城門の外へ
パッカ、パッカ、パッカ、パッカ・・・
規則的な蹄の音が聞こえてくる。
ガタガタッ、ゴトッ、ゴトゴトッ・・・
城内の道に比べて、城外の道は、
あまり整備されていないため
馬車の揺れが大きい。
『ソール王国』の城門付近にある停留場を出発して、
鈍足な大型馬車に揺られて
まだ30分ぐらいしか経っていない。
ふと、馬車の外の景色を見れば、
そこには、まだ街があり、
人々の生活が見れた。
『ソール王国』は、中央に『王宮』があり、
その周りに『城下町』があって、
それを囲うように城壁があり、
城門は、南側にひとつしかない。
とても小さな国だ。
たいていの国民は、城壁の中の『城下町』に住んでいるが、
それなりの税金徴収がある。
その税金を払えない国民が、城壁の外に
細々と暮らし始めて・・・そこに新たな『街』ができたわけだ。
人々は城壁の外側の街を『城外』と呼んでいる。
城内と城外の『街』の貧富の差は、天と地ほどあり、
着ている服装を見れば、その差は明らかだ。
城外でも、城壁から近い所に住んでいる国民たちは
まだ余裕に見えるが、城壁から離れた所に
住んでいる国民はかなり荒れている。
家を持たぬ者たちが
あちこちの路上に住んでいると聞く。
ちなみに、国民は城内も城外も往来自由だ。
簡単な荷物の検査だけで、城門を通れる。
不審な動きをしなければ
オレたち城門警備隊が動くこともない。
あ、もうオレは
警備隊じゃなかったな・・・。
犯罪が起きないように、
民営の警備会社の警備隊が城外を巡回していたり、
国の城外警備隊が巡回しているため、
犯罪率は、そこまで高くはない。
・・・ゼロではないが。
民営の警備隊がいるのに、
公務員である城外警備隊が稼働しているのは・・・
「城内も城外も関係なく、国民を守るため」というのが
国の建前だが、城外の街から『反乱因子』が出ないようにと
見張るためでもあるのだろう。
民営の警備隊が、そのまま反乱軍へと豹変しないとも限らない。
城内の国民の税金で稼働している城外警備隊なので、
城内の国民たちや、一部の貴族や大臣たちから
城外警備隊の廃止の声があがっている。
もしくは、城外の国民からも税収せよ、という声も。
いつの世も、どこの国も『お金』の問題は尽きないものだ。
いっそ、『お金』の仕組みそのものを
見直してみたらいいのでは?とも思うが、
その仕組みで、すでに甘い人生を謳歌している
権力者たちが、わざわざ自分たちの首を絞めるような
仕組みを創るはずもないし、認めるはずもない。
なんにせよ、今の王様の代では
現状維持が関の山か。
「・・・佐藤さん、なにか悩んでますか?
表情が怖いですよ?」
「うわっ!」
隣に座っている木下の顔が
急に視界に入ってきたので驚いた。
オレの驚いた声で、馬車内の乗客たちも驚いていた。
「いや、この国の行く末を案じていたのだ。」
「さすが佐藤さんですね。
この国から追放されたようなものなのに、
この国の未来を案じるなんて。」
「うぐっ!」
チクリと嫌味を言われた。
「追放ではない。『特命』だ。
そして、オレはこの国へ帰ってくる。」
「そうでしたね。
帰りは、お供できませんが、
無事に帰られることを祈っております。」
「お、おう・・・。」
国のことを案じている場合ではない、と言いたいのか。
そうだな、今は、自分のことを考えねば。
パッカ、パッカ、パッカ、パッカ・・・
ガタガタッ、ゴトッ、ゴトゴトッ・・・
オレは久々に城外へ出たので、
すこし新鮮な感覚だった。
その分、ちょっと気が抜けたのかもしれない。
今日もよく晴れている。
春の日差しと風が心地よいし、
鈍足な馬車の揺れも、心地よい。
今、乗っている大型馬車は、
城外をぐるりと回っている馬車だ。
城門がある南から出発して、東、北、西、
そして、また南へと戻ってくる。
オレたちは、東の停留場で降りる。
そこから、東の国境行きの馬車に乗る。
「東の停留場までは短い道のりだが、
そこからの国境までが長い道のりだ。
ちょうど・・・誰かさんのおかげで
お昼が近いし、東の停留場で昼飯をとろう。」
「そうですね、誰かさんに感謝ですね~。」
「ちっ!」
木下のせいで遅れたので、さっきの仕返しとばかりに
少々の嫌味を含めてみたのだが、
頭がいい木下には、この程度の嫌味は通じないようだ。
・・・そういえば、昨日よりは
お互い、すこし自然に会話ができている気がする。
たぶん、木下を「頭のいい奴」という先入観で見て、
オレが身構えて話していたから、かもしれない。
昨日の酒に弱い姿や、今朝のような失態を見せられて、
オレの中で、すこし心が開いてきたのかもしれない。
そして、木下も、すこしオレに慣れてくれた気がする。
嫌味を言えるほどの仲になった・・・のかもしれない。
しかし、慣れあうのはいいが、油断はできない。
木下がスパイだという事実は変わらない。
ふと、木下の表情をうかがうが、
王宮にいた時と同じ、作り笑顔だ。
木下自身も、油断はしていないということか。




