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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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襲撃、おっさんの実力





「!・・・木下!」


御者と傭兵たちに近づこうとした矢先、

周りの森に異常な気配を感じた。

・・・複数の足音・・・獣特有の走り方・・・


「えっ?

いや、ユンムと呼んでください。」


「そんなことを言っている場合じゃない!

魔獣だ!こっちに向かってきたぞ!」


「えっ!!」


木下は気づいていなかったらしい。

魔獣は、30m先から群れをなして走ってきている。

オレたちは御者たちの元へ駆け寄った。


「な、なんだ!?どうした!?」


オレたちが怖い顔をして

突然近寄ってきたから、傭兵が驚いている。

この様子だと、傭兵も

魔獣の気配に気づいていないらしい。


「魔獣だ!すぐそこまで来ている!」


「な、なんだって!?

そんな気配は・・・。」


魔獣たちが、あと15mのところまで来た。

複数の足音が、だんだん近づいてきている。


「あっ!こ、この気配は!」


「・・・!」


傭兵が魔獣の気配を感じ取ったらしい。

木下の表情を見ると、木下も気配を感じ取ったようだ。


「ここの魔獣は、オオカミタイプだ!

足音の数は、6体!

傭兵は、御者と馬車を守れ!」


「えっ!?」


「オレが殲滅する!」


「!!」


戦闘になると感じた瞬間から、

オレの頭の中で『特命』だとか『隠密』だとか

そんなことは抜けていた。

魔獣は、馬車の左側から

一直線にこちらを目指してやってきている。

かなり速い。

馬車の左側に移動して、オレは剣を抜いた。


「いやいや、アンタらはお客さんだ!

ここは俺が!」


傭兵が、オレの後ろから話しかけてくるが、

もう魔獣は目の前だ。


「もう遅い!来るぞ!

オレの周りに近寄るな、巻き込むぞ!」


「!?」


傭兵に言い放つ。

傭兵も、オレの鬼気迫る言葉に

納得したのか、オレに近寄らず、

馬車のそばで待機し始めた。

木下も、傭兵のとなりに待機している。


ドドドッ!ドドッ!ドドドドッ!


魔獣たちの足音が、目の前に迫っている。

足音の重低音からして、2mぐらいの魔獣か。


ザザザッ!


一番足の速い魔獣が、森の草木をかき分けて

この道の方へ飛び出してきた!

やはり、2mぐらいのオオカミタイプの魔獣だ。


バッ!


魔獣は走る勢いを止めず、

目の前にいたオレを見つけるなり

勢いよく飛びかかってきた!

やはりセオリーどおり、オレの首を狙って、

前足の爪を、思い切り前へ突き出しながら

キバを突き立てるために、大きな口を開けてくる!


スッ・・・


それを右へ半身でかわし、魔獣の横から

首を目掛けて、剣を振り上げる!


ズドッ!


魔獣の首と前足1本が飛ぶ!

首を失った2mの体が、そのままオレを横切っていく。


「うおっ!一撃!?」


「!!!」


ドドッン!


傭兵が驚いた声を出した。

勢い余った魔獣の体が傭兵たちの前へ落ちる。


ヒッヒヒヒッーン!


魔獣の血の臭いに、馬車の馬がおびえて鳴いている。


ザザッ! ザザザッ!


続いて、草木を分けて飛び出した魔獣は、3体。

やはり、一番近くにいたオレを見つけるなり、

走ってきた勢いのまま、飛びかかってくる。

一斉に飛びかかっているように見えるが、よく見れば

1体ずつ飛びかかるタイミングがずれている。

セオリーどおりだ。


また1体目を半身でかわし、


ガスッン!


首をはねあげる。その振り上げた剣で


ドスッ!


2体目の首を切り落とし、そのまま


ドッン!


3体目の首も跳ね上げる。


オレの横を、3体の魔獣の体が通り過ぎていく。


「!!!」


ドッンドドドスンッ!


そのまま、1体目の魔獣の体の上へ

3体の魔獣の体が重なるように落ちる。


ザザッ!ザッ!


次に2体の魔獣が、草木を分けて飛び出してきた。

・・・だが、


ザザッ!ドドドッ!


先に死体となっていた魔獣を見るなり、

引き返して、森の中へ逃げていった。

あっという間に、魔獣の気配が遠ざかっていく。


「ふぅ・・・。」


オレは、一息吐くと、

振り上げていた剣を勢いよく振り下ろす。


ビシャッ!


剣に付いた魔獣の血が地面を黒く染め上げた。


ふむ。この剣、かなり軽くて、

それでいて切れ味と強度もなかなかのものだ。

これは、いい剣を譲り受けたな。

腰の布袋から、剣を拭く布を取り出しながら、

オレは馬車の方へ振り返った。


「・・・マジかよ。」


傭兵がボソっと言った。


「た、助かりました。

ありがとうございます!」


御者が駆け寄ってきて、すぐにお礼を言われた。


「あぁ、いや、無事でよかった。」


そう言いながら、

剣に付いた魔獣の血を拭き取り、剣を収める。


「ま、待て待て!

アンタ、腰が痛かったんじゃないのか!?

なんだ、今のは!?」


魔獣の死体を前に、傭兵が急に騒ぎ出す。


「この魔獣は、キラーウルフ!

ランクCの俺でも、1体を相手に倒せるのがやっとの相手だ!

それを4体とも一撃で仕留めるなんて!」


「えっ!?」


傭兵の言葉を聞いて、オレが驚いた。

いまいち『ヒトカリ』という会社が定める

『ランク』というのは、言葉で聞いてもピンとこなかったが、

このオオカミタイプの魔獣を、やっと倒せるのが

『ランクC』ならば、オレを始め

『ソール王国』の騎士たちは、みんな

『ランクC』以上ということになる。


「アンタは、いったい・・・!」


傭兵が、なにか言いたそうだが、

オレは傭兵から聞いた話の方がショックで

思考が停止していた。


「お、おじ様は昔、キラーウルフ討伐を

専門に請け負っていた傭兵ですので、

同じランクでも、キラーウルフの討伐は

お手の物なのです!」


木下が、また咄嗟にウソを言ってくれた。


「そ、そうなのか。

キラーウルフ専門・・・なるほど。

しかし、腰が故障してるとは思えない動きだったな。」


傭兵が、まだ疑心暗鬼な表情をしている。

ふと、木下を見ると、

じっとオレを見ていて、作り笑顔がこわばっている。

あ・・・!


「お、おぉぅ!イタタっ!

今頃になって持病の腰が、また!

いたたたっ!やはり寄る年波には勝てんなぁ!」


腰をさすりがら、痛がって見せて

苦笑いをしてみたが、

傭兵と御者の表情は曇ったまま、

木下の作り笑顔はこわばったままだった。




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