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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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王国の秘密




魔獣たちの死体に火をかけて、燃やしたあと、

オレたちは、すぐに出発した。

魔獣の死体を放置しておくと、

ほかの魔獣を引き寄せてしまう。

その魔獣たちが死肉を食らった後、

そこに居ついてしまわないためにも

焼却しておくのが最適な処置だった。


また腰が痛くなる、馬車での移動。

御者が言うには、あと3時間ほどで

国境の村へ着くらしい。

あたりは、すっかり夕暮れの色になっている。


ガガガガッ、ガタガガタッン・・・


道は、ほとんどデコボコで、

すこし勾配がきつくなってきている。

馬が歩きにくそうにしている。


傭兵は・・・トールと名乗った。

トールは、馬車が動き出してからも、

ずっとオレたちを黙って見ている。

あからさまに、疑っている目だ。

先ほどのオレの小芝居が、

余計に疑がわせる要因になったらしい。


オレたちは、また身を寄せ合い、

木下が密着して、オレの腰をさすってくれている。

しかし、これは演技で、

実際、オレたちは小声で話し合っていた。


「佐藤さんが能力を隠していたわけじゃないんですよね?

まさか『ソール王国』の噂が本当だったとは・・・。」


木下が、驚きの表情をしている。

オレを盾にしているから、トールからは

木下の表情が見えない。


「隠していない。さっきまで、これが普通だと思っていた。

自分でも驚きだ。・・・あのトールという傭兵の言うことが

正しいのなら・・・木下のその反応が嘘でないなら・・・

噂のほうが真実だったということだな。」


つまり、オレは・・・

いや、『ソール王国』の出身者たちは

生まれつき、高い身体能力を持った体・・・ということだ。

オレの記憶では、特殊な訓練とか

血のにじむような努力とか、

そういうことをしたことがない。

騎士になるための、普通の訓練を受けただけだ。


いや、すでに『普通』が

なんなのか、オレには分からなくなってきた。

今まで、普通だと思ってきたことが

他国とは明らかに違うということ・・・。

魔獣を倒したオレを見るトールと御者と木下の表情で分かった。


「にわかに信じがたいことだが、

オレたちは、他国の者より

戦闘力というか、身体能力が高いってことか。」


木下が、小さくうなづく。


「この国の全国民すら知らなかった事実ですね。

そして、王様は、いや王族は代々、

この事実を『秘密』とし、厳守していた・・・。」


「・・・なぜだ?

強さを誇示したほうが、

他国から狙われにくいのではないか?

それに、ずっと秘密にはできない。

こうして、噂は広まってしまっているわけだし。」


「分かりません・・・。

ですが、他国へ強さを誇示すれば、

他国の標的になる場合もあります。」


「そ、そうか・・・なるほど。いかに人が強くても

他国が大連合でも組んで、数で攻めれば、

こんな小さな国は、1日で全滅だろうな。」


「でも、小さくて弱い国だと思われてしまっては、

それこそ他国の標的になります。」


「だから、信憑性があいまいな噂だけを

垂れ流しているわけか。」


チラリとトールのほうを見たら、

トールは、まだまだ疑いの視線を

こちらに送り続けていた。


「他国とのパワーバランスのため、か。

だから、オレたちは

なかなか出国許可が下りないんだな。

そして、他国からの移民も

ほとんど受け付けられない。

それは・・・オレたちの『血』が

薄くならないようにするため、か・・・。」


他国へ『ソール王国』の『血』が流れてしまえば、

他国が強くなり、パワーバランスが崩れてしまう。

他国の『血』を受け入れすぎてしまうと、

この国の『血』が薄くなって、

それもパワーバランスを崩す原因となる。


息子・直人が他国で働くとなった時も、

娘・香織が他国へ嫁ぐことになった時も、

手続きがとても大変だった思い出がある。


「今回の『特命』がバカげているから

他国へ知られぬようにって規則を設けたのかと思っていたが

隠密行動させる理由は、これだったのか。」


「いえ、あの人事室長は

この秘密を知らないはずですから、

彼女が考えた規約は、ただただ

バカげた『特命』を他国に

知られないようにするためでしょう。」


たしかに、あの村上が

この秘密を知っていたなら、

初めから『特命』の内容は

『ドラゴン討伐』ではなかっただろう。

わざわざ国民を外へ出す提案をしないはず。


「むしろ、この『特命』の提案を

よく、あの王様が許可したものだな。」


「いえ、王様だけは、

最後まで反対でしたよ。」


「そうなのか?」


「あの人事室長が提案したとき、

大臣たちの会議で、可否が決まるのですが、

その会議中、ずっと王様だけは反対でした。

結局、賛成の大臣が多かったため、

可決されたわけですが・・・。」


そんな裏事情は知らなかったな。

さすが、元・秘書。

その会議の様子を聞く限り、国の大臣たちですら

この『秘密』を知らないと見える。


「・・・。」


その木下が、暗い顔で黙りこむ。

なにか考えているんだろうか?


王様が秘密にしていた『ソール王国』の強さ。

秘密にしていた意図は、

王様本人に聞かないと分からない。

とにかく、オレが『ソール王国』の者だと

知られぬようにするためには、

なるべく人との接触を避けなければならないし、

なるべく戦闘の場面で活躍をしてはいけない、ということだな。

これは、思っていたより

大変な『特命』を受けたものだ。




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