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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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ウソがつけないおっさん傭兵





ガタンッ、ガタガタガタタタタッ!


大型馬車は、どんどん町から離れていく。

城外の道はあまり整備されてないところが多いが、

町から離れていくにつれ、道は悪路になっていく。

馬車の揺れが激しさを増す。


「ふ、ふぅ・・・。」


出発して、まだ1時間ぐらいしか経っていないのに

正直、もう、ケツが痛い。

木下は大きな荷物から、『衣類』と書かれた

袋を取り出し、それを下に敷いて座っている。

数年前に遥々『ハージェス公国』から来た時の

経験が、しっかり役立っているようだ。


いっしょに乗っている傭兵も、

よく見れば、ケツのほうに何か敷いているように見える。

ずっとコレに乗っているのなら、

当然の対策というわけか。


「この馬車に、休憩は無いのか?」


たまらず、傭兵に話しかけてしまった。


「あー、あと1時間したら山小屋がある。

そこで、馬に水を与えるために休憩する予定だ。」


「なるほど、分かった。」


傭兵は、すこし低い声だったが丁寧な返答だった。

意外と見た目より優しい口調で驚いた。

傭兵ではあるが、客相手も慣れているのか。

そして、休憩は、馬次第か。


「アンタたちは、どこへ行くんだ?

『ソール』からこっちへ行く客は珍しいな。」


オレとしては、休憩があるのか知りたいだけだったが、

傭兵がそのままの流れで話しかけてきた。

内心、失敗したと思った。

外見から判断して、

勝手に、不愛想な人間だと思い込んでいたのに。


「あぁ、故郷へ帰るんだ。」


「なんだ、ここの人間じゃないのか。

見たところ、アンタも傭兵か?」


「まぁ、そんなところだ。」


「なんで、また、この国へ来たんだ?

この国では傭兵の仕事が無いだろう?」


ヤバイ。さっそく、痛いところを突かれた。


「いや、その・・・」


「私の婚約者の家族と会うために、

ついてきてくれたのです。

ね? おじ様?」


オレが返答に行き詰った瞬間に、

木下からのうまい返答が入った。

よくもまぁ、そんなウソが咄嗟に出るものだ。


「なんだ、かわいい姪っ子の護衛か。

そりゃ仕事より楽だな。」


「あぁ・・・

魔獣を相手するより、ずっと楽だ。

はっはっはー!」


全然、楽じゃねぇ。

こいつの相手するより

魔獣のほうが、数百倍も楽だ。


「ところで、あんたも傭兵だよな?

この国の者なのか?」


このまま質問責めになるのを避けるため、

こちらから質問して流れを変えてやる。


「いや、俺は『レッサー王国』出身だ。

国境近くに住んでいて、たまに

馬車護衛の仕事を請け負っている。

今日は、たまたま『ソール』のほうへ来たが、

いつもは国境から

『レッサー街』への馬車を護衛している。」


そうか、『レッサー王国』の者か。

なおさら、こちらのウソがばれないように気をつけねば。


「『レッサー王国』では、傭兵は儲かるのか?

こんな老いぼれでも雇ってくれるところはあるか?」


「あぁ、この『ソール』以外、

傭兵はどこへ行っても引く手あまただ。

仕事さえ選ばなきゃ、いくらでも稼げるさ。」


なるほど、木下の言った通り、

『ソール王国』以外の世界各国で、

傭兵は活躍しているのだな。


「ところで、アンタの傭兵ランクは?」


「なに!?」


会話が途切れた瞬間に、

相手は、またもや意表をつく質問を投げかけてきた。

なんだ?『ようへえらんく』?


「傭兵ランクだよ。

アンタも『ヒトカリ』に登録してるんだろ?

その歳まで傭兵してるなら、そこそこ

ランクが上がってるんじゃないのか?

ちなみに、俺はこれでも『Cランク』だぜ。」


傭兵は、腰にぶら下げていた袋から、

なにやら茶色の紋章らしき物を取り出した。

なんの紋章かは分からないが、

紋章の中央に『ランクC』の文字が彫り込まれている。

・・・というか、まずいぞ。

当然、オレは、そんな物を持っていない。

適当なランクを言っても逃れられないだろう。


「あー・・・オレは・・・」


「おじ様は、若いころに大怪我を負い、

傭兵の仕事を長期間休まれていたため、

ずいぶん前に『ヒトカリ』から

登録抹消されてしまっています。」


オレが言葉に詰まると、

すかさず木下のウソが炸裂した。


「大怪我で登録抹消か・・・そりゃ仕方ないな。」


「そうなんだ。仕方なかったんだ。

今でも、腰に痛みが走るくらいでな。

アイタタタ!」


長時間の馬車で、

腰が痛いのは、間違いない。

怪我なんてしてないから

傷を見せることはできないが

腰をさすって痛がってみせる。


「大丈夫ですか?おじ様。」


木下が、オレを気遣う演技を見せる。

そっとオレの腰をさすってくれる。

その自然な振る舞いに驚く。

すごいな、スパイって。


・・・微妙に、体が密着してきて

木下の胸がオレの腕に当たっているのは

黙っておこう。


「まぁ、そんな体じゃ、年齢に関係なく

傭兵の仕事は難しいだろう。

姪っ子に心配かけないように、

そのまま隠居されたほうがいいぜ。」


姪っ子の心配より自分が心配だ。


「あぁ、そうだな。

もうすぐ、こいつの結婚が控えているから、

なにか贈ってやりたいと思っていたが、

無理はできないものだな。」


ついに、オレも、

そんなウソが口をついて出た。

これが『その場の空気に流される』というやつだな。


「おじ様・・・

そのお気持ちだけで、じゅうぶん私は幸せです。

ありがとう、おじ様。」


演技に熱を入れやがったのか、

木下が、オレの腕に胸を押し付けてくる!

顔も、やたら近い!近い!近い!!


「いいおじさんを持ったものだな、姪っ子さん。

嫁いだ後も、気にかけてやれよ。」


気にかけなくていいから、離れてくれ!


「はい。」


木下が、そう返事をすると、

そこで会話が、いったん終了した。

傭兵の攻撃がやっと収まったようだ。


しかし、すぐさま演技を止めるわけにもいかないようで、

木下は、しばらくオレに密着して

オレの腰を大事そうに、さすってくれた。


自分の顔が熱い。

オレの顔は、きっと赤くなっているだろう。

傭兵に悟られないように、うつむく姿勢をとる。

まだ腰をさする木下の方を、ちらりと見ると・・・

オレの体が盾になり、

傭兵からは見えない位置らしく、

いつにも増して、楽しそうな作り笑顔をしていた。


いや、こいつ・・・ニヤニヤしている!?

わざとやってるな!?

オレの赤面を見て、楽しんでやがる!

おのれぇ!




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