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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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カラクリ人形の噂



昨夜は、食事を終えたら、すぐに各々の部屋へ分かれていった。

木下とニュシェが「みんなでいっしょの部屋に」と言い出しそうになっていたが、

オレとシホが「疲れたから、さっさと寝よう」と言い出し、

半ば無理やり、お開きにさせてもらった。

分かれてしまえば、女性陣がオレたちの部屋へ訪れることはなかった。

オレの部屋にはファロスがいるからだ。

普通の男なら、まだしも、ファロスは強者つわものだ。

『スパイ』の木下でも、寝ているファロスに気づかれることなく、

オレに色仕掛けを実行することは不可能だと察しているのだろう。


「かたじけない、か。」


「? なんのお礼でござるか?」


「いや、なんでもない。」


ファロスに向かって、長谷川さんのようなお礼の言葉をつぶやいてみた。

実際、『カシズ王国』で、パーティーのお金が全て海賊に盗まれたのに、

なんとか、ここまで来れたのは、こいつのおかげだ。

オレは、こいつを助けてやりたい気持ちで仲間に誘ったが、

逆に、こいつのおかげで助かっていることばかりだ。

感謝しかない。


この宿泊部屋には、風呂はなく、シャワーしかなかったが、

それでも、久々に気を張ることなく入れたし、

野宿とは違って、雨風を凌げて、

柔らかい掛け布団で、ぐっすり眠れた。

あまり警戒しなかったことで、精神的にも休めた。

ここ数日の疲れが、一気に取れた気分だ。体が軽い。


ファロスも、じゅうぶん休めたようで、

今朝も早くから、『刀』を鞘に納めたまま、素振りをしていた。

・・・いや、こいつの場合は、体調に関係なく素振りしそうだな。


部屋から出てみれば、一階からの美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。

ちょうど、木下たちも部屋から出てきたところだった。


「おはよう。よく眠れたか?」


「おはようございます。

よく眠れましたが・・・足が筋肉痛のようで、痛いです。うぅっ。」


ちょっと歩きにくそうにしている木下。

たしかに、一昨日からよく歩いたからな。

オレのほうは筋肉痛がないようだが・・・

歳のせいで数日遅れて痛みがくるのかもしれない。


食堂のテーブルは、昨夜と違って、一つのテーブルにしか他の客がいない。

ここにいるのは、オレたちと同じ宿泊客だろう。

昨夜の大半の客たちは、夕食だけ食べに来てたわけか。


「・・・。」


予想通り、今、テーブルに座っている客は、

昨夜、オレたちに話しかけてきた客ではない。

食堂を見渡しても、あの男はいない。


「何か、探してるの?」


「ん? あぁ、いやいや、何も。」


オレがキョロキョロしすぎていたため、

ニュシェに感づかれてしまった。


「あぁ、おはようございます。ご注文はお決まりですか?」


オレたちがテーブルに着いて、しばらくしてから

店主が注文を聞きに来た。


「昨夜は、長話してすまなかったな。

この定食を頼む。」


「あー、いえいえ。焼き魚の定食ですね。

かしこまりました。」


昨夜は、きっと奥さんに怒られただろうに、

店主の方は気にしていないようだ。

・・・日頃から、怒られているということかもしれないが。


「あたしも、それにする。」


「拙者も、同じ物を。」


「私は、サラダと卵のスープで。」


「俺は、鶏肉サンドイッチ。」


「はい。焼き魚定食3つ、サラダ、卵のスープ、鶏肉のサンドイッチですね。

少々、お待ちください。」


みんな、それぞれに注文する。

店主はすぐに店の奥へと走って行った。

しばらくすると、店の奥から、食器が並べられる音が聞こえてきて、

美味しそうな匂いが漂ってきた。

昨夜食べた料理も、なかなか美味しかった。

煮物よりも、焼き物が多いようだが、

味付けが濃くて、酒に合うというか・・・朝食も楽しみだ。


「おじ様は、昨夜の客のことを気にしてるようですね。」


「ん? あぁ、まぁな。」


木下に、ずばり言い当てられたが、

ニュシェにも感づかれるほどだから、

オレの様子を見ていれば、当たり前か。


「シホの『ゴシップ記事』の話にのってくるぐらいだから、

あの男が言っていた情報の信憑性は薄いんだが、

昨夜の男たちは、ほかの客と違って、

周りを気にして飲み食いしていたようだったから・・・

何者だったのか、気になってな。」


「おいおい、さらっと信憑性が薄いとか言うなよ。

失礼だぜ、おっさん。」


「たしかに、昨夜の話に信憑性はありませんが、

あの男性たちは、少し妙な雰囲気でしたね。」


「おぉい! ユンムさんまで!」


「でも、そんな妙な男たちに、

首を突っ込まないでくださいね、おじ様。」


「うっ・・・分かっている。」


途中までは、木下と共感できていると思っていたが、

最後の最後で、釘を刺されてしまった。

いや、木下に言われずとも分かっている。

あの男たちは、普通じゃなかった。

「なにが、どうなのか」は、うまく説明できないが、

一言で表すなら「危険」なニオイがする・・・。

きっと首を突っ込めば、厄介なことに巻き込まれる。

それは、オレも感づいている。


しかし、だからこそ、

あの男が言った言葉が気になる。

「帝国軍が大量の『カラクリ兵』を購入して反乱軍を殲滅する」・・・。

いまいち『カラクリ兵』の強さが、ピンときていないのだが、

たった1体で、長年続いた内戦を終わらせたほどの強さなら・・・

それらを大量に、戦場へ差し向ければ、どれほどの被害になることか・・・。

反乱軍というのは、軍隊ではなく、

結局は、ただ国に反感を持っている一般人の集まりなのだろう。

戦闘において、素人同然の者たちに、そんなモノを使うなんて・・・。


「おじ様?」


「! わ、分かってる!」


つい考え事に没頭してしまった。

木下からは、疑いの目を向けられている。


「はい、お待ちどうさま。」


そこへ店主が料理を運んできた。

料理を、テーブルに置きながら、店主が少し早口で


「お客さん、昨夜、話していた『カラクリ兵』ですけどね。

この村から、南東の方角にある町『クリスタ』には、

ずっと昔から『カラクリ兵』ならぬ『カラクリ人形』が1体、

今でも置いてあるそうですよ。」


「え!?」


「俺は、この村から出たことないので見たことはありませんが、

教科書に載っている『カラクリ兵』とは似ても似つかないぐらい、

色も形も違う、ポンコツらしいですけどね。

もし、興味があるなら・・・では、ごゆっくり。」


「あっ・・・。」


店主は、自分の言いたいことを伝え終わると、

オレが引き留める間もなく、さっさと店の奥へと引っ込んでいった。

目の前には、美味しそうな料理が並んでいる。


「へぇ、おもしろい情報だったな。

ちょうど、俺たちが目指してる町じゃないか?」


すかさずシホが楽しそうな笑顔で、そう言いながら、

目の前の料理を食べ始めた。


「不思議な巡り合わせでござるな。」


ファロスが、そう言いながら、魚を食べ始めた。


「・・・。」


木下が黙り込んで、みんなが食べ始めるのを見ている。

オレたちが食べ始めて、しばらくしてからじゃないと

木下は食べ始めない。

だから、オレも遠慮なく食べ始めた。


店主が教えてくれた『カラクリ人形』の話・・・。

たまたま、オレたちが目的地としている町にあるというのは、

本当に、単なる偶然なのだろうか?

あの『スパイ』・・・ペリコ君は、

何か知っていて、オレたちを向かわせて・・・。

いや、考え過ぎか。


「あたし、見てみたいなぁ。」


ニュシェが、そう言って、オレに話しかけてくる。

もしかしたら、オレはまた考え事をしていて、

難しい表情をしていたのかもしれない。


「そうだな。

オレも見たことがないから、見れたらいいな。」


深く考えることはないか。

あれこれ考えたところで、どうせ先のことなど分かるはずもない。

この歳になると、なんでも不安に感じて、

なんでも心配してしまうようだ。




朝食を食べ終えたオレたちは、荷物をまとめ、

宿屋『ライゼ』を後にした。

昨日、宿泊する前に木下が言っていた通り、

玄関先の天井付近には、蜘蛛の巣が張ってあった。

しかし、建物の外観も古いから、オレはあまり気にならない。

食事も美味しかったし、値段も高いわけじゃない。


「いい宿だったな。」


「そうですね。値段がもう少し安くてもいいと思いますが、

総合的には、妥当だったのかもしれません。」


オレは、みんなに言ったつもりだったが、

即答したのは木下だった。やはり値段に不満があるようだ。


「俺も、おっさんと同意見だ。

部屋もそこそこの広さがあって、シャワーがあって、

料理もなかなか美味かったし、金さえあれば、

たらふく食いたかったぜ。」


「久々に、ゆっくり休めましたな。」


「うん。」


シホもファロスもニュシェも、オレに共感してくれたようだ。

やはり、お嬢様である木下と

オレたちの感覚は、少しズレがあるようだな。


大型馬車の停留場がどこにあるのかは、

宿の支払いをしている時に、店主から聞いていた。

オレたちは、停留場がある村の入口へ向かって歩いて行った。


大通りに並んでいる店先の食べ物を眺めていたが、

魚屋は1軒だけで、ほかは山菜などの野菜を売っている店が多かった。

この国は、海に面していないのだろう。

たったそれだけで、つい先日の『カシズ王国』とは

食文化が、まるで違うのだな。


まだ朝だというのに、停留場には、

すでに大勢の商人らしき人だかりがあって、

大型馬車が3台、停まっていた。

商人たちの自家用の馬車も混じっているようだ。


すぐに行列へ並び始めたオレたち。

もしかしたら、商人たちやその荷物で

定員オーバーになるかもしれないと思っていたが、

オレたちは、すぐに馬車へ乗れた。

理由は簡単だった。

オレたちの並んだ行列の先にあった馬車は、

税金が加算された、高い運賃だったのだ。

もっと行列が長いほうの馬車は、税金が少ない運賃のようで、

そっちは乗れないやつらがいたようだ。


「お金がかかるなら、次の馬車を待った方が・・・。」


と、オレやシホが言う前に、木下が乗ることを決断していた。

オレたちの借金が多めに加算された瞬間だった。





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