表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
388/501

初めての魔鉱石採掘




『アニマの洞窟』・・・。

洞窟の出入り口に、山風が当たり、不気味な音を響かせていたが、

洞窟内は風が無く、極端に空気の流れ悪い。

洞窟の奥は、どこにも繋がっていないということだろう。

しかし、日陰というだけで外よりも涼しく、漂う空気がひんやりしている。

ここまで山道を登ってきて火照った体には、心地良い空気だ。

先頭のファロスがランプを掲げながら歩いて、

そのすぐ後ろに、グルースが道案内役として歩いている。

一番後方を歩いているオレも、ランプを掲げている。

ゆらゆら揺れるランプの光に照らされて、洞窟内の壁が見える。

あちこち、掘られた跡があり、凸凹していて、

どう見ても魔鉱石があるようには見えない。

すでに採りつくされていると感じる。


洞窟の出入り口で見つけた足跡だが、洞窟内にも

ところどころあるみたいだ。だが、立ち止まって

注意深く見ない限り、確認できない。

それぐらい、洞窟内はランプだけでは薄暗い場所だ。


オレの目の前を歩いている木下が、時折、頭を抱えている。

『ゴブリン討伐』よりは簡単そうに見えた、今回の依頼・・・

しかし、すでに『ゴブリン討伐』よりも、複雑な状況になってきている。

最悪の場合、帝国軍と対峙することになる・・・。

身元がバレて、反逆罪に加担したとなれば『ヒトカリ』から除名処分どころか、

指名手配されて処分される可能性もある・・・。

頭を抱えている木下を見ていると、

依頼書を手に取ってしまった自分に責任があるから、心苦しく感じる。

このまま、魔鉱石だけ回収して、何事もなく帰りたい・・・。


「むっ・・・。」


しばらく真っすぐ歩いていたら、最初の分岐点に着いたようだ。

ファロスの持つランプに照らされて、

大きな道が左右に分かれているのが見えた。

ファロスが立ち止まり、周囲に気配が無いのを確認してから、

小声でグルースに道を聞いている。

洞窟内は広いが、大きな声を上げれば、たちまち響き渡ってしまう。

声を出すにしても注意が必要だ。

いつもはうるさいシホも、それが分かっていて黙っている。


「ここを左へ行って、この先、すぐ横に、

岩の影になって分かりづらい小道があるんだ。」


そう小声で教えてくれたグルースに続いて、

左の道を少し歩いていくと、本当に、岩の影になって

気づかなかった細い道の穴が見えた。


「たしかに、地図にも小さく記されていますが、これは気づきませんね。」


木下が地図で確認しながら、そう言った。

洞窟の壁と同じ色の岩だから、グルースに教えてもらわなければ

見過ごして、そのまま大きな道を進んでいただろう。

ここまで歩いてきた大きな道よりも狭い道になっている。

さっきまでが、10mほどの広さだったから、

この細い道は、5mほどだろうか。

心なしか、天井も低く感じる。

こんな道で、敵に襲われたら、少し戦いづらいだろうな。

そう、用心しながら先頭のファロスたちの後に続いて進んでいく。


「ここだ。」


「ここは・・・。」


ファロスとグルースが足を止め、オレたちも立ち止まる。

細い道が、急に広くなったと思ったら、

そこは、広い空洞になっていた。

かなり天井が高い。ランプの灯りが届かず、真っ暗だ。


「広いね・・・。」


ニュシェが、小さくつぶやく。

ランプの灯りが、かろうじて壁に届いている状態。


「な? すごいだろ?

あんまり採掘された形跡が少ないから、

たぶん、昔は、鉱夫こうふたちの休憩所か、

物置き場として使われていたんじゃないかな。

その証拠に、そこらへんに、つるはしやスコップとか

よく落ちてるんだ、ここは。」


グルースが自慢げに、そう言った。


「こうふ?」


炭鉱夫たんこうふとも言います。

鉱石を採掘する労働者たちのことです。」


ニュシェが鉱夫の意味を知らなかったようで、

木下が教えてあげている。


「ここへ通じる道の前に、あれだけ大きな岩があったから、

ここで鉱石を大量に採掘しようにも、

運び出しづらかったのかもしれませんな。」


ファロスが、そんなふうに推測している。

たしかに。あの岩は、なんだか壁の岩肌と似ているようで、

それでいて、異質な印象を受けた。

もしかしたら、あの岩自体が、何かの鉱石で

ちょっとやそっとでは砕けなかったのかもしれない。


「まぁ、大昔のことだから、誰にも真意は分からないけどな。

俺がガキだった頃、ここを見つけた時は、

秘密の隠れ家を見つけたみたいでワクワクしたものさ。」


グルースが、少し嬉しそうな声で、そう言った。

なんとなくグルースの気持ちが分かる。

男子なら、そういう秘密の場所というか、

自分たちだけの秘密の隠れ家に憧れるものだ。


「ここは広いが、完全な行き止まりなんだな。」


オレは、そのままランプの灯りが届いている壁の方へ少し近づいてみた。

この広い空間から、さらにどこかへ通じていそうな

細い道や穴は見当たらない。

そして、気配でも分かっていたが、この場所には

オレたち以外の人間も魔物もいないようだ。


「そうだ。本当に近かっただろ?

ここから迷うことなく帰れるし、

ここで『ゼーレ』が見つかれば、すぐに帰れるしな。」


グルースは自慢げにそう言った。

たしかに、これなら洞窟の地図を持っていないガキでも、

迷うことなく洞窟の出口へと戻れるだろう。


しかし・・・ここが行き止まりということは、

あの細い道から敵が来たら、逃げ場がないということだ。

もし、あの細い道を塞がれたら、生き埋めになるし。

用心しておかなければ・・・。


「よっしゃ、じゃぁ、さっそく探すか。」


小声ながらも、少し気合いの入った声でシホがそう言った。

シホがキョロキョロと足元を見渡し、

スコップらしき物を見つけて拾っている。

オレも壁側に置いてあった、古びたつるはしを見つけて、それを手に取った。


「もし、道具が無かったら困ると思って、

一応、俺のバッグの中に、小型のつるはしを3本ほど

入れてきたんだが、なんとかこの場の物で済みそうだな。」


グルースがそう言いながら、自分のバッグから

ハンドアックスぐらいの大きさの、小型のつるはしを取り出した。

弁当箱を置いてきたのに、まだ重そうにしていると思っていたら・・・

本当に用意周到な男だな。


いや、今さらながら『魔鉱石採掘』の依頼だというのに、

オレたちは魔鉱石を掘る道具のことを失念していた。

依頼を受けておきながら、採掘のことを全然分かっていなかった。

・・・オレは、本当に無知だなぁ。


「ならば、拙者は、グルーズ殿のつるはしを貸していただこう。」


「あぁ、使ってくれ。」


ファロスが気を利かせたのか、グルースから

小型のつるはしを借りている。

あんな小さな物で、コツコツ掘るのか?と一瞬思ったが、

よく考えれば、今回は、ただ穴を掘るのではなく、魔鉱石の採掘が目的だ。

むしろ、魔鉱石を壊さないように、コツコツ掘るのが正しいのか?


「魔鉱石『ゼーレ』は、紫色の鉱石だ。

そして、『ゼーレ』は、かなり硬い鉱石らしい。

それでも、あんたらの力加減では粉々に砕かれることもあるだろう。

でも、粉々でもいい。持ち帰って『カラクリ人形』に入れちまえば、

大きさは関係ない・・・はずだ。」


オレが大きめのつるはしを持って、動かずにいたから、

オレの思考を読み取ったのかもしれない。グルースは、そう言いだした。

魔鉱石を粉々にしても大丈夫なら、道具は、これでもいいということか。


「で、でも、掘削する音が大きすぎると、

洞窟内に反響してしまうと思います。

それに、やりすぎると壁や天井が崩落する恐れがありますし・・・。」


木下が、慌てて注意をしだした。

音の反響は、たしかに気を付けたいところだ。

俺の索敵能力の範囲は半径30mほど。

しかし反響した音は、それ以上に響き、遠くの敵に伝わってしまうだろう。

ほどほどに加減しなければいけないか。





カッ カッ カッ ゴツ ゴッン ゴツン


オレたちは、おのおの、黙々と魔鉱石を探し始めた。

オレは、なるべく壁の奥へ奥へと突き進むように、壁を掘っている。

壁は、堅い土や石で出来ており、力を加減しながら

つるはしを振り下ろしているため、なかなか掘り進まない。


カシィィィン!


「っ!」


たまに石よりも硬い物に、つるはしがぶつかり、

その衝撃で、手がしびれそうになった。

しかし、それでも魔鉱石は出てこない。なかなかの重労働だ。


ファロスとグルースも、オレとは違う箇所の壁を

コツコツと掘り進んでいる。

シホとニュシェは、地面を掘っていて、

木下は、みんなが掘り起こした土や石の中から、

魔鉱石が紛れ込んでいないかを手探りしている。


魔鉱石というくらいだから、魔力を含んでいるはずだ。

しかし、掘っても掘っても、それらしい魔力を感じられない。


「ふぅ・・・。」


オレは溜め息に似た息を吐き、少し手を止めた。

地面に置いてあるランプの灯りが、オレの背中を照らし、

目の前の壁に影を映し出している。

ランプの火の揺れ具合で、オレの影もゆらゆらしているように見える。

ふと見上げても、ランプの灯りが吸い込まれてしまうほどの闇・・・。

天井が見えない・・・陽の光がない・・・閉鎖された空間・・・。

息が詰まりそうになる。時間の感覚が分からない。

壁を掘り出して、いったいどれだけ時間が経ったのだろう?

まだ30分も経っていない気もするし、すでに1時間くらい経っている気もする。


「はぁ・・・全然、見つからねぇもんだなぁ。」


オレの溜め息に触発されたか、シホも溜め息をついた。

無駄に喋りながら作業をすれば、掘削の音とともに、

洞窟内に反響して、知らず知らずのうちに敵を招いてしまう・・・。

それが分かっているから、今まで

黙って作業していたシホだったが、さすがに飽きたのかもしれない。


「ふぅ・・・簡単に見つかるわけがないさ。

ここは廃坑になった採掘場なんだからな。」


グルースが、シホの愚痴に答える。

そうだ、廃坑になった採掘場・・・。

つまり、魔鉱石は採り尽くされているはずだ。

少量でも残っていればいいほうだろう。

それを探しにオレたちは・・・。


「しかし、俺は採り尽くされているとは思っていない。」


「え?」


グルースもオレと同じ考えだと思っていただけに、

その言葉が意外だった。


「どういうことですか?

採掘不可能なほど採り尽くされたから廃坑になったのでは?」


木下も不思議がっている。


「そうかもしれないが・・・そうじゃないかもしれない。

なんせ、ここが廃坑になったのは数百年前のことだ。

誰にも真相は分からない。

けど、歴史の本を読んでいて思ったんだ。

ここに『エルフ』たちが幽閉されて、この国の内乱が激化したのも数百年前・・・。

もしかしたら、ここが廃坑になった理由は、

魔鉱石が採り尽くされたんじゃなくて・・・。」


「まさか、『エルフ』たちを幽閉しておくために?」


「・・・かもしれないって話さ。

数年前、『ヒトカリ』の調査隊が、この洞窟で

『エルフ』を守っていると言われている『炎の精霊』を

発見したって話を聞くまでは、俺も信じてなかったけど・・・

今は、俺の仮説の可能性が高いと思っているっ。」


ガツ!


木下の問いに答えながら、グルースは、つるはしを壁に突き立てた。

その音が鳴り響き、それを合図に、

オレたちは、また黙々と作業を再開した。


たまたま、この洞窟についての話をしているから、

やたらと歴史の話が出てくるだけかもしれないが、

グルースは歴史に詳しいのかもしれない。

この国の英雄の反逆が発覚して処刑された年・・・

それをきっかけに内乱が激化した年・・・

『エルフ』たちが幽閉された年・・・

それらと、この採掘場が廃坑になった年が一致しているのなら、

グルースの仮説は、たしかに可能性が高い。


『エルフ』たちを幽閉する際、

『炎の精霊』に守らせているぐらいだ。

炭鉱夫たちにとっては採掘どころではない。

そして、そのまま廃坑か・・・なるほど。


カッ ガッ カッ


グルースが振るう、つるはしの音に続き、

オレやファロスが振るう、つるはしの音も鳴り響く。


魔鉱石は採り尽くされていない・・・。

それはグルースの仮説であり、可能性の話だ。

第一、まだ魔鉱石が採れるなら、それは大切な資源。

世界中の国々が欲しがる資源を

数百年も放置されることは無いだろう。

廃坑にして、炭鉱夫たちを洞窟から追い出した後に、

この帝国の者たちが採り尽くした可能性もある。

盗賊などに盗られている可能性も・・・。


でも・・・


極めて低い可能性であっても・・・

採り尽くされたと決まったわけではない。

そっちのほうの可能性を信じたくなる。


カッ カッ ガッ


・・・オレが『ドラゴン討伐』の特命を引き受けて、

こうして、ここまで旅を続けてきたのと同じように・・・。

グルースは、オレと似ているのかもしれない。

だからこそ、グルースを信じてしまうのかもしれない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ