レッサー王国名物
ヒィヒィィィン・・・
馬車をひく馬が、ひと鳴きして止まった。
「やっと着いたか。」
大型馬車に、ゆらゆら揺られて、
数時間後には、無事に東の停留場に到着した。
まだ国内とはいえ、城外の治安は城内よりも悪い。
馬車が強盗に襲われることは、たまにあることだ。
しかし、今日は運がよかったらしい。
城外警備隊が巡回しているおかげでもあると感じる。
馬車から降りて、一番最初にすることは、コレだ。
腕を思いっきり上に伸ばし、胸を張り、背伸びをする。
「ぅ、くあぁぁ~~~!」
思わず変な声が出る。
女房や娘に「おっさんくさい」と言われたこともあるが、
窮屈な場所から抜け出せば、
誰でもこうしたくなるのは当たり前のことだと思う。
長時間、馬車の中で座りっぱなしだったから
体の筋肉が硬直している感じがする。
背骨がきしむ。尻と腰が痛い。
やはり歳か。
「ん、ん~~~!」
オレの隣に降り立った木下も、
オレのマネをして、背伸びをする。
変な声を出しているうえに、
なんだか、大きな胸を強調してる姿勢になって・・・
なんとなく・・・
見てはいけない気がして、目を背ける。
停留場の時計を見れば、
昼を少し過ぎたところだった。
タイミングとしては、
東の国境行きの大型馬車が出発した後だ。
数時間は、ここから身動きできない。
「とんだ足止めだなー」と思ったが、口にしなかった。
嫌味は木下に効かないのは経験済みだし、
済んだことを何度も言うのは、
嫌味ではなく、ただの意地悪になってしまう。
信頼関係を築けなくなる。
「さて、昼飯にしよう。」
「はい。」
停留場から東西南北へ街道が出来ている。
どの街道にも、美味しそうな匂いを
漂わしている屋台が立ち並ぶ。
東の停留場は、国内外の流通が盛んで、
『ソール王国』の名物だけではなく、
オレたちが今、目指している東の国『レッサー王国』の
名物も売れられている。
なんとなく、どの屋台も『肉料理』が主流のようだ。
美味しそうな肉を焼く匂いが漂っている。
しかし・・・
オレは昔から、なんでも食べられたが、
今はあまり『肉』を好まなくなった。
「そういえば、
木下は好き嫌いは無いのか?」
「そうですね、だいたいは食べられるのですが、
あまり肉を好まないかもしれません。」
「そうなのか?
若いヤツらは、肉が好物だと思っていたが。」
「肉を食べると、どうしても・・・
血の生臭さが気持ち悪くて・・・。」
「えっ? それは・・・
ちゃんと焼かないからじゃないか?
火をしっかり通せば、血などは・・・。」
「いえ、しっかり火を通していても、
肉には、血の臭いが残りますよ。」
そんなことはないと思うが、
オレが気づいてなかっただけか?
「サバイバルの訓練も受けたことがあって、
生き残るために、仕方なく魔獣の肉を食べたのですが、
あれが最悪な悪臭で・・・今、思い出しても、うぅっ!」
木下が吐きそうになって涙目になっている。
「あー、魔獣の肉か。あれは最悪だよな。
オレも食べたことがあったが、あれは美味しくなかったな。
そうか、それでトラウマになっているわけか。」
「はい、もともと好きではなかったのに、
さらに輪をかけて嫌いになってしまいまして。
絶対食べられないわけではないのですが、
すすんで食べてみようとは思いませんね。」
木下がぎこちない作り笑顔になっている。
本当に嫌いなのだろう。
そう話しているうちに、
肉以外の料理を探しているのだが、
なかなか見つからない。
ふと目に留まったのは、『レッサー王国』名物、
『烈辛料』という、
とびきり辛い粉がかかっている肉料理だ。
オレは一度食べたことがあるが、
辛さの主張が激しすぎて、肉の味など全然分からない料理だ。
「木下、辛いのは好きか?」
「え? えぇ、辛さの程度にもよりますが・・・。」
数分後・・・
木下に『レッサー王国』名物の
肉料理を「だまされたと思って食べてみろ」と
言って、食べさせてみたのだが・・・
「本当にだまされた」と言って
泣きそうな顔の木下。
どうやら、肉嫌いだけじゃなく、
辛い物も嫌いにさせてしまったらしい。
・・・泣き顔の木下に怒られたのは言うまでもない。




