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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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カラクリ兵の噂




オレたちは、部屋へ荷物を置いて、すぐに一階の食堂で落ち合った。

夕飯時で、繁盛する時間帯のはずだが、

食堂は、8台のテーブルのうち、半分だけ他の客で埋まっている。

オレたちは、すぐに座れた。


「ここは、何の酒がオススメだ?」


他のテーブルの客たちが、美味しそうに酒らしきものを

飲んでいるのを、オレは見逃していなかった。


「ここでは、冷えた『地エール』がオススメです。」


先ほど受付にいた男が、注文を聞きに来て、そう答えてくれる。


「おじ様、分かってますよね?

飲むなとは言いませんが、

今、おじ様は、ご自分のお金がないことを。」


「うっ・・・分かってる。

あー、その『地エール』を1杯だけ、頼む。」


「はい、かしこまりました。」


木下に釘を刺されたオレは、

本当に、1杯だけにしようと心に決めた。

チラリとメニュー表を見たが、たしかに

他の国よりも、酒の値段がやたらと高いようだ。

他のテーブルで飲んでいる商人らしき客たちは、

きっと商売が、うまくいっているのだろう。


「腹、減ったなぁ。

なんか、ガツンとくるような、鶏の唐揚げを・・・。」


「シホさんも・・・分かってますよね?」


「うっ・・・そうでした、はい。

唐揚げを、ひとつまみ、下さい・・・。」


シホのやつも、木下に釘を刺されて、注文の勢いを削がれている。

少しぐらい・・・と思わなくもないが、

お金がないのは本当のことだし、「借りればいい」とは思えない。

返す目途めどがたっていないのだから、なおさらだ。


「拙者が、お貸ししてもいいのでござるが・・・。」


「いいえ、ファロスさん。この2人を甘やかさないでください。

今後、この2人が自由に使えるお金を手に入れたとしても、

節約することを学んでいないと、すぐに散財して、

また貧乏になって困るのは、この2人なんですから。」


「うっ・・・面目ない。」


ファロスの救いの手すらも、木下に叩き落とされた。

厳しすぎるようだが、反論の余地がない。

ここは、お金を出してくれる木下に従うより他ない。




ガヤガヤ・・・ ガヤガヤ・・・


「昼間の反乱軍の演説、聞いたかよ? また税金があがるだとよ!」


「あぁ、全くふざけた話だ!」


「おい、声が大きいぞ!

帝国軍に聞かれたら捕まるって。」


オレたちが食べている間、他のテーブルの客3人が、

酔っぱらって言い争いを始めてしまった。

ケンカ・・・というわけではないようだが、

大きな声で盛り上がっている。


「いつまでも国の言いなりでいいわけがないだろ!

なぁ? お前もそう思うだろ!?」


「おうよ! 俺は反乱軍に加勢するぞ!

帝国が、なんだ! くそっ! 金ばかり取りやがって!」


「おいおい! 飲みすぎだろ!

帝国軍に悪口を聞かれたら『赤雷せきらい』に撃たれるぞ!」


「はっ! そんなことわざ、久々に聞いたぞ!

なぁにが、『赤雷』だ! んな、大昔の話!」


「おい、本当にやめとけって!」


どうやら、2人の客が熱くなっているようだが、

お仲間である1人の客が冷静で、2人を止めているようだ。

聞こえてきた話では、どうやら、この国に対しての不平不満らしい。

木下の見守り役である『スパイ』、ペリコ君が言っていた通り・・・。

帝国の圧政によって、国民たちの不満が募っているということか。


それにしても、聞いたことがない諺を喋っていたな?

『せきらい』が、どうとか・・・。


ちょうど、あの受付の男・・・店主が、注文を聞きに来たタイミングで、

オレは、その諺について聞いてみた。


「なぁ、店主。さっき、あっちのテーブルから聞こえてきたんだが、

『帝国軍に悪口を聞かれると『せきらい』がどうとか』って・・・

あれは、どういう意味の諺なんだ?」


「え? あぁ、さっきの・・・。

何百年も前から言われている諺というか、決まり文句みたいなものでして。

この国の悪口を、帝国軍に聞かれたら、ひどい目に遭うって意味なんですよ。

実際、帝国軍の悪評を言いふらせば、反逆罪として捕まりますからね。」


「『せきらい』というのは?」


「あぁ・・・『赤い雷』と書いて『赤雷せきらい』って言うんですよ。

その何百年も前の大昔、帝国軍と反乱軍による内乱が10年ほど続いた時期があったらしくて。

国が真っ二つに割れるほどの大きな内乱だったそうです。

その内乱を収めるために、ここから遥か東の国『ザハブアイゼン王国』から

一体の『カラクリ兵』を帝国軍が購入したそうです。」


「『ザハブアイゼン』から?

な、なんだ、その『カラクリ兵』というのは?」


「いやぁ、俺も、歴史の教科書に載ってる絵しか見たことがないんですけどね。

大きなたるみたいな体から、棒みたいな手足が生えている奇妙な人形なんですが、

そいつがどういう原理なのか分かりませんが、

帝国軍の命令に従って、動くらしいんですよ。」


「人形が? 命令で動く!? どうやって?」


「いや、ですから、俺も原理は知りませんよ?

『ザハブアイゼン』の『カラクリ』の技術なんでしょうね。

とにかく、そいつが、ものすごい圧倒的なチカラとスピードで反乱軍を蹴散らしたとか。

その時の『カラクリ兵』が、赤い光を発していたから

赤雷せきらい』って呼ばれるようになったそうです。

あの諺は、それが由来だそうですよ。」


なんとも、信じがたい話だが、

あの『カラクリ』発祥の地である『ザハブアイゼン王国』なら、

有り得ない話ではないだろう。

そんな大昔から、とんでもない技術力を持っているんだな。


店主は説明が終わって、立ち去ろうとしたので、

オレが、すかさず気になる質問をした。


「その『カラクリ兵』は、今も健在しているのか?」


「え!? いや、たしか・・・教科書には、

内乱が収まった後、廃棄処分したって書いてあったかな?

なんか、帝国軍では制御しきれなかったとか、なんとか。

でも、たしか、別の町に・・・。」


店主がそう言いかけた時に、店の奥から


「アンタぁぁぁ! ムダ話してんじゃないよぉ!

客が待ってんだろ! さっさと料理を運びなぁ!」


「ひぃっ! す、すみません! では、これで!」


奥さんらしき女性の怒号が店内に響き渡り、

委縮した店主は、青い顔色で、さっさと店の奥へと走って行った。

・・・引き留めてしまって、とても悪かったと思う。


「『カラクリ兵』か・・・知らなかったな。

そんなモノもあるのか。」


「なんだ、おっさん、知らなかったのか?

けっこう有名な話だぜ?

いつも『ゴシップ記事』に出てる話だよ。」


シホは知っていたようだが、

情報元が『ゴシップ記事』だから、真実とは思えない。


「拙者も、知らなかったでござる。

動く人形・・・どれほどの強さなのでしょうな。

10年続いた内乱を収めてしまうほどとは・・・。」


ファロスも知らなかったようだ。

やはり、有名ではない、ということか。

知らないのは自分だけじゃなかったので、少しホッとした。

ファロスは、店主の話から

その『カラクリ兵』の強さを想像しているらしい。


「そうですね、『カラクリ兵』は知りませんが、

『ザハブアイゼン王国』には、『カラクリ人形』が存在するそうですよ。」


「なに、『カラクリ人形』!?」


木下が、そう教えてくれた。

『カラクリ兵』を知っていたシホもすごいが、

『ザハブアイゼン』について知っている木下もすごいな。

さすが『スパイ』だ。


「『カラクリ兵』ではなく『カラクリ人形』か・・・ということは、戦わないのか?」


「私も詳しくは知りませんが、そうですね。

主に、執事やメイドのような働きをしているそうです。

でも、とんでもなく高値な上に、たくさんの魔鉱石が必要だとかで・・・

膨大な維持費がかかるので、一般の家には無いでしょうね。」 


「そうなのか。すごいな・・・。」


魔鉱石が必要なのか。

『ザハブアイゼン』の『カラクリ』は、

けっこう魔鉱石が必要な道具が多いようだな。


「でも、俺が見た『ゴシップ記事』には、

『ザハブアイゼン』で大量の『カラクリ兵』が作られてて、

『魔法大戦』が再び起こるんじゃないか!?って書かれてたよ。

数年前の雑誌だけど。」


「なるほど・・・しかし、『ゴシップ記事』だから、な。」


シホが少し興奮気味に話してくれたが、所詮は『ゴシップ記事』の情報だ。


『魔法大戦』というのは、大昔、起きた大きな戦争のひとつだ。

『ソール王国』の歴史の教科書にも載っているぐらい有名な戦争だ。

たしか、北に位置する『カラクリ』発祥の地、『ザハブアイゼン王国』と、

その南に、別の小国をひとつ挟んで、

魔法大国『ウィザード・アヌラーレ』があって、

昔からお互いの思想を否定していた両国が、戦争を始めたという。

二つの国に挟まれている小国は、元々、誰の領地でもなく、

その領地の取り合いから始まった戦争だという諸説もある。

その戦争の跡地が、今は別の国になっていて、

『ザハブアイゼン』と『ウィザード・アヌラーレ』に挟まれているという話だ。


「『カラクリ』の技術力が高いか、

魔法を極めた者の魔法力が高いか、

また『魔法大戦』で、その論争の決着がつくのか!?って・・・

俺としても、興味ある記事だったけどなぁ。」


シホが興奮気味に、まだその話をしている。


「ただ競い合うだけの話なら、オレも見てみたいが、戦争となれば話は別だ。

無関係の人間が被害に遭うのなら、オレはそんなものは見たくない。」


少しマジメに答えてみたが、


「分かってるって。俺も戦争は好きじゃないよ。

でも、どっちが強いのかって興味があるだけさ。」


オレの言わんとしていることが伝わったのかどうか分からないが、

シホは『ゴシップ記事』を信じているようだな。

数年前の記事なのに、今も、その戦争が再び起こっていないのなら、

ウソの情報だったってことじゃないのか。


「!」


他のテーブルに座っていた男性客が一人、ふらふらとこっちに近づいてきたと思ったら、


「その大量の『カラクリ兵』は、この帝国で使われるかもしれない。」


「え!? なんだ!?」


急に、そんなことを言い出した。

シホは、背後から急に声をかけられて驚いている。

さきほど飲んで騒いでいた客ではない。

その男が座っていたテーブルには、5人ほど男たちが座っているが、

他のテーブルの客たちより静かにしていたから、

シホが喋っていた『ゴシップ記事』の話が聞こえていたようだ。

話しかけてきた男には殺気がないし、ただの酔っ払いか?


「なんだ、お前は?」


「俺か? 俺は・・・いや、やめよう。

俺のことはどうでもいい。

それよりも、帝国軍は、すでに『ザハブアイゼン』から

大量の『カラクリ兵』を購入している可能性が高い・・・。」


男は、茶色の短髪、20代後半くらいの年齢に見える。

無精ヒゲはあるが、顔自体は清潔感がある。

酔っ払いかと思ったが、酔っぱらっているようには見えない・・・

男の目には、何か強い信念みたいなものを感じさせる。

そんな男が、声量を抑えて、少し周りを気にしながらも、

どこからの情報か分からない、とんでもない話をしている。

名前を明かさないあたり・・・何かを警戒しているのか?


「そ、そんな大量の『カラクリ兵』を買って、帝国軍はどうするんだ?

まさか、他国へ戦争を仕掛けるのか?」


突拍子もない話だが、男へ、気になる疑問を投げかけてみる。

たしか、隣国『カシズ王国』の関所の騎士が、

『ソウガ帝国』に攻め込まれたら大変だとか話していた。

本当に、この国には戦争を始める準備が出来ているのか?


「・・・いいや、違う。反乱軍を殲滅せんめつするためさ。

帝国軍への抵抗運動を繰り返している反乱軍を、皆殺しにして、

この国の民たちを黙らせるつもりだ・・・きっと。」


「反乱軍・・・。」


そう答えた男は、静かに怒っているようだ。

目に怒気を感じるが、その視線は、どこでもない空中を見据えている。


「おいおい! 何、喋ってんだ!?

トイレに行くんじゃなかったのか!?

す、すまなかったな! こいつ、酔っぱらってるんだ。

今のは、聞き流してくれ。

おい、ほら、こっちに戻れって!」


そのタイミングで、男が座っていたテーブルの仲間が、男を連れ戻しに来た。

謝りながらも、男が酔っぱらっていると言い訳していたが、

あれは酔っぱらっているようには見えなかった。

連れ戻しに来た男からは酒の匂いがしたが、

あの男からは、酒の匂いがしなかった・・・。


「・・・。」


男たちが元のテーブルに戻った後も、

なんとなく、気になって耳を傾けるが、何も聞こえてこない。 

5人の男たちが、静かにチビチビと酒を飲んでいる様子は、

何かを警戒して飲んでいるように見えた。

男たちの服装からして、この国の者だろう。

話しぶりからして帝国の騎士団ではなさそうだ。

傭兵のようには見えないが、今のオレのように装備を外して

ここへ食べに来ている可能性もあるか。


いったい、何者なんだろう?


「おもしろそうな話だったな。」


「おいおい。」


シホが、もっと話を聞きたそうにしていたが、やんわりと止めた。

オレが気にし過ぎなのかもしれないが、

あれは・・・

あの連中は、あまり関わらない方が良さそうだ。


気づけば、オレは1杯だけの酒を飲み干してしまっていた。

すっかり酔いも醒めてしまっている。

もう少し気分良く飲むには、お金を稼がねばならないようだ。




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