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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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馬の水飲み場




「それにしても、『ソール』のほうは

最近、魔獣の出没が多くなってきたな。

出発前にも、停留場にまで

魔獣が出てきてたそうじゃないか。

ちょうど、俺は馬車の準備してたから

誰が討ち取ったのかは知らないけれど。」


「あ、あぁ、オレたちも

その場にいなかったから分からんが

警鐘が鳴って、騒然としてたな。」


「ソール王国の人間が討ち取ったって

商人の方々が言ってましたね。

ソール王国は傭兵要らずって本当だったのねぇ。」


あれから、ちょいちょい傭兵から話しかけられたが、

オレはシドロモドロになりながら

なんとか答えていた。

オレの態度や言動が怪しくなったら

隣にいる木下が救ってくれた。


傭兵に時間を聞いた時から1時間ぐらい経っていた。

馬車は、傭兵の言う通り、

小さな山小屋の前で止まった。

あたりの景色は、すっかり森の中だ。


「ここで、数分の休憩になる。

馬が水を飲み終えたら、すぐに出発するから

馬車から離れないでくれ。」


傭兵の男が、そう告げて先に馬車を降りていった。


しばらくオレの腰をさすっていた木下。

最初は、密着されたことが恥ずかしくて、

木下のニヤニヤした顔を見て、

腹立たしく感じていたが・・・

腹立たしくなった時点で、恥ずかしさが消え、

ずっと木下がさすってくれたから

腰の痛みも和らいでいることに気づいた。


もしかしたら、

すべて木下の計算だったのかもしれない。

とっさのウソを完璧にするためなのか、

はたまた、オレの老体を気遣ってくれたのか、

その真意は分からないが

体が楽だったことは確かだ。


「ありがとう、きっ、ユンム。」


素直に感謝を述べておく。

まだ名前を呼ぶことに慣れていない。

「木下」と言いそうになる。


すると、木下が、作り笑顔のまま

小さな低い声で・・・


「・・・なに考えているんですか?

不用意に他人に話しかけないでください。

私たちの『特命』は、言わば『隠密』のようなもの。

過度の他人との接触は避けるべきです。

話しかけるとしても、ちゃんと頭の中で

ウソを突き通す言葉を用意してから

話しかけてください。」


ごもっともな、お叱りを受けてしまった。


「す、すまん。」


オレも小声で謝った。

本当に、自分でも失敗したと感じていたから。

申し訳なかった。


二人で馬車を降りて


「ん、んあぁぁぁ~~~!」


二人同時に、思いっ切り背伸びした。

背中とケツの痛みが和らいでいく。

筋肉の硬直が解放される。


来た道を見ると、木々の隙間から、

遥か遠くに、『ソール王国』の町が見える。

城壁もかろうじて見えるが、

しかし、もう、ここからでは『王宮』は見えない。


「これで見納めか・・・。」


ふいに独り言がもれた。


「・・・。」


木下は、聞こえたのか、聞こえていないのか、

何も言わなかった。


ぴちゃぴちゃぴちゃ、ちゃぷちゃぷ・・・


馬車の馬が水を飲んでいる。

そのそばで、さきほどの傭兵と

馬車を操縦する御者が会話している。

御者は、ずっと背中しか見えていなかったが

顔を見る限りでは、オレと同じ歳ぐらいに見える。


その御者と目が合った。

お互いに会釈する。

ここで気軽に話でも・・・と思ってしまうが、

先ほど木下が言った通り、接触しないようにする。

オレでは言葉巧みに、

相手の情報だけを聞き出すことができない。

話しかけたら、こちらの情報も惜しみなく話してしまう。

本当なら、国境周辺の情報を聞き出したいところだが。


目の前の小さな山小屋は、本当に小さくて

とても人が住める小屋ではない。

扉には鍵がかかっており、窓からは

なにかの工具?農具?みたいな物や、馬具、

大量のまきわらが見える。

おそらく馬車に必要な

最低限の道具が入っているだけの小屋なのだろう。


小屋の前に、数段の階段があり、

木下は、そこに座った。

オレはなんとなく、まだ座りたい気分ではなく、

もうすこし体を動かしたいほどだったので、

木下のそばに立ったまま。


「ただ座っているだけなのに、

なんだか疲れを感じますね。」


木下がそう言う。


「そうだな、本当に、ただ座っているだけで

なにも働いていないのに体が疲れている気がするなぁ。」


オレは、そう返事をすると

もう一度、背伸びをした。

今度は、深呼吸もする。

森の空気を、思いっきり肺に入れるように。


「はぁぁぁ~、

あと何時間で着くんだろうな?

陽が傾いてきているから、そろそろ夕刻だが。」


「そうですね。

あの御者に聞いてみたら、どうですか?」


「んなっ!」


驚きの発言を聞き、木下を見ると

作り笑顔がニヤついているように見える。

くっ、こいつ!!!


「お前なぁ!」


「半分は、冗談ですが、

最低限の接触は、これからも避けられません。

自分が欲しい情報だけを聞き出し、

相手が欲しがるこちらの情報を出さない話術を

少しずつ出来るようになっていただかないと。」


半分は、冗談かよ!と思いながら、

もう半分は、もっともな理由だったので納得した。

このまま寡黙な老兵を演じていても

欲しい情報が聞き出せないと、

自分たちの旅が厳しくなるだけだ。


「はぁ・・・そうだな。」


今さらながら、自分が受けた『特命』の

難易度がものすごく高いことを認識した。


「では、あの、御者に話しかけてくるが、

き、ユンムは、いっしょについてきてくれるか?」


「そうですね、おじ様だけでは

まだまだ会話が怪しいですから、

隣で、最低限の助力はさせていただきます。」


「す、すまんな。」


本当のことだから反論できないのが悔しい。

助力というか、子供扱いというか・・・

いや、介護されている気分だ。



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