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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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大規模討伐陣の件



「このあとの東の国境まで、

半日かかるだろうから

今日は、国境の村で宿を探そう。」


屋台の前にテーブルとイスがあったので

そこで、食事をする。


木下と昼飯を食べながら、

今後の予定についての話をする。

おおまかな道と予定は話してあるが、

予定というのは、その都度、話し合うべきだ。

だいたい、当初の予定がすでに狂ってしまったから

予定修正が必要だ。


「まだ口の中がヒリヒリします・・・。」


「それは、本当にすまなかった。」


木下は、オレに愚痴をこぼしながら

口直しとばかりに『麺』という料理を食べている。

あっさりした醤油の出汁だしに、

特別な粉を練って、細く切った『麺』が入っている。

そして、木下が食べ残した肉料理をオレが食べている。

まぁ、なかなか・・・辛い。しかし、うまい。

酒があればいいなぁ。


「国を出るだけで1日費やしてしまいましたね。」


木下がそんなことを言ってくる。

誰のせいだ・・・と思ったが、それは言うまい。


「小国ではあるが、土地の広さだけは

ほかの国に匹敵するほど広大ということだな。」


これだけ土地があるのだから、

人々がたくさん住んでいてもおかしくないのだが、

我が国は、あまり発展していない。

国の政策が大きく影響しているのだ。


「それにしても、なぜ

広大な土地に、魔獣がいないのですか?」


「ん? いや、いるよ。

ただ、極端に少ないから運よく遭遇しないだけだ。

魔獣だけじゃなく、普通の害獣なども生息している。」


「『大規模討伐陣』・・・のおかげですよね?」


「あー、そうだな、それを定期的にやっている

おかげであるのは、確かだな。」


木下の言う『大規模討伐陣』とは、

『ソール王国』の政策のひとつで、

10年単位で、王国の周りの土地に住む

魔獣や害獣などを討伐することだ。


「話を聞く限りでは、とても信じられない

方法でおこなうらしいですね?」


「えっ? そうだったかな?」


いつの間にか、木下の作り笑顔が

すこしこわばって見える。

なんだ?

『大規模討伐陣』の話題になってからだな。


「騎士たちが王国を中心に輪になって並び、

一人一人が外に向かって歩いていき・・・

遭遇した魔獣だけを討ち取っていく・・・。」


「あぁ、その通りだ。さすが、よく調べてあるな。

運動不足のオレとしては、あれが面倒でな。

国の全ての隊員が城壁を背にして立つ。

そうして、外に向かって、ただ歩いていくという

シンプルな作戦だが、森の中を歩くのが疲れるんだ。

でも、別に、特別な作戦ではないと思うが?」


「でも、それが本当なら、

魔獣相手に、一人で戦うということですよね?」


「あぁ!そういうことか、そうだな。

でも、さすがに体長10m越えとか

強い魔獣に遭遇した場合は、逃げるんだよ。

逃げのびた後で、今度は小隊を組んで、討伐にあたる。」


信じられないというのは、魔獣を一人で倒すことか?

騎士であっても、無敵ではない。

弱い魔獣もいれば、強い魔獣もいる。

さすがに、自分より強い魔獣を

一人で討伐するのは無理がある。


「でも、小さな魔獣1匹でも

すごい戦闘力ですよ?

どうやって、一人で倒すんですか?」


「どうやっても何も・・・。

相手が動かなくなるまで戦うとしか・・・。」


なんだ? やけに突っかかるな?

まさか・・・。


「もしかして、他国の魔獣はもっと強いのか?

ここの土地の魔獣が弱いのか?」


「それは・・・分かりません。

私は、ここの魔獣を見たことがないので。

ただ、他国では、魔獣というのは

一人では倒し切れないものです。

それが出来るのは、相当な手練れの者だけです。」


それは考えたことがなかった。

他国の魔獣を見たことがなく、

自国の魔獣の強さが基本的な強さと考えていた。

だが、木下の話だと

他国の魔獣は、ここより強いということになる。

つまり、ドラゴンは、それ以上の強さ・・・。


「そうか、ヤバイな。

完全に、見落としていた。

ここの魔獣の強さを基準に考えていたら、

他国の魔獣に勝てない場合もあるわけか。

それがドラゴンなら、なおさら・・・。」


「そういうことになりますね・・・。」


他国の魔獣が、どんな大きさと姿なのかは

知らないが、ここの魔獣は、

たいてい、『オオカミ』という害獣を大きくしたような姿だ。

普通のオオカミが1m前後だとして、

魔獣は、それよりも一回り大きい。

2~3mが主な大きさで、

ちょっと長生きしてる魔獣だと

5m以上に成長している。

とても素早く、時には集団で行動する。


しかし、倒し方は至ってシンプルなのだ。

ヤツらはこちらの首を狙ってくる。

狙ってくる箇所が分かっているのだから、

対処もしやすい。

飛びかかってきたら、逆に首をはねる。

それだけだ。


成長しすぎている魔獣は

討伐がやっかいであり、放っておけば

民間人や家畜などに被害が出るため、

定期的な『大規模討伐陣』によって、

成長しきっていない魔獣たちを討伐しておくわけだ。

それでも、すべてを討ち取らないのは、

この周辺の生態系を変えてしまわないようにするためだ。

魔獣は人にとって脅威ではあるが、

ほかの害獣の脅威にもなっている。

その生態系のバランスを崩さないように

配慮しているのだ。


あと、すべての魔獣と害獣を狩ってしまうと

どうなるかというと・・・勝手に人が住み始めてしまうのだ。

自国のみならず、他国からの密入国者などが

勝手に集落を作ってしまう。

そこから『国盗り』という内乱へと

発展するのは容易に想像できる。

大昔、いつの間にか集落ができていて、

『大規模討伐陣』の途中から、

その集落との戦争に発展した年もあったらしい。


『大規模討伐陣』の円陣の輪は、

隊員たちが、おのおのまっすぐ外へ行けば行くほど

その輪に隙間ができる。

その隙間にいる魔獣は生き延びられるわけだ。

そうして魔獣が生き残るからこそ、

人が住みにくい環境になる。

国全体を安全地域にしたいけれど、

そうすると、逆に安全ではなくなる・・・

そういうわけだ。


いつの間にか『麺』を食べ終えた木下が聞いてくる。


「私が、その・・・『ソール王国』に

潜伏してから、まだ10年も経っていないので

その『大規模討伐陣』を見たことがないのですが、

佐藤さんは、それに参加されたんですか?」


「あぁ、そうだったな。

前の『大規模討伐陣』があったのは、たしか7年か8年前か。

この国で城内にいたら、

魔獣を見たことがないのも、うなづける。

そうそう、オレも参加してたよ。

一応、これでも騎士なのでな。」


腰の剣をポンポンと叩いてみせる。


「魔獣が弱いのか・・・

あるいは・・・『ソール』の騎士たちが

強すぎるのか・・・。」


木下が、ふと、そんなことを言う。


「なるほど、たしかに戦闘力が

他国より優れているというウワサはあるな。」


じつは、『ソール王国』の国民は

戦闘力が高いという根拠がないウワサがあった。

本当かどうかは分からないが、

『ソール王国』の国民は、

他国へ出向く際、国の許可が必要になる。

その審査がかなり厳しく、

大義名分がないと却下されることもある。

他国との競技や試合なども、

極力参加してはいけないなど、厳しく取り締まられている。


そして、そのウワサがあるからこそ、

この小さな王国は、他国から攻められないのだとか。


「国外への出入りを厳しくしているのは、

他国とのパワーバランスを保つため、か?

オレとしては、信じがたい情報だな。」


「はい、私も、その確認ができなかったので

にわかには信じがたい情報でしたが、

『ソール』の王様がそう言っていたのです。」


「うちの王様が?

しかし、根も葉もないウワサとしか思えないけどな。」


ふと、木下がスパイとして調べていた『情報』は

このことではないのか?と感じた。

やたらと突っ込んで聞いてくるし、

王様にも直接聞いているようだ。

そうか・・・『ソール王国』の強さの秘密を

知りたかったのかもしれない。


それを知りたいということは・・・

この国に攻め入るため?


「もしかして、

木下が欲しかった情報というのは・・・」




カーン! カーン! カーン!


その時、遠くの方から

警鐘の音が響いてきた!


カーン! カーン! カーン!


間隔をおいて、また3回!

これは、『魔獣襲来』を意味する警鐘だ!





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― 新着の感想 ―
[良い点] 50過ぎで5mの狼を1人で倒せたってことか え、めっちゃつよい人たちだったのでは?このリストラおじさん達
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