表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
357/502

見上げる星空




オレたちは、夕食を腹いっぱい食べた後、

町の外へ出て、近くの草原で野宿の準備をした。

辺りはすっかり真っ暗だ。


手頃な薪を集めてくれたのも、魔法を使わずに火を起こしてくれたのも、ファロスだ。

長谷川さんを追って、こいつもたった一人で旅をしてきたのだから、

手慣れたものだった。


そして、テントと焚き火が完成したところで、

改めてファロスに、オレたちの旅の目的を説明した。

『特命』と、木下が『スパイ』であることを隠したまま、

最終目的が『ドラゴン』討伐であることを伝えたが、ファロスの反応は普通だった。

オレのことをバカにしたり、驚くということもなかった。

すんなり木下の説明を受け容れた様子からして、

ファロスは、少なからず『ドラゴン』の存在を信じているのかもしれない。


テントの中に、女性陣3人で寝てもらい、

オレとファロスで、焚き火の見張り番を交互にやることにした。


やはりファロスがいることで、木下はオレへ色仕掛けができないようだ。

「寝る時は寝間着に着替えなければ」と言い出すのは変わりなかったが、

以前のように、無理やりオレといっしょに寝ようとしてこない。

木下がそう言い出さない限り、ニュシェのほうも

無理にいっしょに寝ようとは言い出さないようだ。


ファロスのパーティー加入で、思わぬ効果があったな。

ファロスが仲間になってくれて、本当によかった・・・。


「・・・。」


木下が無言で、テントの中から

オレのことをジっと見ていたが、やがて眠りについたようだった。

まさか、今後の色仕掛けの作戦を考えていたわけじゃないだろうな。

ほかの2人も、テントの中で横になったら、すぐに寝入ったようだ。


「佐藤殿は、先に寝てくだされ。

拙者が見張り番をしますゆえ。」


「そうか、頼む。あとでオレは勝手に起きると思うが、

もし、起きなかった場合、ファロスが眠くなった時に、

オレを起こしてくれ。徹夜だけはしないでくれよ。明日に響くからな。」


「承知いたした。」


ファロスの返事に、安心感を感じる。

まだ出会って間もないというのに、すでに信頼しきっているオレがいる。


オレは焚き火のそばで寝転がり、天を仰いだ。

雲一つ無い、満天の星空が広がっている。

夕方までは蒸し暑い感じだったが、夜はすっかり気温が落ち着き、

そよそよと涼しい潮風が時折、海側から吹いてくる。

それがまた心地よい。


・・・亡くなった長谷川さんにしても、そうだったな。

初めて会った時から意気投合して・・・酒を飲みかわして・・・

すっかり信頼しきっていた。


あれは、久々に楽しい夜だった・・・。


チャキッ


「!!」


バッ!


「ぅおぉ!?」


ウトウトしかけていた時に、剣を鞘から抜く音がして、

オレは反射的に飛び起きてしまった。

見れば、ファロスが座ったまま、

自分の武器である『刀』を鞘から抜いているところだった。

驚いた表情で、オレを見ている。

当然、殺気も怒気もない。


「お、起こしてしまって申し訳ない。

拙者の刀は、潮風に弱く、手入れを怠れば、

徐々に錆びついてしまうゆえ、今のうちに手入れをしようと思いまして。

不用意に刀を抜いてしまいました。申し訳ない。」


そう小声で言ってファロスは、『刀』を鞘に戻して

刀身を見えないようにしてから、頭を下げていた。

敵意が無いということを示している。


「そ、そうだったのか。こっちこそ、驚かせてすまん。」


オレは謝りながら座ったが


「・・・オレも手入れしてから寝ようかな。」


気になったので、自分の荷物のそばに置いてある剣を取り出した。


そうだったのか・・・。

そう言えば、この国へ来た時、馬車に乗り合わせた商人たちが

鉄は潮風で錆びてしまうと言っていたことを思い出した。

今まで海に面している国に住んだことがなかったから、

武器が錆びるという心配をしたことがなかった。

母国では長年、平和でボケてしまって、剣の手入れを怠っていた。

こういうことも知らないとは・・・いや、これも勉強だな。


チャキッ


なるべく音を立てないように、剣を抜く。

テントのほうを見てみたが、誰も起きる気配が無い。

音が鳴った瞬間、若干、ニュシェの耳が動いたぐらいだ。

あいつら、危機感が無いな・・・。

それとも、オレたちを信用している表れか。

そう考えると、オレはまだまだファロスを信用していないということだな。


オレは、手入れの道具を持ち歩いていないので、

いつもの血拭き用の布で、刀身を拭くだけだった。

錆は無し、刃こぼれも無し、歪みも傷もない。

剣を最後に使ったのは、船の上で、大きな『イカタイプ』と戦ったのが最後か。

ちゃんと拭き取ったはずだが、なんとなく、

まだ『イカタイプ』の、あの墨のニオイがするような・・・。


ファロスのほうを見てみると、刀身を丁寧に布で拭いた後、

何やら丸いものでポンポンと刀身を叩いたり、

また布で丁寧に拭いた後、今度は油?のようなものを布に染み込ませ、

それを、そっと、そっと刀身に塗っている・・・。

なんというか、ものすごく丁寧に手入れをしているようだ。

拭いて終わりのオレとは、全然違うものだな。


実際、ファロスの手入れの方法が正しい。

オレも学校で、防錆用の油を使った手入れ方法を習ったことがある。

ただし、それは長期間、剣を使わない時にする方法だ。

こうして旅をしている間、いつでも剣を使う状況にある場合には、

あまり丁寧に手入れをしない・・・少なくとも、オレはしない。


「まるで宝物のように扱うんだな。

まさか、その武器も国宝なのか?」


オレは、ふと思ったことを言ってみた。


「ははは、まさか・・・。拙者のは、無名の刀で、

国宝に指定されるほどの『名刀』は、大概、名前が付けられているでござる。

この刀は、父上との闘いを重ねて、国宝どころか、

すでに傷だらけの粗悪品になりつつあるのですが、

こうして大事に大事に手入れすれば、まだまだ長く使える・・・。

これは、父上に教わった方法なのでござる。」


「そうか、長谷川さんの教えか・・・。」


「父上は贅沢を嫌い、使える物はなんでも壊れるまで使い続ける人でござった。

この手入れ方法は、父上の性格によるものと・・・

あと、侍という者は、刀を、己の命のように扱うものだと・・・

そう教えこまれているでござる。」


「なるほどな。

物を大事にするという、いい教えじゃないか。」


「そうそう、その通りでござる。

近頃の若者は物を大切に扱わず、

すぐに捨てるのが、なんとも嘆かわしいことでござる。」


いや、お前もまだ若者だろう・・・と感じるが、

20代を過ぎれば、おじさんの仲間入りだということか。


ファロスは続いて、長谷川さんから譲り受けた武器・・・

魔道具である『刀』のほうも鞘から抜き、手入れを始めた。

キレイな刀身だ。長谷川さんが大切にしていたことがうかがえる。


「それにしても、佐藤殿の武器は・・・。」


ファロスが、ふと手を止めて、オレの剣を見ている。

焚き火の灯りに照らされて、ゆらゆらとオレンジ色に反射している剣。


「かなり年季が入っているように見受けられます。

大切に扱われておられるのでしょう。」


「え、いや、すまん・・・この剣は、じつは・・・。」


ファロスの勘違いで褒められてしまい、罪悪感を感じたので、オレは素直に謝った。

この剣が、家の物置と化した部屋の片隅に、

長年、手入れもされず放置されていたことを。

手入れがされてないことは、オレが言わなくても

ファロスぐらいの実力者が見れば、ひと目で見抜くと思っていたが、


「そうでござるか・・・とても長年放置されていたとは思えないほど、

キレイな刀身でござるな・・・。」


オレの話を聞いても、信じられないと言った感じで

オレの剣を褒めてくれるファロス。

お世辞・・・かもしれないな。

逆に気を使わせてしまったか。優しいやつだ。


「もしかして、その剣のほうこそ国宝なのでは?」


「ははは、おもしろいことを言うなぁ。」


お世辞を通り越して、笑い話に変えてくるとは・・・。

なかなかおもしろいやつだ。

そういえば、長谷川さんも、真面目な表情で

ちょいちょい、おもしろい話をしていたな・・・。


オレは剣を鞘に納め、夜空を見上げた。


「・・・。」


ファロスも、何か察したのか、

黙って武器や手入れ道具を片づけて、

オレと同じように夜空を見上げる。


雲一つない、満天の星空・・・。


ファロスに見せてもらった、

長谷川さんの最期の『辞世の句』を思い出す。


そこから見ているか? 長谷川さん?

あんたの息子をオレたちの仲間にさせてもらったぞ。

不思議な縁だな。

それとも・・・あんたの仕業か?


「・・・。」


港町のほうから潮風が流れてきて、

オレたちの周りの草花が、一斉に揺れている。

焚き火の灯りが、少し激しく揺らめく。


「では、少し寝る。おやすみ、ファロス。」


「おやすみなさい、佐藤殿。」


オレに返事をしたファロスは、オレが横になるのを見届けてから、

また夜空を見上げていた。

・・・父に何か報告しているのか。

いや、今や父も母も星になっているんだったな。


そんなことをぼんやり思いながら、

オレの意識は眠りの世界へと吸い込まれていった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ