。

実際、宿泊部屋が空いている宿屋を、この時間から

探し回るよりは、さっさと諦めて野宿で体を休めたほうがいい。


ガヤガヤ・・・ ザワザワ・・・


宿屋『ガイム』は、そこそこ大きな宿屋だった。

夕食の時間を過ぎていても、一階の食堂には大勢の客たちがいる。

人気がある店なのか・・・と思ったが、そういうわけではなさそうだ。

客のほとんどが、騎士たちだからだ。

鎧を脱いでいても、みんな同じ服装で、それなりの体つきをした

男たちしかいないから、すぐに分かる。

それに、数名は夜の見張り当番なのか、装備をしたままの騎士もいる。

おそらく、こいつらが宿屋の宿泊部屋を

団体で、独占してしまっているのだろう。


「うぉぉぉーーー!」


「負けるかーーー!んぎぎぎぎっ!」


酔っぱらった騎士たちが腕相撲をして遊んでいる。

オレも大学時代には、酒場で友達と遊んだものだ。若いな。

しかし、少々、騒ぎすぎているな。

騎士っぽくない一般の客たちが、

渋々、席を立って店を出て行った。

おかげで、オレたちの座る席が空いたわけだが・・・。


「どうする? ほかの店を探すか?」


シホが、そう言いだした。

腹が減って仕方ないという感じだったのに、

この場の異様な空気を感じ取ったらしい。


「俺はかまわないけどさ。」


シホは、そう付け足す。

傭兵歴が長いシホなら、こういう空気の酒場など

何度も経験している事だろう。

おそらく、木下やニュシェ、アルファのことを気遣って

そう言ったのだろうが、


「私もかまわない。とにかく喉が渇いた。」


オレが答えるより先にアルファがそう言ったので、

オレたちは空いた席に座った。


「おい、見ろよ。」


「おいおい、いい女連れてるじゃねぇか。」


「ちょうど華が欲しかったところだ。」


「はははははー!」


すぐそばのテーブルに座っていた騎士たち3人が

よろよろと立ち上がり、こちらのテーブルに近づいて来た。

やはり、こうなったか。

こういうやつらは、集団で酔っぱらうと気持ちが大きくなってしまう。

普段は真面目に働いているやつでも、酔ってしまえば、

こういう空気に飲まれてしまうものだ。

オレは、ふと周りを見渡した。

これだけの団体、人数ならば、上官もいっしょにいるのではないか?

しかし、それらしき者が見当たらない。

つまり、責任者が不在ということだ。やれやれ。

下手に刺激しないようにせねば。


オレは3人を無視して店員を呼ぶ。


「注文を頼むー!」


「はーい!」


奥のテーブルの相手をしていた若い男の店員が、

オレの声に応えてくれた。

店員が来れば・・・店の者がそばにいれば、

少しは目を覚ましてくれるかと期待してみたが、

騎士たちは、店員がこっちへ来る前に、

木下たち女性陣へ話しかけてきた。


「おい、お前、名前はなんていうんだ?」


「ここの者ではないな? 旅の者か? 傭兵か? ん?」


「こっちに来て、いっしょに飲もうぜ。」


息が酒臭い。かなりの酒を飲んでいるようだ。

これは、ちょっと・・・まずいな。


「帝国軍の方々、ご苦労様です!」


「んお?」


オレが女性陣たちの間に割って入ろうかと思っていたが、

すぐに、シホが立ち上がり、


「俺たちは傭兵のパーティーでして。

明日の討伐軍に参加予定です。

どうぞ、よろしくお願いします!」


さっさと自己紹介を始めてしまう。

勢いがあるが勢いだけで、この酔っ払いたちをかわせるかどうか。


「おぉ、やけに威勢がいい・・・女だったのか。」


「女~? そうか、そうか。」


「女なら、お前もこっちへ来て、いっしょに飲め!」


騎士たちは、シホのことを女性だと気づいていなかったらしい。

まぁ・・・その傭兵の格好といい、その、まぁ・・・

他の女性陣と違って、スリムな体型なのだから、

女性に見えないのも仕方ない・・・と思う。

オレも最初は勘違いしていたからなぁ。


騎士たちの失礼な反応に、シホは少しムッとしていたが、


「みんなは、ここで食べててくれ。

俺は、こいつらのテーブルで食べてくるから。」


そう、こそっと、みんなに言い残して、


「さぁさぁ、あっちで食べましょう!」


3人の騎士たちの腕を引っ張って、

隣りのテーブルへと連れて行ってしまった。


傭兵歴が長いシホらしい、酔っ払いの対処法だな。

犠牲役にさせてしまった。

オレがその役目を引き受けたかったが、

見た目からして、ジジィのオレでは、

あの酔っ払いたちの標的を、

女性陣からそらすことは難しかっただろう。


「大丈夫でしょうか、シホさん・・・。」


「心配ですね・・・。」


木下とアルファが不安な表情で、隣りのテーブルのシホを見ている。

ニュシェも不安そうだ。

しかし、よく見ていれば、シホのやつは

ペラペラ喋りながら騎士たちをおだてて

笑わせたり、気分を良くさせている。

酒を勧められても、飲むふりをして喋り続けている。

酔っ払いの騎士たちでは、

シホが酒を飲んでいるかなんて分からない。

なんだかんだとテーブルの上にある料理をつまみ、

なんとも楽しそうだ。

騎士たちが、こっそりシホの体に触れようとしても

のらりくらりとかわしている。さすがだ。




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