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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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税金の闇と魔害薬の闇



ガラガラガラ・・・ ゴトゴトッ・・・


オレたちを乗せた大型馬車は、軽快に街道を走っている。

ほとんど大草原のど真ん中の街道を走ることが多いが、

雑木林の中を通ることもある。

しかし、林の中でも鬱蒼とした感じはなく、視界が開けていた。

この国の街道は、ほかの国と違って、道幅が広いのが理由だろう。


「ふーん、この国は、やたらと税金をとるから、

その分、街道の整備が行き届いているというわけかぁ。」


「そういうことですね。」


どうして税金が高いのか・・・?

やたらと税金徴収されるのは、なぜか・・・?

馬車の中で、シホが疑問に思っていたことを、木下が答えていた。

横で聞いているオレも勉強になることだ。


「この馬車、あんまり揺れないね。」


「この馬車自体が、そこそこ良い馬車なのと、

街道の状態が良いせいでござろうなぁ。」


ニュシェの疑問に、ファロスが、さらりと答えた。

ファロスも、木下の話を聞いていたから、そう思ったのだろう。

実際、この馬車は、今まで乗ってきた大型馬車の中でも、

なかなか良い馬車のようだ。揺れが少ない。

座席も広くて、10人ぐらい余裕で座れる。

商人らしき男たちの荷物が多いせいで、

座席はめいっぱい詰められているが。


「そっか。お金を取ってるだけじゃないってことか。

じゃぁ、いい国なんだな、ここは。」


シホは、そう言ったが、


「しかし、その反面・・・

貧富の差が激しいってことだろうな。」


オレは、そうつぶやいた。


オレたちが、この馬車に乗って、

国境の村『ゾフル』を出た際、村の外に、多くの人たちが

簡易テントを張ったり、張りぼての家を建てて、

そこで生活している様子が見えた。

町や村の中で生活できない人たち・・・

おそらく税金を払えなくなった人たちが、町や村から追い出されているのだ。

その点は、『ソール王国』も同じだ。

『城内』の城下町で、税金を納めて住める者たちと

『城外』で、税金を払わずに住んでいる者たちに分かれている。

ただ『ソール王国』は、『城外』で暮らしている人たちにも、

それなりの生活があり、そこそこ安全に暮らせる家が建ち並んでいたり、

商売が成り立っているほど、そこに住む人たちには活気があった。

しかし、この国の、『外』に住んでいる者たちは・・・

暮らしているという感じではなく、

いつ飢えて死ぬか分からない・・・そんな危機的状況に見えた。


税金を払わないと、国からの救済措置もない・・・。


関所がある国境の村の外に、そういう者たちが多いのは、

この国から出ようと思って、ここまで来た者たちかもしれない。

しかし、関所を通るには、許可証とお金が要る。

だから、あの者たちはこの国から逃げることもできない。

いや、おそらく、関所がない箇所から

他国へ逃亡している者たちもいるだろうが・・・。


「・・・。」


村の外にいた者たちを、どうしたらいいのか・・・

そんなことを無関係のオレが考えていても、

何も良案は思い浮かばないし、思い浮かんだところで、

この国の体制が変わらなければ、その場しのぎにしかならない。

わが母国でも、ここ以外の他国でも、よくあることだが、

この国の貧富の差は、重い税金が多すぎるせいだろう。

なるほど・・・反乱軍というものが、出来てしまうわけだな。


「そういえば、関所のやつらが使ってた

魔鉱石みたいな石って、なんだったんだろうな?」


オレたちの重い空気を察してか、

シホが、そんなことを言って、話題を変えた。


「あぁ、たしかに、あれは気になったな。」


「私は、どこか他国の関所で、同じ物を見た気がします。

たしか、ある薬物にだけ反応する魔鉱石だったような・・・?」


木下がそう答える。


「なんだ、あんたら、知らないのか?」


「え?」


オレたちの横に座っていた商人らしき男が、

オレたちの会話を聞いて、口をはさんできた。

男のくせに、やたらと宝石の指輪をしている。

税金が高い運賃の馬車に乗れるぐらいだから、

他の商人よりも、少し豪華な身なりだな。


「あの魔鉱石は『サイファーロック』って言って、

魔害薬まがいやくに近づけると反応して光るらしい。

たぶん、今、流行りの『ゴッドイーター』を警戒してるんだろうなぁ。」


「魔害薬!? 『ゴッドイーター』!?」


「なんだ、本当に知らないんだな。

なんでも、その魔害薬にハマると、凶暴な性格になった後、廃人になるとか。

まぁ、この国では、最近になって流行り始めたらしいけど、

ここから東の国々では、けっこう流行っちまってるらしい。

魔害薬で現実を忘れたい気持ちも分からんでもないが、

身を亡ぼしちまったら、元も子もないからなぁ。

それに所持してるだけで投獄されちまう。

あんたらも、気を付けることだな。」


商人の男はなんだか得意気に話してくれた。

聞いたこともない話だが、ここから東の話なら、

オレが知らなくて当然だろう。

そして、木下は、ここより東から来たわけだから、

あの魔鉱石を、どこかの関所で見たことがあったようだな。


「教えてくれて、ありがとうございます。」


木下が商人の男に会釈した。

それだけで、商人の男は機嫌が良さそうだ。


魔害薬か・・・。

人間の精神を破壊してしまう上に依存性が強い毒薬のことだ。

世界中で何種類もあって、『ソール王国』でも禁止されている。

世界各国、どこの国でも所持しているだけで違法となっていたはず。

しかし、『ゴッドイーター』という名前は初耳だな。


「そういえば、そういう名前の魔害薬が流行ってるって、

数年前の『ゴシップ記事』に書いてあった気がする。

一時期、一気に広まって被害者が増えたんだっけな。」


商人らしき男の話を聞いて、

シホが過去の『ゴシップ記事』を思い出したらしい。

数年前から流行っているのか。


「・・・『ゴッドイーター』・・・。」


木下の中で、何か気になったのか、

小さな声で魔害薬の名前をつぶやいている。


「なんとも、物騒な話でござるな・・・。」


「・・・?」


ファロスは、険しい表情で、そうつぶやいたが、

ニュシェのほうは、いまいち理解していない様子だ。

ニュシェが住んでいた村では、薬の危険性までは教えてくれなかったか。


「あのね、ニュシェちゃん。

魔害薬っていうのはね・・・。」


見かねて、木下がニュシェに説明を始めた。


世界には、様々な薬があり、

それらは主に、人間を治療するためにある。

しかし、中には、

人間を麻痺させる薬や、痙攣けいれんさせる痺れ薬、幻覚を見せる薬などがある。

それらは太古から、治療を目的とせずに、犯罪に使われてしまっている。

ゆえに、世界各国で、それらの薬は違法として取り締まられており、

治療を目的とした医療、害獣や魔獣・魔物退治以外では使用禁止とされている。

様々な種類の魔害薬も、その違法の薬として含まれている。


ひとつの例外である国を除いて・・・。

その例外となっている国が、魔法大国『ウィザード・アヌラーレ』。

その国では、それら違法の薬が魔法のために使われていて、

取り締まりが緩いそうだ。


実際、魔法にも、人間を麻痺、痙攣させる魔法や、

幻覚を見せる魔法があるらしいが、それらは『禁忌魔法』として

世界中で取り締まられている。

しかし、その魔法も、魔法大国では、一部使用が許可されていたりするという。


「怖い話だったんだね・・・。」


違法である薬が、国中に蔓延するとどうなるか・・・

木下が軽く説明しただけで、ニュシェは理解できたようだ。

若干、青ざめているニュシェ。

木下の説明をいっしょに聞いていたオレも勉強になった。

魔法大国では規制が緩いのか。

だったら・・・魔害薬も、そこから広まっているのでは?


「凶暴化する魔害薬なんて・・・そんな物に頼ったところで、

現実は変わらないどころか、その末路が廃人なんて・・・

もっと最悪な状況に陥るだけじゃないか。なぁ?」


シホが、みんなに同意を求めている。


「そうでござるな。

現実逃避のために、魔害薬に逃げてしまうのでござろうが、

逃げているだけでは、何も解決せぬもの。

やはり、己自身を鍛え直し、活路を見出さねば・・・。」


ファロスが、うなづいて、

すぐに「体を鍛える」という話に繋げている。


「薬・・・怖い・・・。」


ニュシェは、すっかり薬が嫌いになってしまったようだ。

ニュシェの隣りに座っている木下が、

ニュシェの頭を撫でながら、


「たしかに、薬は怖い物です。

『カシズ王国』の、あの海賊たちが、おじ様を捕らえるために使ったのは、

魔獣用の睡眠薬だったと聞いたし、

『レスカテ』で会った、執事・ジェンスさんが食事に使ったのは、

睡眠障害で眠れない人のための睡眠薬だったり、

不妊治療のために使う媚薬だと聞きました。」


そう説明を続けた、木下。

そういえば・・・

オレも、一度は薬の怖さを体験しているんだったな。

あの海賊ども・・・魔獣用の強力な睡眠薬を使いやがって。


「おじ様は運良く目覚めてくれましたが、

運が悪ければ、一生、意識が戻らなかったかもしれません。

それほど、危険な睡眠薬でした。

あのジェンスさんは、うまく分量を量って使用したようですが、

それも分量を間違えば、命を落としかねない状況になる。

しかし、回復用の薬や魔力回復用の薬のように、

ここぞという時に、人の命を救ってくれたり、

危機的状況を救ってくれるのも、薬というものです。」


「・・・。」


そ、そうだったのか。

たしかに、人間用じゃなく魔獣用だからな。

一歩間違えば、オレは眠ったまま死んでいたわけか・・・。

今さらながら、今、自分が生きていることを実感した。


「薬が危険という話ではなく、

使う人間によって、薬が、役立つものになるか、

害を及ぼすものになるか、変わってしまうのです。

ニュシェちゃんには、これから、たくさん勉強してほしいです。

いろんなことを勉強して、賢くなることによって、

危険な薬から身を守り、

人に役立つ薬を、ここぞという時に使えるように。ね?」


「うん。そうだね。いっぱい勉強する。

ユンムさん、いろいろ教えてね。」


「はい。ふふふっ。」


木下の説明を聞いて、ニュシェが笑顔に戻った。

なるほど、無知ゆえに、無駄に怖がってしまうもの。

知ってしまえば、恐怖に打ち勝ち、

深く知ることによって、危険を回避できる。

特に薬は、使い方によって、良薬にも毒薬にもなる。


微笑み合う木下とニュシェ。

木下は、良い先生になりそうだな。


ゴソゴソ・・・


「ん?」


「なんだ?」


ニュシェの不安を払拭した木下が、

おもむろに自分の荷物から、何かを取り出したかと思ったら


「・・・というわけで、はい。」


オレとシホにそれぞれ、分厚い『魔法の書』が手渡された。


「馬車に、ゆらゆら揺られているだけで

時間が過ぎるのは、もったいないですからね。

2人とも、町に着くまで、お勉強の時間です。」


木下が、先生のような顔で・・・

いや、悪魔のような顔で、そう言った。


「うぅ・・・。」


「そういう話の流れになるのかよ。はぁぁ・・・。」


オレとシホは、反論の余地もなく・・・。


快適な馬車の揺れが、睡眠薬のような効果を生み出し、

オレたちは睡魔に襲われつつも、

悪魔のように怖い木下に見張られながら、

『魔法の書』に、かじりつくのであった・・・。




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