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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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イスクード山脈に囲まれた町『クリスタ』



ゴトゴトゴト・・・ ゴトゴトゴトゴト・・・


野山を軽快に越えていく馬車に揺られること数時間・・・。

途中の街道で、一度、馬の休憩のために

数分ほど野原で立ち止まったこともあったが、

馬車は無事に目的地である町『クリスタ』に到着した。


町が見えた時、ようやく木下から

オレとシホのお勉強の時間の終わりを告げられて、ホッとした。


森林が生い茂っている大きな山の、すぐふもとにある町。

山々に囲まれた形で、町の出入り口はひとつしかないようだ。

もし、四方の山から魔獣や魔物に襲われたら・・・と思うが、

この町は、かなり大きく、町を囲む高い石壁も見える。

ちょっとした城下町みたいに、外敵から守られているようだ。


「なんだ、あれ?」


「んん!?」


町の出入り口は、馬車が行き交えるぐらいの大きい石門があり、

その門は、まるで城門のように強固な岩で造られている。

シホの声で気づいたが、その大きな門の脇に、

2~3mぐらいの大きな物体が置いてある。

近づくにつれ、それは、何かの石像のような形に見えてきたが、

石の色合いにしては、おかしい。


「も、もしかして、あれが『カラクリ人形』じゃない?」


ニュシェが、目を輝かせて、そう言った。

言われてみれば、人の形をかたどっているようだが・・・。


「人形・・・というより、何かの魔物のように見えなくもないような・・・。」


ファロスの言い方にオレも共感する。

上から下まで、大きな筒状の、樽のような体に、

手足のような棒状のものが付いている感じだ。

人形というより、何かの魔物を模っているように見える。


「私は本でしか見たことがありませんが、あれが『カラクリ人形』だと思います。

どうやら、動力となる魔鉱石が入っていないようですね。

しばらく動いていない感じがします。」


木下が、そう言った。

たしかに、『カラクリ人形』と思われる物体は、

鉄か?銅?で出来ているのか、体全体が

青緑っぽい錆?に覆われていて、かなり汚れている。

ずっと、そこに放置してあるようだ。


それでも、やはり珍しい物体だ。

旅の商人らしき男たちが、その物体に集まって見物している。


ゴトゴトゴト・・・ ゴトゴト・・・


オレたちが乗っている馬車が、その物体が置いてある門をくぐっていく。

その動かない物体のすぐそば、

町の出入り口で警備していたのは、この国の騎士たちではなく、

オレたちと似たような格好の傭兵たちだった。

『ヒトカリ』の傭兵か、この町の自警団なのだろう。


町に入ってすぐに馬車の停留場があり、オレたちはそこで降りた。

停留場の広場には、様々な露店が並んでいて、人通りも多く賑やかだ。

時刻は、もう昼を過ぎていたので、

オレたちは、適当に、そこらの露店でおのおの好きな物を食べた。

町の出入り口にあった物体も気になるが、まずは腹ごしらえだ。

露店で売られている食べ物は、どれもこれも、他国と同じくらいか、

ほんのちょっと高めの値段のようだが、この国では、じゅうぶん安いほうだろう。

だからこそ、大勢の客が押し寄せているようだ。


「はぁぁ、うめぇぇ!

ここに来るまでに、たくさん頭を使ったから、腹が減って・・・。」


シホのやつは、そう言いながら、

両手に焼き鳥と唐揚げを持ち、器用に両方を食べている。

たしかに、オレとシホだけ『魔法の書』を読まされていたから、

頭を使った気になっているが、

それと食欲が繋がるのかどうかはオレには分からない。

オレは、肉よりも魚の串焼きを食べた。

『カシズ王国』で食べた魚よりも、あまり脂が少ない気がする。

そういう魚の種類なのか、もしくは海ではなく川で獲れた魚なのだろう。


オレとシホは、ニュシェと同じく、木下に買ってもらったのだが、

ニュシェと違って、オレとシホは木下への借金が増える。

しかし、シホのやつは少し買い過ぎているようだが・・・。


「おい、シホ。ちょっと買い過ぎじゃないか?

借金が増えてるぞ?」


「え? あぁ、たしかにな。

でも、この町が、おっさんたちの目的地なんだろ?」


「!」


オレは、少しドキっとした。

シホたちには、この町へ来た目的を話していないのに、

シホが、そんなことを言い出したからだ。

しかし、


「この町の『ヒトカリ』で依頼を受けるって話だったじゃないか。

だから、買い過ぎても大丈夫。

この町で、今までの借金、全額返済してやろうぜ!」


「な、なるほどな。よし、そうしよう!」


シホは『ヒトカリ』で依頼を受けるために、この町へ来たと思っているようだ。

そして、木下への借金返済ができる自信や意欲があるから、

借金のことを気にせず、空腹を満たそうというわけか。

いかにも、シホらしい。




「なぁ、『カラクリ人形』、見て行こうぜ?」


腹が満たされてから、シホがそう提案したが、


「いいえ、まずは宿を探します。」


「えぇーーーー!」


木下に断られて不満の声を上げるシホ。


「しばらく、この町に滞在する予定ですし、

例の『カラクリ人形』は、町の出入り口から動かないようなので、

いつでも見物できると思われます。

それよりも、今は、早く良い宿を探さないと、

高値の宿屋か、昨夜のような不潔な宿しか見つからなかったら、

最悪ですからね。」


「はい・・・。」


シホは素直にうなづいた。

木下の言うことは正論だ。


空腹を満たしたオレたちは、まず宿屋を探し始めた。

いや、正確には・・・木下は、探すふりをしている。

オレと木下は、ペリコ君と落ち合う約束の場所である、宿屋『リュンクス』を目指しているのだが、

ほかの3人に気づかれないように、探しているふりをしているのだ。

基本的には、今まで通り、木下があれこれ条件を言い出して、

宿屋の受付にも、木下一人で入っていき、交渉してくれた。

その間、オレたちは宿屋の外で待つことになる。

・・・木下が宿屋の中で、本当に交渉しているかどうかは誰も分からないわけだ。

おそらく、木下は受付で値段交渉することなく、

宿屋『リュンクス』の場所を聞いていただけだと思われる。


3軒ほど、他の宿屋へ入っては、木下が渋い顔をして出てくるという

行動を繰り返したのち、オレたちは、やっと目的の宿屋に辿り着いた。


町の入り口から中央の広場へ続く大通りを歩き、そこから少し離れた裏道のような、

あまり人が通らない道沿いに、その宿屋はあった。

国境の村『ゾフル』で泊まった宿屋と、それほど大差ない大きさの、木造の建物。

古そうに見えなくもないが、蜘蛛の巣ひとつないほど清掃が行き届いている。

木下が値段交渉してくれたが、他国の宿屋と変わらないくらいの値段らしい。


ただ、ひとつ問題が・・・


「他の宿屋からの情報通り、この町では、この宿屋が一番安価な宿泊料金のようです。

ただ安いだけじゃなく、建物も大きく、中も清潔感があっていい雰囲気ですし、

ちょうど空き部屋も一室空いているようですから、

今日から、しばらく、この宿屋を拠点にします。」


「え!? 今、なんて・・・!?」


「ちょ、ちょっと待てくれ、ユンムさん!

空き部屋が一室しかなかったのかよ!」


「えぇ、それが何か?」


木下一人に値段交渉させていたのが悪かったのか、

この宿屋には空き部屋が一室しかなかったと言うのだ。


「一室と言っても、他の部屋よりも広く、ベッドも3台あるそうです。

ちょうど、この宿屋は、部屋ごとの料金制なので、

みんなで一室に泊まった方がお得です。」


木下が平然とした態度で、そう述べているが、

オレとしては、木下の思惑通りに、事が運んでいるように思えてならない。


「ほ、本当に一室しか空いてないのか?」


「はい。ご自分で確認されてもいいですよ?」


「うぐっ・・・。」


こいつ・・・どことなく木下の顔が、ドヤ顔に見える。

してやられたような気分だ。

念を押してみたが、木下の返答は変わらない。

おそらく本当のことなのだろう。

オレたちは、この宿屋に泊まらなくてはいけないから、

オレとしても、強く反論することができない。

ここでオレが強く拒否してしまえば、

他の宿屋を探すという流れになってしまうからだ。

そうなると・・・ペリコ君との約束を果たせない。


いや、約束の日までは、まだ時間があるはずだから、

とりあえず約束の日までは、別の宿屋に・・・。

しかし、約束の日に、この宿屋に空き部屋がなければ、

結局は、約束を破ってしまうことになりかねない・・・。


「どうするよ、おっさん?

俺としては、たとえ安くても、

空室がひとつってのは避けたいと思うんだが・・・。」


シホが、オレに共感を求めている気がする。

それでいて、シホの視線は・・・

ちらちらとファロスのほうを見ている。

あぁ、なるほど・・・好きな男とひとつの部屋に泊まるのは、

やぶさかではないが、恥ずかしいと言ったところか・・・。


「ふぅ・・・、そうだなぁ。

オレたちは木下に借金がある身だし、な・・・。

金を稼ぐために、長く滞在することになるわけだし、

どこの宿屋も高いのであれば、この安い宿屋は打ってつけなのだろう。

ただし、みんなで一室に泊まるのは、他に空きが出るまでだ。

何日も窮屈な部屋で寝泊まりしていては、体が休まらないからな。」


「そ、そんな・・・!」


オレの決定に、ファロスが少しうろたえているようだが、


「うーん・・・まぁ、リーダーのおっさんが言うなら仕方ないか。」


「う・・・うむ。」


シホが、オレの決定を受け容れたことにより、

ファロスは、反対意見を言えなくなったようだ。


2階建ての大きな宿屋『リュンクス』。

木造の扉をくぐれば、広い空間の待合室に受付があり、広い食堂が見えた。

食堂の天井は、2階まで吹き抜けていて、

2階には、いくつもの扉が見える。

食堂が空いているかどうか、2階から様子を見下ろせるわけだ。

外観の大きさよりも中が広く見える。

たしかに、いい雰囲気の宿屋だ。


受付には、花が入っていないが立派そうな青銅の花瓶が置いてあって、

受付の店員は、年老いた女性だった。

白髪だが、パリっとした黒いメイド服を着ていて、背中が曲がっておらず姿勢がいい。

少し肌の艶がいい気がする。老いているわりには健康的な女性だな。


「連泊の5名様ですね。

空室がなく、一室しかご用意できず、申し訳ございません。

これが部屋の鍵です。」


なんとも物腰が柔らかそうな、丁寧な接客だな。

言葉使いと外見からして、

まるでお金持ちの家に仕えているメイドか、高級な宿屋の店員のようだ。


「いや、こちらこそ。今日から、しばらく世話になる。

もし、他の客室が空いたら、知らせてくれ。」


「はい、かしこまりました。」


オレは、部屋の鍵を受け取りながら、

空き部屋が出たら、知らせるように伝えておいた。


「「お世話になります。」」


「世話になるでござる。」


「よろしくお願いします。」


他の4人も店員に挨拶をしてから、オレたちは2階へと上がった。





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