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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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寝る前にお勉強を



宿屋『リュンクス』の夕食は、大満足だった。

途中、食堂にヴァイオリンの弾き語りの男が入ってきて、

ほかの客がチップを渡し、演奏をしてくれた。

オレたちは、ヴァイオリンの音色と美味しい食事を堪能したのだった。


終始、笑顔だった木下。

いつも警戒を怠らない木下が、少し油断しているようにも見えた。

だから、オレは酒を1杯だけにとどめておいた。

毒などの知識がないから、食事の警戒は出来ないが、

せめて酔いつぶれない程度に、と思ったからだ。

しかし、どうやら気にし過ぎだったようだ。

食事に変な物はなく、どれも絶品で、

体調を崩す者もおらず、みんな、満足したようだ。


食後、宿泊部屋へ戻り、順番にシャワーを浴びた。

女性陣に、先にシャワーを使ってもらい、オレたちは後で使ったが、

女性陣の最後、シホのやつが、

シャワー室で自分の下着を洗濯して干していたため・・・

その直後に入ってしまったファロスが真っ赤な顔をして

倒れてしまうという、小さな騒動があったが・・・。

なんとか全員、さっぱりすることができた。


その後、おのおの寝る準備をした。

オレとファロスは、床で寝るために、

ほかのメンバーの衣類が入っている袋を借りて

それを布団代わりにして寝ることに。


みんなの寝る準備が出来たところで、木下から

『カシズ王国』で『イノシシタイプ』の魔獣を討伐した報酬金を分配してもらった。

オレとシホの分だけ、借金の分を差し引いた金額だ。

それでも、今のオレにはじゅうぶんな金額。

ここの宿屋の食事代は、そんなに高くなかったし、

一週間ぐらいは飲食と寝泊まりができそうだ。

しかし、旅を続けるには、ぜんぜん足りない。

また借金のある生活に戻らないように、早く稼がねばならない。


それから、明日の『魔鉱石採掘』のための作戦会議をした。

どんな洞窟なのかは分からないが、

『ヒトカリ』でもらった見取り図があるから迷うことは無いだろう。

もし、狭い洞窟の場合は、

先頭にファロス、その後ろにシホ、木下、グルース、ニュシェ、

そして一番後方はオレの順番で行くことにした。

警戒すべきは、『小鬼』と呼ばれている魔物『ゴブリン』。

集団で行動し、集団で襲い掛かってくる。女と子供が標的になりやすい。

だから、前と後ろを、オレとファロスで守りながら進む。

依頼主のグルースも戦闘はできないだろうから、女子供と同じ扱いだ。

シホと木下は、防御に徹する。

ニュシェは弓矢で後方から援護してもらいたいが、

おそらく洞窟内は真っ暗で狭いから、遠くにいる敵を射貫くのは容易ではないだろう。

さらに相手が集団となれば、単発しか射ることができない弓矢は不利だ。

よって、ニュシェも防御に徹してもらう。


話し合いが終わって、いざ寝ようとしたら、


「まだ寝ないで下さいね、おじ様?」


「うっ・・・分かった。」


木下から『炎の精霊』について、本を見ながら説明してもらうことに。


ひとつに『精霊』といっても、『火・水・風・土』の他にも何種類もいるらしく、

さらに『炎の精霊』の中にも、数種類いるらしい。

大きさも、性格も、攻撃方法も様々。正確な種類は誰にも把握できてないそうだ。

人間に協力的な者もいれば、人間を敵視している者もいるとか。

『精霊』たちの原動力となるエネルギーも、それぞれ異なるらしい。

だいたいの『精霊』は、人間界におらず、『精霊界』という別次元にいて、

こちらへは召喚されて現れたり、自らこちらへ来る者もいるとか。

エネルギーが整っていて、その『精霊』が住みやすい場所ならば、

人間界であっても、自然と『精霊』たちが集まってくる場所もあるとか。

いろんな例外もあるから、洞窟の『炎の精霊』が

どのような経緯で、洞窟にいるのかは不明だ。


それと『炎の精霊』が、洞窟内を自由に徘徊している可能性はないか?と、

木下に聞いてみたのだが、目撃情報や歴史の話を聞く限りでは

その『精霊』の目的が「幽閉されている『エルフ』たちを守るため」であることから、

おそらく徘徊せずに、『エルフ』たちが幽閉されている一か所の場所で

ジッと敵を待っている状態だろうと・・・木下が推測した。

木下の推測が当たっていれば、

オレたちがうっかり『炎の精霊』に出会う可能性は低いだろうな。


洞窟にいる『炎の精霊』の特徴を、事前に調べておけば、

遭遇してしまった時に対応しやすいと思ったが・・・

相手がどんな精霊か分からなければ調べようがない。

『炎の精霊』というぐらいだから、相手は炎を使った攻撃方法だろうが、

それ以上のことは分からない。

やはり遭遇したら、一目散に逃げた方が良さそうだ。


木下からの授業が終わり、やっと眠れることになった。

木下から色仕掛けで迫られるかと警戒していたが、

特にそんな様子もなく、女性陣はベッド、オレたち男性2人は床で寝た。

ファロスは女性に対して免疫がなく、

同じ部屋で寝ることに緊張している様子だったが、

ほどなくして寝息が聞こえてきた。


今日、『クリスタ』の町に到着してから、いろいろあった気がする。

明日は『エルフの洞窟』での魔鉱石採掘だ。

依頼主であるグルースを連れて・・・。

以前の『レスカテ』の洞窟の時のように、

魔獣の大群に襲われることが無ければいいが。

いや、この国では『ゴブリン』の集団を警戒しなければいけないのか。


オレはしばらく起きていたが、

オレ以外の全員の寝息を聞いていたら、いつの間にか眠ってしまった。




翌朝、


「おはようございます。佐藤殿。」


「おはよう、おじさん。」


「んん? ・・・も、もう朝か?」


オレは、ファロスとニュシェに起こされた。

衣類の袋を布団代わりにしていたが、やはり硬い床の上で寝たから、少し体が痛い。

それでも、しっかり眠れたから疲れはとれている。

でも、まだ眠いな。


それにしても・・・


「んーーー・・・なんだか薄暗いな。

今朝は天気が悪いのか?」


オレは、上体を起こして腕を上へ伸ばしながら、

カーテンで閉まっている窓のほうを見た。

確かにカーテンの隙間から、明かりが入ってきているが微妙な明るさだ。

曇っているのかもしれないと思ったが、違っていた。


「いえ、佐藤殿。今、ちょうど陽が昇り始めた頃でござる。

本日も天気が良さそうでござる。」


「早朝鍛錬には、もってこいだね。」


「な、なに?」


オレは、日の出とともに起こされたのか。

道理で・・・外が薄暗くて、眠いはずだ。

部屋を見渡すと、木下とシホがまだベッドで寝ている。

ファロスとニュシェが少し声を抑え気味に話しているのは、

2人を起こさないためか。


「早朝・・・鍛錬・・・?」


オレが眠い目をこすりながら聞き返すと、

ファロスとニュシェが嬉しそうに答える。


「うん、早朝鍛錬。

あたしに斧の使い方を教えてくれるんだよね? おじさん?」


「拙者との手合わせも、お願いいたします。」


「・・・。」


なるほど、鍛錬か。

そういえば、この国へ来る前、野宿した時に

そういう話の流れになって、約束してしまったような・・・。


「たしかに、そういう約束だったが、

な、何も、今日じゃなくていいんじゃないか?

今日はこれから洞窟での探索も控えているわけだし・・・。」


オレは、やんわりと断ろうとしていた。

洞窟内では魔鉱石採掘が目的だが、敵との戦いも想定している。

こんな早朝から余計な体力は使いたくないのだが。


「実戦のための鍛錬、なんでしょ?

だから、実戦前に鍛錬しなくちゃって思って。」


ニュシェがまっすぐな瞳を向けて、そう言う。

・・・正論過ぎて言い返せなくなる。


「し、しかし、鍛錬するにしても場所が・・・。」


「この宿屋の裏手に、程よい広さの、庭のような場所がありました。

手頃な木枝も落ちてそうでござる。手合わせには、もってこいな場所かと。」


オレの逃げ道は、ファロスによって断たれた。

まるで、オレの言い訳を予想していたかのように。

・・・観念するしかないか。


「・・・2人とも、お手柔らかに頼む。」


「オテヤワラカニ?」


「はい!」





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