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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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国境行きの馬車





その後、10分と経たないうちに、

魔獣の死体は、跡形もなく消えていた。

商人たちの解体は見事なものだ。

血の跡しか残っていない。

その血の跡も、国の警備隊が掃除を始めているから、

まもなく、本当に跡形もなく消えるだろう。

残しておくと、臭うからな。


魔獣による被害は、ほとんどなく

この街から離れた森の方から、

一直線にこの停留場まで走ってきたようだ。

通行人や店など、誰も被害に遭わなかったのは、

不幸中の幸いだな。


「おそらく肉料理の店が多いから、

そのニオイにつられて走ってきたのかもしれない。

たまに、こういうヤツがいるから、

俺たちは、この辺を重点的に警備している。」


そう須藤が言った。

たしかに、うまそうな肉のニオイは、

人も獣も引き寄せるようだ。


須藤は、ぺこりと一礼して去っていった。

部下も3人ほどいたようだ。

その部下たちも一礼して去っていった。

血気盛んな野蛮人じゃなくてよかった。

ちゃんと礼節が分かるやつじゃないか。




魔獣の血の清掃をしている

一人の隊員を捕まえて問う。


「城外警備隊の隊長は?」


「渡辺隊長は夜間警備です。」


あぁ、東の城外警備隊の隊長は、

あの渡辺か。

たしか40代の小柄な男だったはず。

話したことはないが、民間警備隊を

下に見ている奴だと聞いたことがある。

それで、隊員たちも民間警備隊を目の敵にしているのだろう。


「報告は任せたぞ。」


「・・・はい。」


その隊員の顔が急に曇った。


「もしかして、このままを報告すると

渡辺は怒るのか?」


「は・・・あ、いえ、決して、そのようなことは!」


肯定したら上官の悪口になると思ったのだろう。

慌てて否定している。


「そうか・・・。

報告書をここに持ってこい。」


「えっ?」


「ここに居合わせたのも、何かの縁だ。

民間警備隊との見事な連携であったことを

オレのサイン付きで書いてやる。

悪いようにはならんだろう。」


「は、はいっ!」


隊員は、救われたような表情になって

慌てて報告書を取りに行った。


「お優しいのですね。」


そばにいた木下が言う。


「手柄なんて、年功序列のこの国の制度では

無意味だとオレは思っているが、

そう思っていない騎士もいるからな。

実際、やつらに不手際はなかったし、

魔獣討伐してなくとも被害ゼロなら問題ないはずだ。

渡辺に一言残しておけば、丸く収まるだろう。

それと・・・」


オレは木下に向き直りながら


「さきほどは、いい助力だった。ありがとう。」


お礼を言った。


「いえ、私は佐藤さんのパートナーですからね。」


木下は、作り笑顔のまま、そう言った。




隊員が持ってきた報告書に

隊員たちの活躍ぶりを書き、

さらには、その活躍が

「渡辺隊長の指導の賜物である」と

褒めちぎった言葉を記しておいた。

よほどじゃない限りは、これで

隊員が理不尽に怒られることはないだろう。


報告書を書き終えたところで、

ちょうど、国境行きの大型馬車が準備を始めた。

隊員たちと敬礼をし、別れを告げ、

木下の大きな荷物を持ってやり、

いっしょに馬車へ乗り込む。


車内に、あまり人が乗ってこない。

ただ、一人、武装した男が乗っている。

兜までしているから、顔がよく見えない。

しかし、黒々とした髪が見えるから、

おそらくオレよりは年下だろう。

そして、おそらく、こいつは民間の傭兵だ。

お城を中心に、町の中を走り回っている大型馬車と違って、

国境行きの馬車は、人里離れた険しい道を行く。

最終的には、山奥の国境にある村まで行くから

用心棒は必須なのだ。


木下の作り笑顔が、やや緊張している。

傭兵の視線が気になるらしい。

かなり目つきの悪い傭兵だが、

その目に怒気を感じないから、

機嫌が悪いわけじゃなく、もともと目つきが悪いのだろう。


乗客がいなかったので、木下とは対面で座っていたが、

仕方なく、木下の横に座った。

ちょうど、木下と傭兵との間にオレがいる感じだ。

これで、少しは木下のストレスが軽減されるだろう。


「・・・さきほどの自警団の人は

『ソール王国』の民間人だったんですね。」


木下がそう話かけてきた。


「あぁ、須藤という若造か。

そうらしいな。このへんに住んでいるらしいから、

他国からの流れ者という可能性もあるが、

魔獣討伐の手際の良さからして、

まず、この国の出身者と思っていいだろう。」


「この国の人の実力を見る機会だったのに・・・。」


「そうだったな。

まぁ、オレといれば、この先も見る機会はあるだろう。

ただ、さきほどの須藤より劣るかもしれんがな。」


「佐藤さんは、あの須藤という男の実力よりも

自分が劣ると感じ取ったのですか?」


「あ、いや・・・どうだろうな?

実は、あの須藤が魔獣を倒した瞬間は見ておらんのだ。」


「そうだったんですか?」


「あぁ、ただ、警鐘が鳴ってから、

さほど時間が経っていないのに

オレが駆けつける前に倒されているわけだから、

国の警備隊に入れるほどの実力はあると思う。」


「なるほど。

国の警備隊たちなら、あれくらいの魔獣は

朝飯前ってことですね?」


「まぁ、そうだな。しかし、

オレは、須藤よりも年老いているわけだから

そのぶん、実力も劣っていると思うけどな。」


「なるほど・・・。」


木下は、黙り込んで考えているようだ。

今の情報を自分の中で整理しているのだろう。


しかし・・・

自国と他国の魔獣の強さの違い・・・か。

どこまで差があるのやら。

そういうことまで考えていなかったし、

そういう情報は、今まで知らなかったな。

自国の王宮の情報にも疎かったくらいだ。

この無関心が仇になったか。




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