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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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近くて遠い関係




そうこうしているうちに、

大型馬車の出発時間になった。

とうとう誰も乗ってこなくて

乗客は、オレたちだけだった。

この国から出ていく許可証は

なかなか取れないため、出ていく人は極端に少ない。

この街の商人たちや

『レッサー王国』の商人たちは、

自分たちの馬車を持っていて、

大きな荷物を運搬している。

移動手段に、この大型馬車を利用することがないのだ。


ぶるるるっ、ひひぃーん!


馬が嘶き、馬車が出発する。


またここから数時間の移動時間となる。

暇つぶしも兼ねて、

いっしょに乗ってる傭兵に

自国と他国の魔獣の強さの差を

聞いてみようか・・・と思ったが、

ここからの『縁』は、もう他国へと繋がっていく。

今のオレは『ソール王国』の騎士であることを

公にせず行動しなければならない。

不用意に誰彼構わず話しかけられないということだ。


そうだな、これからの

オレたちの『身分』をどう偽ればいいだろう?


これも大切なことだった。

出発前に木下と話し合うべきだったな。

オレは木下に小声で話しかけた。


「木下、これから俺たちは

『親子』って設定でいこうと思うんだが・・・。」


「『親子』ですか・・・

かなり顔立ちが違うので、バレやすいですね。」


「うっ・・・そうだな。」


たしかに、顔が違い過ぎるから無理があるか。


「しかし、『夫婦』というには・・・」


「それは絶対無いですね。」


「うぐっ・・・だよな。」


たしかに歳の差がありすぎるが、

即答というのも、ちょっと寂しいものがあるな。


「『親戚』が妥当かと。」


「あぁ、『親戚』か。

なるほどな、遠からず、近からずの関係か。」


「佐藤さんが『ソール王国』の者だと

知られなければ、それでいいと思うので、

これからは佐藤さんの故郷も、

私の故郷『ハージェス公国』ということにしましょう。」


「なるほど、オレたちは

故郷に帰る途中だということだな。」


「佐藤さんの職業は、

『傭兵』ということにしましょうか。」


「『傭兵』か、なるほど。

他国で稼いで、自国に帰る途中というわけか。

しかし、それだと平和すぎるこの国では、

ちょっと理由が合わないのではないか?」


「たしかに、この国では『傭兵』が少なく、

佐藤さんはご存じないかもしれませんが、

世界各国で『傭兵』を雇う国や民間の会社は多いのです。

『ソール王国』にはありませんでしたが、

ほかの国には『ヒトカリ』という大きな会社が

各国に店を開き、そこで『傭兵』の仕事を一挙に仕切っています。」


「『ヒトカリ』?

聞いたことがあるような、ないような・・・。」


「国や会社からの仕事を『傭兵』へ斡旋する会社です。

その会社に会員登録すれば、『傭兵』たちは

自分の力量に合った仕事をお店で紹介してもらえます。」


「へぇ~、求人募集を扱う

職業安定所みたいな会社なんだな。」


「そういうことですね。

職業安定所は、だいたいどこの国も『国営』ですが

『民営版』の職業安定所みたいなものですね。」


木下は、世界各国を巡ってきたわけじゃないはず。

その情報は、おそらくスパイの学校や

ほかのスパイからの情報なのだろう。


「この国は、

たぶん『大規模討伐陣』のおかげで

これだけ平和なのでしょうが、

ほかの国は、ここほど平和ではありません。」


「そうらしいな。」


ほかの国の情勢は、一応、知っているつもりだ。

つねに厳戒態勢で、魔獣や人とが争っていると聞く。

他国との戦争を行っている国もあれば、

内戦が収まらない国もあるという。


「なので、『傭兵』は

どこの国でも通用する職業のひとつです。」


「そうか、分かった。

オレの職業は『傭兵』だな。」


「では、私は・・・

佐藤さんのお母様のいとこの従姪(じゅうてつ)の子供、ということで。」


「はっ?えっ?なんて言った?

そんなに血縁を遠く設定する必要は・・・

いや、だいたい、それ血の繋がりあるのか!?」


木下が、突然、親戚の設定を言い出したが、

とてもじゃないが覚えきれない。


「いえ、ちゃんと繋がってますよ。

あまり血縁が近いと、結局、

顔が似てないというだけで余計な疑いが生まれますから。」


「うっ・・・そうかもしれんが・・・。」


こいつ、やたらと顔立ちの違いを強調しやがるな。

自分が不細工だと自覚はしているが、

そう、あからさまに指摘されると、腹立たしいな。


「佐藤さんのお母様のいとこの従姪(じゅうてつ)の子供という

設定がご不満ならば、

佐藤さんのお父様のいとこの孫の其又従兄弟・・・。」


「待て待て! さっきより分からなくなった!」


魔法の詠唱を覚えるよりも難しいじゃないか。


「はぁ、そうですね。

覚えるべき佐藤さんが設定を覚えれないのでは意味がありませんね。

分かりました。では・・・、

佐藤さんのお姉さんの息子のまたいとこ、ということで。」


溜め息をつかれてしまった。

結局、遠い血縁であることに変わりないようだが、

さきほどの設定よりは覚えやすいか。


「えーっと・・・姉の、息子の・・・子、か?」


「いえ、それだと孫ぐらいに歳が離れちゃうじゃないですか。

それでもいけそうですが、さすがに不自然です。

佐藤さんのお姉さんの息子さんのまたいとこ、です。」


「お、おう。」


木下が早口で言うから、余計に覚えにくい。


「姉の、息子の、またいとこ、だな。」


「それをスラスラっと言えるようにしてくださいね。

親戚なのに、言い慣れてない感じだと

ウソだとバレやすいので。」


「そ、そうだな。さすが木下だ。」


「ユンムです。」


「えっ?」


「親戚なのに、名字で呼び合うのはおかしいので。

私も、これからは佐藤さんのことを

『おじ様』と呼びますので。」


「そ、そうか。ユンムか。」


「はい、おじ様。」


「うっ・・・おじ様って呼ばれたことないから、

なんか照れるな。」


「これも早く慣れてくださいね、おじ様。

毎回照れていては怪しさ満点ですので。」


「は、はい・・・。」


さすがスパイだな。

人を欺くことに長けている。

もう、すっかりこいつの中で

オレは『おじ様』になっているのだな。





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― 新着の感想 ―
[一言] 追記です この位置(四角の9番)だと主人公の従甥、従姪に当たるので "主人公の姉の息子のまたいとこ"もしくは"主人公の親のいとこの従姪の子供"とか合ってるかはわからないけど"主人公の親のいと…
[気になる点] 「では、私は・・・ 佐藤さんのお姉さんの息子のいとこ、ということで。」 「はっ?えっ?なんて言った? そんなに血縁を遠く設定する必要は・・・」        ↑ これだと血縁が遠い…
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