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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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テキゼントウボウ





ゴォ! ゴゥ! ゴォ!


人の形をした炎が、片膝をついているように見えていたが、

その炎が、ゆらりと立ち上がった。

穴の向こうから流れてくる空気が、

ひんやりしたものではなく、ナマ温かい空気に変わっている。


「はぁ・・・はぁ・・・!」


オレは、やっとみんなのいる位置へと辿り着いた。

そして、みんなと同様に

左側に大きく開いた穴から、向こう側の広場を見ていた。


「あ、あれが?」


「『炎の精霊』!?」


オレだけじゃなく、シホも半信半疑だ。

さきほどのグルースの言葉が信じ切れていない。

しかし、今、見ている光景を説明するには、じゅうぶんな言葉だ。

『炎の精霊』らしき、炎が、こちらを見ている。


「ボォホォゥォォォオオオオオ!!」


「!?」


炎のうねりが、まるで魔獣の低いうなり声のような音を立て始めた!

いや、これがこいつの声なのか!?

穴の向こうから、熱い空気が流れ込んでくる!

この場の温度が、どんどん上がっていくのを肌で感じる!


「な、なんで、ここにアレがいるんだよ!?」


「さっきの爆発で、壁が壊れて、ほかの通路と繋がってしまったんだ!」


「なんで、よりによって、アレがいるとこに繋がっちゃったんだよ!?」


「知るか!」


シホの叫び声のような問いに、グルースが答えていたが、

最後にはシホと同じように叫んでいた。


これは、全くの予想外だ。


オレは、この子供を守りたい一心で、あの爆弾を蹴った。

オレの中では、一瞬の迷いもなく、

右足が吹き飛んでしまう覚悟で、蹴ったのだ。

運良く、あの爆弾は蹴っただけでは爆発せずに、

壁にぶつかるまで爆発しなかった。

しかし、まさか、その壁のすぐ向こう側が

『炎の精霊』がいる通路だったなんて・・・

ここにいる誰にも想像できなかったはずだ。


だから、誰にもオレを責めることは・・・


「おっさん! なんで、こうなっちゃったんだよ!?」


そう思っていたが、シホがオレを責めるように聞いてくる。


「知るか!」


オレもグルースと同じように叫んでいた。

実際、なんでこうなってしまったか、なんて知る由もない。

不可抗力というやつだ。


「ボォォォオオオ!」


「っ!」


『炎の精霊』の声で気づいたが、

いつの間にか『炎の精霊』がゆっくり、ゆらりゆらりと

こちらへ向かって歩き始めている!


「ワレハ・・・ホノォォオノ、セイレイィィィ!

ジャァファァーフゥーーー!」


「!!」


人の言葉を喋れるのか!?

小さな炎の息を吐き散らかしながら、『炎の精霊』が名乗り上げた!

やはり『炎の精霊』なのか!


「アイコトバァァァ・・・!

アイコトバヲォォォ・・・!」


「な、なんだ!?」


いったい、何を言っている!?

アイコトバオ?


「て、撤退だ! 佐藤さん!」


「さ、佐藤殿! 撤退を!」


「はっ! そ、そうだ! 撤退だ!」


あまりにも不可思議な光景だったからか、

恐怖のあまりだったのか、

逃げることも忘れて、呆然と立ち尽くしてしまっていた!

まだ相手との距離は、じゅうぶんある!

グルースとファロスの言葉で我に返ったオレは、すぐに撤退の指示を出した!

シホがランプを灯し、先頭に立つ!


「ぅっ・・・ぅ・・・おじ、さん・・・!」


「!」


呼ばれて気づいたが、

ニュシェの耳が垂れ下がり、体がブルブル震えて、

足もガクガクしている。

ダメだ。ニュシェは本能的に『炎の精霊』に怯えている!


「ファロス! ニュシェを・・・!」


スラァァァ・・・


ファロスにニュシェを背負ってもらおうと思ったが、

ファロスは、すでに刀を抜き、『炎の精霊』へ剣先を向けている。

オレたちの背中を守るつもりのようだ。


「俺が背負う!」


「あぁ、頼む!」


グルースが逃げようとしていたが、オレの声で気づき、

ニュシェの元へ駆けつけ、足がすくんでいるニュシェを背負ってくれた。


「い、急げ! シホ、道を間違えるなよ!」


「分かってる! 行こう!」


ダッ


先頭のシホと木下が走り出し、その後を、

ニュシェを背負っているグルースが続く!

オレもそれに続いた!


「ファロス! 遅れるな!」


「御意!」


オレより後方のファロスは、『炎の精霊』に刀を向けたまま、

オレたちについてきている!


ちらりとファロスの奥、向こう側にいる『炎の精霊』を見たら、

やつが、やつのエネルギーが、一気に膨れ上がった!?


「ボォハァァァー! テキゼントォォボォォォ!

ボォハハハハァァァ!」


ボォン!


「はっ!?」


あの『炎の精霊』のエネルギーが膨れ上がったと思ったら、

突然、爆発音とともに、こちらへ向かって

大きな炎の塊が!!


「はぁ!」


ザッ! ボォン!


ファロスが、こちらに飛んできた炎の塊に向かって、刀を振った!

一瞬、炎が斬れたように見えたが、その刀ごと

ファロスの右腕が炎に包まれた!


「ぐああああああ!」


ガシャッ!


「ファロス!」


ファロスは、刀を落として、腕を振っている!

炎を振り払おうとしているようだ!


「ダメだ! ファロス!

燃えている腕を振ったら、逆効果だ!

地面に転がれ!」


「うぁぁーーーっ!!」


ドッ ゴロゴロゴロッ


オレの声が届いたようで、ファロスが地面に転がる!

オレは、抱えていた子供をそっと地面に下ろし、

地面の土をかき集めて、転がっているファロスにかけた!


「ファロス!」


先頭を走っていたシホが、こちらに気づき、立ち止まったが、


「ダメだ、シホ! 振り返るな! 走れ!」


「わ、分かった!」


オレの指示で、シホがまた走り出した!

オレたちから、ランプを持ったシホがどんどん離れていく。

オレとファロスがいる辺りが、少しずつ暗くなっていく。

ファロスの右腕についた炎が消えかかっている。


「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!ゲホッ!」


やっと右腕の炎が消えて、

土まみれになったファロスが乱れた息を整えるが、


「ボォハハハハァァァ!」


あの『炎の精霊』が、あの壁の穴から出てこようとしている!

近づいてくる! 急がねば!


「! 立てるか? ファロス! 走るぞ!」


「ぎょ、御意!」


苦痛の表情だが、ファロスは、すぐさま立ち上がったので、

オレは子供をまた抱えて、2人で走り出した!


「ボォハハハァァァ! ボォハハハァァァ!」


背中から『炎の精霊』の笑い声のような声が響いてきたが、

あのエネルギーの高まりは感じない!

オレたちは、先行して逃げているシホたちに追いつくために、

振り返ることなく、走った!


「ボォハハハハァァァ! テキゼントォォボォォーーーォ!」


オレたちが走れば走るほど、感じていた『炎の精霊』の

エネルギーが遠のいていく。

やつは、あれ以上、追ってこないようだ。


前方の薄い明かりを頼りに走って行ったら、

オレたちは、すぐにシホたちに追いつけた!


ダッダッダッダッダッ


「はぁ! はぁ! はぁ!」


「ぜぇ! ぜぇ! ぜぇ!」


洞窟内は、オレたちの慌ただしい足音と、息切れの声が響き、

背後から響いてくる、あの『炎の精霊』の笑い声が遠のいていって・・・

最後に聞こえた「テキゼントウボウ」の声が、オレの頭に響いていた。




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