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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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トイレの報告




「・・・。」


ニュシェの日誌の、最後に書かれた言葉が、オレの心に残った。

一人、生き残っていた『エルフ』のことを、

いったい誰が助けるのか・・・か。

たしかに、オレたちが助けてやらなければ、

他の傭兵に頼むことも、帝国軍に頼むことも不可能か。


ふとニュシェと目が合う。

何かを訴えかけるような目に見えた。


「よく書けてるな。」


「んふふ。」


オレがそう言って日誌を返すと、ニュシェは嬉しそうに

尻尾を振って、笑顔になった。

ニュシェは喜びながら、木下の元へと戻っていく。

自然と木下と目が合った。


「・・・仕方ないですよね。」


「・・・そうだな。」


木下が少し困ったような笑顔で、そう言った。

なんのことを指して言っているのか分かったから、

オレも少し困った顔で、そう答えた。


あの『エルフ』、クラリヌスの依頼を受けるという意味だ。

『ゴブリン』の住処へという依頼は難しいが、

もうひとつの依頼、『エルフの洞窟』探索なら受けてもいいと感じた。


そのことを、昼食時、オレと木下から、

シホ、ファロス、ニュシェに伝えた。

3人は困った表情ではなく、どこか嬉しそうに聞いていた。

反対意見はなかった。

夕食後のクラリヌスとの面会で、返事をすることに。

問題はあると思うが、依頼を請け負うと決めたのだから、

仲間たちと話し合って、問題を解決していくしかないだろう。




昼食後、オレは病室から出て、男子トイレへと向かった。

病室から15mほど離れた場所。誰でも入れる公衆トイレだ。

オレが入った時には、誰もいなかった。

オレが個室へ入り、大便をしようとした時だった。


「佐藤様、すきだらけですよ。」


「っ!?」



突然、声をかけられた! 隣りの個室からだ!

気配がなかったから、驚いて大声をあげそうになってしまった!

・・・というか、少しオナラが出た。恥ずかしい。

聞き覚えのある女性の小声。ペリコ君だった。


「ペ、ペリコ君か!? こ、ここは男子トイレだぞ!」


「大丈夫です。今は誰も来ません。」


他人が来なければいいわけではないのだが。

下半身を見られているわけではないが、

オレは慌ててパンツとズボンを履き直した。


「し、しかし、その、他人の便意というのは、

そんな、調整できるものではないだろ!?」


「そうですね。普通は調整できませんが、

入院患者の排泄はいせつのタイミングは、だいたい把握できますよ。

入院中は、みんな病院の規則通り、決まった時間に、決まった食事量を摂取するので、

おのずと排泄も、みんな決まった時間に出やすくなるのです。」


ペリコ君の即答に驚く。しかし、聞けば納得だ。

オレがトイレへ来る時間に、毎回、同じやつに出会うことがある。


「そういうことなら、オレがここへ来たタイミングに、

他のやつが来る可能性が高いってことじゃないのか!?」


「えぇ、ですから、普通は調整できないのですが、

今日は特別、他のみなさんには、排泄の時間をずらしてもらいました。」


ずらしてもらっただと!?


「ど、どうやって!? まさか食事に何か!?」


「いえいえ、わざわざそんなことはしません。」


食事に何か入れられたのかと思って、少しヒヤっとしたが、

どうやら違うようだ。


「ここは病院ですから、わざわざ食事に混ぜなくても、

みなさん、規則正しく、決まった時間に薬を飲んでくれますから。」


「なっ!?」


ペリコ君のとんでもない発言に、思わず大声をあげそうになってしまった!

まさか食後の薬に! ゾッとした!

ペリコ君の実力なら定期的に飲むことになっている薬を

毒薬にすり替えるなんて朝飯前ということか。

ということは、いつでもオレの口を封じることも・・・。


「お静かに。みなさんには便意のタイミングを

ほんの少し、ずらしてもらっただけのことですから、

佐藤様が大声をあげてしまえば、便意に関係なく、人が来てしまいます。」


「誰のせいで!」と怒鳴ってやりたかったが思い留まった。

大声をあげたらダメな状況だ。

こいつは、わざとオレに大声をあげさせようとしているかのようだ。

挑発にのってはいけない。


「とにかく佐藤様、警戒を怠らないでください。

私たちが佐藤様たちの情報を隠蔽いんぺいするように

あちこちの情報を攪乱かくらんしていますが、それも完全ではありません。

現に、あの菊池という騎士に、みなさんの素性がバレていたわけですからね。

いつ、いかなる時も、油断しないでください。」


「うっ・・・たしかに。」


ペリコ君に指摘されて、オレは言い返すことも出来なかった。


「ペ、ペリコ君がここへ出てきたということは・・・何かあるんだな?」


「はい。まずは、5日前、ソウガ帝国軍の襲撃時、

ユンム様を守っていただき、ありがとうございました。」


ペリコ君にそう言われて、あれから5日経ったことを実感した。

ニュシェの日誌を読んだ時も感じた事だった。

あの『ソウルなんとか』の一員・・・菊池という男との戦いを思い出すと、

今でも少し背中にイヤな汗が、ぶわっと沸き上がる。

あの時は、本当に危なかった。


「ユンムがやられそうになっても、ペリコ君は

本当に助けに出てこないんだな。」


「はい、そうですね。

私の任務は、ユンム様をお守りすることではないので。」


びっくりさせられたお返しとばかりに、少し嫌味っぽく、

今まで疑問だったことを聞いてみたが、ペリコ君からは

感情がこもっていない、事務的な返事が返ってきた。

なるほど、ユンムのことは大切に想っていても、

守るために尾行しているわけではなく、

あくまでも、上司へ報告するために尾行しているというわけか。


「それから、私は佐藤様を信じているので。」


「・・・それで、何の用だ?

お礼のために接触してきたわけではないだろう。」


敵ではないが、味方でもない、そんなペリコ君に

「信じている」と言われても・・・複雑な気持ちだ。

口だけかもしれないからな。


「はい、お伝えしたいことが3点あります。

一つ目は、今回、佐藤様が討ち取った菊池亮太という男の

遺体や遺品をあさってみたところ、『小鬼』どもを

指揮している鬼の情報が分かりました。」


「えっ!? た、たしか医者たちが、

あの男を秘密裏ひみつりに処分したと聞いていたが・・・?」


「処分される前に調べたのです。あの男の死体は、

お医者様たちにとっては、ただの身元不明のご遺体でしかないのでしょうけど、

私たちにとっては大切な情報ですから。」


なるほど、さすが『スパイ』だな。

ペリコ君があの男の遺体を漁っている様子を想像すると、

少し怖いというか、気持ち悪いのだが・・・。


「そういえば、街道に散らばっていた『カラクリ兵』の残骸が

いつの間にか無くなっていたと医者たちから聞いたが、

それもペリコ君たちが?」


「そうですね。あの『カラクリ兵』たちが帝国軍の所有物ということは

民衆も気づくでしょうから、壊された状態のアレが見つかると、

すぐ帝国軍へ通報されてしまいますからね。

ここのお医者様たちが、騎士たちの遺体を処理してくれたのは好都合でした。」


オレとしても、気がかりだった。騎士たちの遺体は

医者たちが内々に処理してくれたので助かったが、

『カラクリ兵』の残骸を一般の民衆に発見されたら、

きっと帝国軍へ知らせる者がいると、オレも思っていた。

帝国軍が事件解決のために動き出してしまったら、

オレたちやグルースを追ってくるに違いないからだ。


「それこそペリコ君たちの仕事ではなかっただろうに。ありがとう。」


「い、いえ・・・その・・・た、大したことでは・・・。

こ、これは、佐藤様のためにしたことではありませんから。」


ペリコ君の声がわずかに上ずっている。少ししどろもどろになっているようだ。

やはり他人からお礼を言われることに慣れていないのだろう。


「そ、そんなことより、鬼の情報です。」


「そうだったな。」


ペリコ君の話の途中で、別の話題を振ってしまっていた。

思いついたままに口を挟んでしまった。反省だな。


「もしかして、鬼の居場所も分かったのか?

つまり、『ゴブリン』の住処も?」


「いえ、その情報はありませんでした。

遺品の中に、鬼との契約書が見つかりまして。

そこに記されていた鬼が、悪名高い鬼でした。」


「悪名高い?」


「はい、佐藤様もご存知かもしれません。

世界指名手配犯、赤鬼のイズナミ。別名『惰性だせいの赤鬼』です。」


「あ、赤鬼・・・イズナミ・・・。」


ペリコ君から聞いた名前を復唱してみても、

オレの記憶の中には、そんな名前、聞いたことがない。

もしくは、覚えていない。

世界指名手配犯のリストは見たことはあるが、

世界中にいる1000人以上の犯罪者の名前など、いちいち覚えているはずもない。

しかし、『ソール王国』で配布された危険人物リストの中に、

鬼族の犯罪者が数名いることは覚えている。

きっと、そのうちの一人なのだろう。


ギュルルル・・・


オレのおなかから小さな音が鳴る。

そうだ、便意だ。

他の患者は便意が遅れているらしいが、

オレは、今したくて、ここへ来ているのだ。

しかし、すぐ横の個室にペリコ君がいるため、我慢している。


「・・・知らないようですね。」


オレの沈黙が長すぎたので、ペリコ君が察したようだ。


「は、犯罪者の名前なんて、いちいち覚えていられないからな。」


ペリコ君にバカにされている気がして、妙な虚勢を張ってしまった。


「覚えていられないのか、覚えられないのかは、さておきまして・・・

『惰性の赤鬼』ぐらいの、大物の犯罪者の名前は覚えておいてください。」


「うぐっ・・・。」


人の名前を覚えられない知能だと見抜かれてしまっている。

いや、いまさらかもしれない。


「そいつは、そんなに悪いことをしているのか?」


「そうですね。『惰性の赤鬼』は、その出身国である

鬼族の国『アクレオグルトン』から、国宝である魔道具『イムペリウム』を

数年前に盗み出して以来、現在も逃亡中の身です。

その国宝を悪用して、世界各国で悪事を働いています。

ここしばらくは、その足取りを誰もつかめていなかったはずですが、

まさか、この国に潜伏中だったとは・・・驚きです。」


聞き慣れない言葉が連続して飛び出してくるものだから、

どうしてもオウム返しのように、聞き返してしまう。


「アクレオ・・・? インペリ・・・?」


「『アクレオグルトン』。鬼族の国です。

世界の最北端の国であると言われていますが、

あらゆる種族から忌避きひされていて、鬼族もまた

あらゆる種族を忌避しているらしいので、その国の正確な位置は

限られた者しか知らないという話です。

永久凍土の極寒地らしいので、わざわざ探しに行く者がいないのでしょうね。」


なるほど、極寒地の国か・・・。

たしか、大昔、鬼を悪者とした物語が世界中に広まったせいで、

誰も寄り付かない土地へと追いやられたって話だったか。

正確な位置が分からないなら、極寒地をさまようことになるし、

わざわざ誰も探しに行かないわけだ。


「その鬼族の国の、国宝のひとつが『イムペリウム』という魔道具だそうです。

なんでも、その魔道具を使えば、

自分の実力より低能な魔物や魔獣を奴隷にすることができるそうです。」


「奴隷・・・。」


ここでも『奴隷』という言葉が出てきた。

『ソール王国』では、まず聞かない言葉だったし、

今までの国でも聞かなかったのに。

奴隷制度が認められている国では当たり前のように、

昔から使われている言葉なのだろう。


「つまり、その国宝の魔道具で

『ゴブリン』を操っているということか。」


「そうだと思います。今までの『惰性の赤鬼』の犯罪歴を見ると、、

自分の手を汚さず、下っ端のような魔獣や魔物に悪事を働かせて、

バレそうになったら下っ端のやつらに罪をなすりつけて

姿をくらますようです。今回も同じ手口かと。」


なぜ『惰性の赤鬼』なのかと聞きたかったところだが、

今の魔道具の説明ですべて分かった気がした。

自分の手を汚さず、下っ端の者たちにすべてをやらせて、

自分自身は何もしないということか。


「身を隠してる場所さえ分かれば、すぐに捕まえられそうだな。」


下っ端を使うことしか能がないなら、

そいつの実力は、大したことが無さそうな気がする。


「さて、それはどうでしょう?

鬼族は、強靭な肉体の種族ですからね。

国宝の管理も、お粗末な警備ではなかったでしょうし、

『惰性の赤鬼』には、それを奪い取れた実力があるのは確かです。」


「たしかに・・・。」


ペリコ君の意見を聞けば、納得してしまう。

たしかに、ただの泥棒どろぼうではないな。

国宝を盗み出す実力があり、

今も逃げ続けている実力があるわけか。


「逃げられると厄介ということだな。

いや、逃げてくれた方が、この国のためになるのか?」


「さて、それもどうでしょう?

捕縛、もしくは討伐しない限り、この国の被害が他国へ移るだけですから。

そして、また『惰性の赤鬼』が舞い戻ってこないとも限りません。」


ペリコ君の意見は、正論ばかりだな。


「そうか、だからこそ、帝国軍に住処を総攻撃させるという

例の組織の計画は、一応、理にかなっているというわけか。」


「理にかなっているというよりは、

『ソウルイーターズ』によって仕立て上げられた茶番劇ですね。

『惰性の赤鬼』との裏取り引きで、『小鬼』による被害を拡大させ、

この国を混乱におとしいれ、その目的は、騒動に乗じての第三王女の暗殺。

そして、裏取り引きの事実を『惰性の赤鬼』の口から

世間へ流出してしまうのを防ぐために鬼退治・・・ですね。」


「ふぅ・・・誰も観たくない、最低な茶番劇だな。」


例の組織の悪行は、聞くだけでもイライラしてくる。

その組織に関わったが最後、いいように利用されて、最終的に口封じか。

そう考えれば『惰性の赤鬼』も被害者になるのか。

いや、組織に加担した時点で同罪。だから口封じされるのは自業自得か。


グゥルルル・・・


「ふぅ・・・。」


オレの鼻息が荒くなってきている。

おなかが張ってきている。

便意を我慢するのも限界が近づいてきている。


「で? 分かったのは、それだけか?」


オレは、つい急かすように言ったが


「いえ、あと2点、お伝えしたいことがあります。

この国の帝国軍が、『小鬼』の住処への総攻撃、

大規模な『小鬼』の掃討そうとう作戦に備えて

準備を始めているという情報です。」


「それは、つまり・・・帝国軍は、すでに

『ゴブリン』の住処の場所が分かっているということか!?」


「そういうことになりますね。

こちらとしても、その場所の情報が掴めたらいいのですが、

帝国軍には、すでに『ソウルイーターズ』のメンバーがまぎれていることが

分かっているので下手に動けず、これ以上、探ることは出来ません。」


「むぅ・・・そうか。」


あの菊池という男が「近々」と言っていたから、

近いうちに、例の組織の作戦が実行されてしまうのは分かっていたが、

本当に「近々」だったな。


・・・先に『ゴブリン』の住処の場所が分かれば、

帝国軍を出し抜いて、あの『エルフ』の願いを

叶えてやることができたのだろうか?

・・・いや、その情報を先に入手できたとしても、

どれだけの『ゴブリン』がいるのか分からない住処へ、

女性陣を連れて行くなんて、無謀過ぎる。

ペリコ君と、あの洞窟で遭遇した『ゴブリン』が100匹弱ぐらいだった。

住処となれば、それ以上・・・1000匹ぐらいいると思ったほうがいい。

オレたちパーティーだけで挑むのは不可能だ。

やはり、帝国軍と『ゴブリン』の戦闘は避けられない。

むしろ、帝国軍ぐらいの大勢の騎士団でなければ、

『ゴブリン』の住処を殲滅せんめつすることはできないだろう。

帝国軍に任せるしか・・・。


「ただ、『小鬼』の住処に、どれほどの数がいるのかは

帝国軍でも把握できていないらしく、近々、

各地の『ヒトカリ』へ要請して、掃討作戦へ参加できる傭兵を募るようです。」


「え?」


帝国軍が、そんなことを!?

それが本当なら・・・『ヒトカリ』へ行けば、

その『ゴブリン』の住処への総攻撃に、参加できてしまうのか。

これは「渡りに船」ということわざどおりの、願ってもないチャンス・・・なのか?

いや、あの『エルフ』を連れて帝国軍と接触するのは危険だろう。


グゥキュキュルルルル・・・


「むぐっ・・・ぅ!」


おなかが痛くなってきた!

これ以上は我慢の限界だ!


「つ、伝えることは、もうないか!?」


「いえ、最後にひとつ。

・・・昨日、この町の町長の死亡が、グルース様によって発表され、

葬儀が執り行われました。死因は、事故。

乗っていた馬車が横転して・・・という話に。」


「そ・・・そうか。」


「はい。」


おなかが痛いが、最後の報告は、なかなか胸が痛いものがある。

グルースは真実を町民へ発表しなかったのか。いや、できるはずもない。

自分が反乱軍のリーダーであったがゆえに、

今回の不運な出来事が起きてしまったのだ。

反乱軍を解散したと言っていたが、これからグルースはどうするのだろうか。


ギュルーーーン


「はぅぁ・・・話は、それだけか? ペリコ君?」


「はい、お伝えしたいことは以上です。」


「では、そろそろ・・・。」


「佐藤様は、どう思いますか?」


「な、なにを!?」


ペリコ君へ早々に立ち去ってほしいと伝えたかったが、

ペリコ君の話は、まだ終わっていなかった。


「今までの佐藤様やユンム様たちの会話は、すべて聞いているのですが、

佐藤様は、あの『エルフ』、クラリヌス様を信用されているのでしょうか?」


「ど、どういう意味だ?」


「意味は、そのままの意味です。

長寿の『エルフ』の存在自体が非常に珍しいことに加えて、クラリヌス様は、

この国の500年前の歴史を知る重要人物であることには違いありません。

ですから、私も発見の際は救助の手助けをさせていただきましたが・・・

二重人格であり、両方の人格は未だ得体が知れません。

一方の人格は、人類すべてを滅亡させたいという憎しみを抱いていて、

強力な魔法を無詠唱で使える実力の持ち主・・・

腐っても、この国の帝国軍だった『エルフ』です。

完全回復されたら、相手がどういう行動に出るか分かりません。

友好的な態度にだまされて、こちらの善意を利用されるだけ利用されて

最後には、裏切られるということも有り得ますよね?」


「それは・・・。」


ペリコ君の冷静な言葉を否定したい気持ちはあったが、

すぐに否定する言葉は言えなかった。

あの『エルフ』の殺気は、本物だった。

そして、その殺意に至った、過去500年間の経緯を知っているからこそ、

あの『エルフ』がオレたちを裏切らないという保証はない。

むしろ、ペリコ君の言う通りの結果になりそうだ。


グッギューーーン


「オッ! オレは、か、完全に信用はしていない!」


ダメだ・・・会話に集中できない!

少しでもチカラを緩めれば、勢いよく出る!


「しかし、佐藤様もユンム様も、

クラリヌス様のご依頼を受けるおつもりですよね?」


「そっ・・・そうだ!」


そうだ・・・ここはトイレの個室だ。

便意があれば、出していい場所だ。

何をためらう必要がある?

こんなに苦しんでまで、出さない理由はなんだ?


「なぜ、ご依頼を受けるのですか?

ニュシェ様の純粋な気持ちに応えるためですか?」


「そ・・・そ・・・それだけじゃない!」


さっさとズボンとパンツをおろして・・・

そうだ、出してしまえば、すぐラクに・・・!


「それだけではない理由はなんですか?」


ダメだ! ペリコ君がいる!

トイレの個室の隣り同士、人がそばにいても当たり前なのだが、

薄い壁の、すぐ隣りの個室にいるのは女性なんだ!

気を許せない女性に、脱糞だっぷんの音を聞かれるのが、

とてつもなく恥ずかしい!


ギュルルル ドギュルルルル


「そっ、それはっ! ユ・・・ユンムの時と同じだっ! はぁ・・・ぅ!」


「ユンム様の時と?」


「そっぅだ、っはぁぁぁぐっ・・・!

し、知り合って間もない間柄だから!

ぃいきなり、信頼しきれるわけではっ、ないが!

はっじめっから、疑ってかかればぁ、あ、

ぃっつまでも、ぉお互いに信頼関係が築けなっい!

自ら、信じることから始めなければぁ・・・ぁ・・・!」


声が震える!

気づけば、顔や背中に脂汗が流れ出している!

限界を突破してしまう・・・!

アレが門を突破してしまう・・・!


ギューゥーーーン


「しかし、裏切られた場合は?」


「そ、その時は、オレが斬る・・・!

仲間を傷つける者は、容赦しないっ!」


「!」


限界だ! 限界だ! 限界だ!


「ぷっ・・・ふふふっ・・・そのお言葉を聞いて安心しました。」


「も・・・もぅぅ・・・い、いい、かっ?」


ギューーーン ギューーーン


「はい、伝達事項は以上です。

ふふっ・・・よく我慢しましたね。

では、ごゆっくり・・・。ふふっ。」


ペリコ君がそう言った瞬間、隣りの個室から気配が消えた!

オレは、まるで剣を抜くがごとく速さで、

ズボンとパンツをおろした!




「はあああああああああああ・・・!」


思わず安堵あんどの声がもれた。

・・・間に合った。

切迫した状態からの解放・・・。

あと少しで、トイレでもらしてしまうところだった。


・・・今にして思えば、ペリコ君なら、

隣りの個室にいながらも気配を消せるから、

じつは、まだ隣りにいるのでは?と思わなくもないが、

出してしまった今となっては、もはや、どうでもいい。

それよりも、やつの最後の台詞からして・・・

あいつ、オレの状態を分かっていて、話を引き延ばしていたな!

おのれ・・・!





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