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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第一章 【異例の特命】
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招集されし、おっさんたち




オレは、あの『召集状』で指定されていた時刻より

1時間くらい早く王宮へ向かった。

城門から王宮まで、そこそこの距離があるし、

移動手段が、鈍足の大型馬車だからだ。

自家用の馬なんて、オレの給料では買えない。第一、維持費がかかる。

個人用の馬車を利用すれば、もっと早く着くが

限りある小遣いがもったいない。


「わ~、騎士だ~。かっこいいなぁ~。」


乗り合わせた子供が、オレを見て目を輝かせている。

しかし、そばにいた母親が


「シッ! あの人は『騎士』と違うのよ。」


と、小声で子供を黙らせていた。

・・・失敬な!と思う自分もいるが、言われて当然だと思っている自分もいる。

そう・・・本物の『騎士さま』は白馬に乗って王宮へ行くだろう。

民衆と乗り合わせて王宮へ向かう騎士なんて・・・かっこ悪いったら、ありゃしない。

でも、オレのような『なんちゃって騎士』は、この国に多く存在する。

自家用の馬を所有しているのは、ごくわずかのエリート騎士だ。

今は、たまたま出勤や帰宅の時間帯じゃないから、この馬車で

鎧を着ているのはオレだけだが、朝夕のラッシュ時には

鎧を着た者たちで大型馬車は満員状態になるのだ。

城門行きの馬車へは、鎧を着た者が乗ることは少ないが、

王宮行きの馬車は、毎日『鎧のラッシュ』で大変そうだ。

そういう点でも、つくづくオレは城門警備を選んでよかったと思っている。


のんびりした馬の歩行に揺られて、オレはようやく王宮へたどり着いた。

王宮前の警備室へ行き、王宮へ入る手続きをする。


「おぉ、佐藤! 珍しいな!」


王宮前の警備長である志村が声をかけてきた。

コイツはオレと同期で同じ歳、いつも建前とか関係なく、本音で話し合えるから

けっこう仲がいい。先月、久々に2人で飲みに行った以来だ。


「あぁ、ちょっと人事に呼ばれてな。」


あまり『人事』に呼ばれたことを他人に話したくないのだが、

志村には何も隠せない。というか、隠したくないというか、

オレは苦笑いしながら素直に話した。


「お前もか!?」


志村は驚きの声をあげた。


「ん? 『お前も』ってことは志村もか?」


「いや、オレじゃないけど、数名の隊長が『人事』に呼ばれているらしくてな。

王室へ通すようにと『人事』から連絡をもらってるんだ。」


「王室だと!? 王様に会うってことか!?」


これは予想外だった。

こんなことなら、もっとマシなマントを着てきたのに・・・。


「オレも詳しい内容は聞かされてないんだが・・・

お前、なにか、やらかしたのか?」


そう言って、志村は冗談ぽく笑った。


「平和な城門で、オレがヘマするわけないだろ!」


オレも冗談ぽく笑いながら答えた。

本当に、身に覚えがない。

オレはてっきり『異動』の話かと思っていた。

人事室で、事務的な辞令を受けて、処理されるのだと思っていたが、

オレ1人ではなく、他にも呼ばれた者がいて、王様の前で・・・。

これは、もしかして、本当に『皆勤賞授与』とか?

『金一封』とか当たったりするか!?

そうなった場合・・・女房には黙っておこう。


オレは暗い気持ちから、少し明るい気持ちになりつつある心を

落ち着かせながら、王室へ向かう通路を歩いていた。


「おや、佐藤さんじゃないですか。」


ふいに背後から声をかけられ、オレは振り向いた。

同期の鈴木だった。

鈴木は、東の城内警備隊・隊長だ。コイツと初めて会ったのは

『竜騎士』の試験会場だった。合格発表のときに、

オレと同点で合格したのが鈴木だった。


「おう、鈴木! 正月以来だな! もしかして、お前も呼ばれたのか?」


「えぇ・・・ということは、佐藤さんも?」


「あぁ、今日いきなりの『呼び出し』だろ!?

しかも内容が分からないから、悪い予感しかしなくてな。」


「えぇ、ワタシもそう感じてるんですよ。

なんせ、『赤い封筒』ですから・・・

かなり重たい辞令じゃないかな、と・・・。」


鈴木は、オレと同期で同じ歳なのに、タメ口で話さない。

あくまでも、敬語で、会話も社交辞令って感じがするのだが、

努力家で冷静沈着、考え方はオレに似ているから、

なんとなく気が合うタイプのヤツだ。


「でも、他の隊長も呼ばれてるって話だから、

そんな悪い呼び出しじゃないのかもしれないな。」


オレが少し、お気楽な意見を言ってみたが、


「そうですね。・・・そうだといいのですが。」


鈴木は、気楽になることなく、冷静な眼差しで

目の前の王室の扉を見据えていた。




扉の前の衛兵が、重い扉を開けてくれる。

真っ赤な絨毯が、玉座へ続いていて、すでに2名の隊長が、

王室の中央に立っていた。

さすがに王室で大きな声は出せず、オレは

小さな声が届く距離まで黙って歩き、2名の隊長に近づいてから

久々の挨拶をした。


「おぅ、お2人さん、久しぶりだな。」


南の城外警備隊・隊長の小林、西の遊撃隊・隊長の高橋。


「佐藤隊長、鈴木隊長、お久しぶりです。」


小林は、40代でまだ独身の男だ。城内ならともかく城外が職場なのだから、

ほとんど出会いもないらしい。いい面構えなのに、かわいそうなヤツだ。


「あぁ、佐藤と鈴木か。ご苦労さん。」


逆に、高橋は50代で独身だが、『遊撃隊』の名のとおり、

仕事でもプライベートでも『遊撃』しているという噂の男だ。

紳士を装ってはいるが、腹黒そうなイヤみのある顔をしている。

じつは、2人ともオレとは仲がいいわけじゃないので、

あまり話したこともなく、2人のことは噂でしか知らない。

事務員の金山君からの情報だけだ。


数分後、王宮警備隊・隊長の後藤が

数名の部下を連れて現れた。


「ご、後藤まで呼ばれたっていうのか?」


後藤は、れっきとした『騎士』の資格を持つ、超エリートだ。

40代半ばにして、全隊長たちのトップであると言っても過言ではない。

後藤もまた、オレと仲がよくない。お互いに知らない。

後藤に限っては、仲がいいヤツが職場にいるなんて聞いたことがない。

案の定、先に来ていたオレたちへの挨拶は無言の一礼のみ。

そのまま、オレたちより玉座の前へ近づいて待機し始めた。


「ちっ・・・」


高橋が、気に入らないというような顔で、後藤の後頭部を見つめる。

たしかに、高々としている鼻が気に入らない。

それでも、ヤツの実力や経歴が自分達より上なのは認めざるを得ない。


後藤が来たことにより、オレは、この『呼び出し』が

悪いものじゃないと確信してしまった。

そして、きっと『皆勤賞』の件で呼ばれたのだと、安易に考えた。

心の半分を制していた『不安』が消えていった。




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