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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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巣立ちできない雛




グルースと『ヒトカリ』の前で別れてから、

オレたち3人は、ファロスが入院している病院へと向かった。

まだ面会時間には、少し早い時間だったが、

係の者が特別許可してくれた。


「おはようございます、みなさん。」


「おはよう・・・。」


病室は4人部屋で、ファロスは奥の窓際のベッドにいた。

ほかの3台のベッドも、他の病人で埋まっていて、

白色の薄いカーテンで仕切られているため、

病人同士が顔を合わせることは無いようになっている。

オレが奥へ移動するときに、カーテンの隙間から、チラリと見えたが、

どの病人も、頭や腕、足などが包帯で

グルグル巻きになっていて、なんとも痛々しい。

ファロスも右腕が包帯で巻かれているが他の病人と比べたら軽症に見える。

ファロスは顔色も良くて元気そのもの。

一晩寝て、すっきりしているファロスと

少し疲れた顔のシホが、そこにいた。


ファロスはともかく、昨日、

シホは土まみれで汚れた顔と恰好をしていたが、キレイさっぱりしている。

病院内のシャワー室を借りたのだろうな。

傭兵としての服装を脱ぎ去ってしまっていて、

かなり薄着の格好になっている。

正直、目のやり場に困るから、

ファロスがほとんどシホの方を見ていない。


「あれ?」


「わぁ、綺麗な花ですね。」


ニュシェと木下が気づいたが、

ベッドの横にあるテーブルの上には、

真新しくて綺麗な黄色の花束が置かれていた。


「その花は、先ほど、

グルース殿が持って来てくれたでござる。」


「グルースが!?」


あいつ、オレたちに会うよりも先に、

ファロスのお見舞いに来てくれていたのか。


「自分の依頼のせいで申し訳なかったってさ・・・ふわぁぁあ。」


シホが欠伸あくびしながら答えてくれた。

グルースのやつ、なかなか律儀なやつだな。

もしかしたら、今まで依頼を引き受けて大怪我を負った傭兵たちにも、

同じようにお見舞いをして、謝罪していたのかもしれない。

ならば、なおさら・・・

あの依頼が、町長のものではないことや

反乱軍からの依頼という事実を、

べらべらと周りに喋ってしまう傭兵はいなかったわけだな。


「シホは、やはり眠れなかったか?」


欠伸しているシホに話しかけたが、


「んーーー、俺もしっかり眠れたつもりなんだけどなぁ。

なーんか体がだるいんだよなぁ・・・ん~~~っ!」


シホがそう言って背伸びしているが、

少々、薄着過ぎて、体のあちこちが見えそうになるので、

オレとファロスは慌てて目を背ける。

シホの疲れが取れていないのは、病室の床で寝たからだろう。

宿屋の床でも寝ることはあったが、気を張った状態で

堅い床で寝ると、体の疲れが癒えないこともある。

やはり、シホには今日一日、休んでもらったほうがいいみたいだ。


それから、昨夜、オレたち3人で話し合って決めた

今日の予定を、2人に伝えてみた。


2人とも奴隷商人に囚われている

子供たちを助けることには賛成してくれたが、

今日、オレが単独で洞窟へ行く予定については

本気で心配されて止められた。

しかし、絶対に無茶はしないこと、

『炎の精霊』には一人で挑まないことを

強調して、約束して、ようやく説得できた。


そういえば、今回、オレが単独で洞窟へ行くことについて

木下が、あまり何も言ってこない。

昨夜の話し合いの時でも、少し難色は示されたが、

今のファロスやシホのように猛反対されることはなかった。

少しは信頼されるようになってきたということか。


「それで、拙者に確認したい事とは?」


話がひと段落着いた時に、ファロスがそう聞いてきた。

オレが単独で洞窟へ行く前に、

ファロスに確認したいことがあると話していたからだ。


「あぁ、確認したいことは・・・ファロス、お前は

昨日、剣・・・刀を落としてきたよな?」


「は、はい・・・。一生の不覚でござる。」


昨日、『炎の精霊』に襲われた時、

ファロスは右手で刀を構えて、その刀で飛んできた炎の球を受けた。

その際、その刀を落として来たのだ。

あの暗がりの中、敵が迫って来ている中、

落とした刀を探して拾っているヒマなど無かったのだ。


「いや、あの状況では仕方ないと思うぞ。

命からがら逃げてきたわけだから。

それに、落としたなら、また拾いに行けばいい。

誰にも拾われていなければ、

きっと落ちたままになっているだろう。」


「そ、そうでござるな。」


「それで、ファロス・・・

お前が落とした刀は、長谷川殿から譲り受けた刀か?

それとも、お前の刀か?」


「・・・!」


オレの質問の意図が、ファロスには伝わったのだろう。

ファロスは驚きの表情のまま、黙ってしまった。

そして、その態度を見れば、

どちらの刀を落としてきたのかも明白だった。


「え、どういうことだよ?」


「?」


「・・・。」


シホとニュシェはピンときていないようだが、

木下は、もう気づいたようだ。

ファロスは、2本の刀を所持していた。

この国へ来る前、みんなで野宿した時に、

オレたちはファロスから刀の性質を説明してもらっている。

1本は、ファロス自身の刀。無銘で、普通の武器だ。

しかし、もう1本、

長谷川さんから譲り受けた刀は、普通ではない。


「なぜ、長谷川殿から譲り受けた刀の方を使わなかった?」


「え? あ、そういうことか!」


オレの言葉で、シホのやつは理解したようだ。

今、やっとファロスの刀のことを思い出した感じだ。


「父上の・・・父の『斬魔ざんま』は・・・

拙者には、まだ使う資格が・・・!」


ファロスが暗い表情で、うつむきながら、そう言いだした。

そうだった、長谷川さんの刀は『斬魔』という名前だ。

他人の武器の名前など、

いちいち覚えている方ではないオレは、ほぼ忘れかけていたが。

それにしても、やっぱり、か・・・。


「はぁぁ・・・まだ、そんな資格がないとか言っているのか。

そんなものは、すでに刀を受け取った時、

覚悟が決まっていたんじゃないのか?」


「父の刀を受け継ぐ決意はできました。

しかし、あの刀を使う資格がないと申しますか、

やはり実力が備わっていない内は!」


「はぁ・・・ファロス、お前・・・。」


オレよりも先にシホが溜め息をついた。

受け取る覚悟は決めたが、使う覚悟までは決めてないというか、

使うに足る実力が備わっていない内は使わないというのか。


「はぁ・・・父親が偉大過ぎるのも考えものだな。」


たしかに長谷川さんの実力からすれば、ファロスの実力はまだまだだ。

しかし、比べる対象である長谷川さんがこの世にいない状態で、

「父親の実力を超えた」なんて、どうやって実感するつもりなのか。

父親を尊敬し、畏怖いふの念を抱き、それを超えるために

己を鍛錬するという考え方や姿勢は、褒められる点だが、

ファロスの中の長谷川さんの存在がデカ過ぎて、

いつまでも父親を超えられないという、心の弱さに繋がっている気がする。


「ファロス・・・

巣で育った鳥のひなが、なぜ、

いきなり飛んで、巣立っていけるのか、分かるか?」


「え? それは・・・。」


「えー、なんでだろ?」


オレの問いかけに、考え込むファロス。

シホもニュシェも考え込み始めた。

木下は涼しい顔をしているから、オレが言わんとしていることが

分かっているのかもしれない。


「それは・・・元々、飛べるからでござろうか?」


「親の飛び方を見て、習ったから?」


ファロスとニュシェが、ほぼ同時に答えた。


「2人とも、その通りだ。

雛は、巣で育って、飛ぶ練習も、筋力の鍛錬も何もしていない。

ある程度、雛が大きくなったら親鳥はエサを持って来なくなる。

そして、自ら獲物を獲りに行くため、雛はいきなり巣から飛び立っていく。

練習も鍛錬も無しに、いきなり飛べるのは、

親鳥の飛ぶ姿を見て、飛び方を知っているからだ。

そして、飛べる筋力が最初から備わっているからだ。」


「はい・・・。」


「そうなんだ・・・。」


「分かるか? ファロス・・・

自信がついてから、とか、実力が備わってから、と言っている間は、

ずーっと飛べないんだ。一生、巣の中で、

その訪れない瞬間を待ち続けるつもりか?」


「え・・・。」


「お前の待ち続けている、『実力が備わってから』という瞬間は、

お前が、あの刀を使った後にしか訪れないんだ。」


「・・・。」


「ファロス・・・。」


暗い表情でうつむいているファロスの肩に、

ポンっと、シホが優しく手を乗せる。

「肩の力を抜いて、難しく考えないで」と、

シホなりに伝えているかのように見えた。

しかし、そのファロスは、眉間にシワを寄せて、

さらに、重く、難しく考えているように見える。


「まだ、覚悟ができないか・・・。」


「・・・。」


まだ巣立つには早いのか? まだ時間が必要なのか?

オレから見れば、それを決めるのは、自分の心ひとつのように見える。

心を決めない限り、ファロスがどんなに鍛錬したところで、

いつまで経っても、自分の中の父親という存在を超えることはできないだろう。


「・・・では、ファロス、すまないが、

長谷川さんの刀を、今日一日、オレに貸してくれないか?」


「え!」


「えぇ!?」


オレの突然のお願いに、ファロスだけじゃなく、

この場にいる一同が驚いている。


「おじ様、何をするつもりですか?」


「いや、何をって・・・

昨日、ファロスが使った刀が、長谷川殿の刀だったなら、

精霊の放った炎は、魔法とは違うから斬れなかった・・・と判断できるが、

昨日、ファロスが使ったのは、元々、ファロスが持っていた刀だったわけだから、

長谷川殿の刀が、あの精霊に通用するかどうかが分からないままだ。」


長谷川さんの刀は、魔法が斬れる、魔道具の刀。


「あの精霊のエネルギーは、魔力とは違うらしいが、

魔力にかなり似た性質だと、ユンムが持っている本には書いてあった。

ならば・・・攻撃として放ってきた炎も、『炎の精霊』本体も、

長谷川殿の刀なら、斬れるかもしれない・・・。」


「し、しかし、それを試す方法って、つまり・・・!」


オレの話を静かに聞いていた木下だったが、

オレがやろうとしていることに気づいたらしい。

少し慌てている。


「まぁ、長谷川殿の刀が通用するかどうかを試すとなれば、

結局、あの『炎の精霊』と対峙することになるわけだが、

先に言った通り、オレは一人であいつと戦うつもりはない。」


「では、どうやって・・・?」


「いや、今日は、洞窟へ行ったついでに、

ファロスが落とした刀を拾って来ようと思っていてな。

オレの予想では、ファロスが刀を落とした場所から

『炎の精霊』がいる場所は、けっこう離れているから、

刀が落ちている場所よりも、奥へと進まなければ、

たぶん、やつは出てこないと思っている。」


「しかし、もし、『炎の精霊』が現れたら!」


木下の心配そうな声。

やはり、まだ信頼されて・・・

いや、これは信頼とは、また別だよな。

オレが木下の立場でも、やはり同じく心配になる。


「その時の保険が、長谷川殿の刀、というわけだ。

もし、やつが現れて、遠い距離から、

昨日のような炎の球を投げてきたら・・・刀で斬ってみる。

斬れれば、そのまま無事に逃げてこれるってわけだ。」


「刀が通用するかを試すのが本来の目的じゃなく、

刀は、いざという時の保険、か・・・。」


シホが、あまり納得していないような顔で言う。


「そういうことだ。

試すつもりで行くのではなく、試す機会があれば試すだけだ。

まぁ、もし通用すると分かれば、

次にみんなで戦う時、長谷川殿の刀が有効ってことになるわけだ。」


「でも、それって・・・もし、刀が通じなかったら・・・。」


「・・・。」


ニュシェが、オレの提案の弱い部分を突いてきた。

みんなも同じことに気づいていたようで、黙ってしまう。

たしかに、その通りだ。

刀が通用する前提で「無事に逃げてくる」と言ったが、

刀が通用しなかった場合・・・

その時は、オレもファロスと同じ、大きな火傷を負うことになる。

ファロスは右腕で済んだが、飛んでくる火の球の大きさによっては、

全身、あの炎に焼かれることになり・・・

最悪の場合、その一発で即死も有り得るのだ。


「シホ殿・・・拙者の荷物から刀を取ってくだされ。」


「! ファロス・・・。」


「・・・!」


重い沈黙を、ファロスが破った。

ファロスが、ベッドの横にあった自分の荷物から、

刀を取って欲しいと、シホにお願いした。

シホは、うなづいて、言われた通り

ファロスの荷物から刀を取り、ファロスへ渡す。


「・・・父上・・・母上。」


「・・・。」


刀の柄には、赤いひもが巻かれてある。

ファロスの母親の髪結い紐だ。

この刀は、ファロスの両親の形見でもある。

そんな大事なものを、他人のオレに貸してくれるだろうか・・・。


しばらく、左手で刀を握りしめて、

刀を見つめていたファロスが、その刀を、オレの前に差し出す。


「佐藤殿、『斬魔』を、持って行ってくだされ。」


「オレから頼んでおいて、なんだが・・・いいのか?」


「きっと父上なら、同じことをしていたはず。

この『斬魔』が、佐藤殿を守ってくれると、

拙者は信じております。」


ファロスから刀を受け取った。

以前も手にしたことはあったが、あの時よりも、

重みが増している気がする。


「ありがとう、ファロス。」


「でも、くれぐれも無茶はするなよ、おっさん。」


「無茶はダメだからね。」


シホとニュシェが心配して注意してくれる。


「分かっている。」


「・・・。」


こういう時に、とやかく小言を言いそうな木下が、

今回は、あまり口を出してこない。

信頼されていると思いたいが、ここまで普段と違っていると

少々、不気味に感じる。






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