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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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港町『ヌオターレ』と女性たちの事情




「んぐっ! ぷっはぁーーー! はっはっはー!」


「さすが佐藤殿、いい飲みっぷりでござるな! はっはっは!」


「あんまり飲み過ぎないでくださいね、おじ様?」


オレたちは夕食を食べるために、浜辺から歩いて、港町『ヌオターレ』へ来ている。

海賊たちに全財産をスられていたことに気づかされ、絶望を味わったが、

ファロスだけがお金を持っていることが分かり・・・。

ファロス自身が提案してくれたことを、みんなと話し合い、

当面の間、ファロスが食費や運賃などの

旅に必要な出費を、肩代わりしてくれることになったのだ。

パーティーのお金ではなく、個人のお金なので、

ファロスがいったい、いくら持っているのかまでは詮索していないが、

しばらくは余裕で、パーティー全員の食事代を出せると言っていた。


港町『ヌオターレ』。

木下の説明通り、以前、訪れた港町『ペレンブラ』と同じくらい、大きな町だ。

この国へ来てから、もうすっかり鼻が慣れてしまったが、

町のどこに居ても潮の強い香りが漂っている。

多くの漁猟用の白い船が停まっている波止場の上空には、

やはり、あの魚を盗んでいくという白い鳥の群れが飛んでいたが、

夕日が沈むと、その群れはいつの間にか消えていて、静かになっていた。

一応、目に留まった宿屋や民宿を、3軒ほど当たってみたが、

どこも満室だったため、早々に諦めて、オレたちは食事処を探した。

どこの食事処も、定期船の順番待ちで足止めを食らっている商人たちでいっぱいだったが、

5人座れる席が空いている食事処は、すぐに見つかった。


・・・この店先に、赤い提灯がぶら下がっていたのを、オレは見逃さなかった。

ちゃんと木下の許可もいただいた。

久々の酒で、オレのテンションは、少し・・・いや、かなり上がってしまっていた。


「すまんな、ファロス。本来なら、お前の仲間入りを祝って、

オレが酒をおごってやりたかったところだが・・・。」


「なんのなんの。拙者は、しばらく酒を控える身ゆえ、

今は、そんなことを気にせず、楽しんでいただければ幸いでござるよ。

はっはっは!」


ファロスは、小さなコップの酒だけ注文して、ちびちび飲んでいた。

ファロスの家の宗教上の関係で、身内に不幸があった場合、

1週間ぐらいは派手に酒を飲めない・・・という規律があるらしい。

身内の不幸・・・ファロスの父親である長谷川さんが亡くなったのは昨日の事だ。

本来なら、祝いの酒を飲む気分ではないだろうが・・・。


「遠慮せずに飲めよ、ファロス。お前の金だからな。

店員さん、魚の唐揚げ、追加でー!」


ファロスの横に座っているシホのやつが、

しきりに、ファロスへ酒を勧めている。

そして、遠慮しなきゃいけないのはシホの方なのに、

遠慮なく、飲み食いしている。

しかし、酒は飲まないシホ。あれで素面だと言うから恐ろしい・・・。


「シホさんは、あんまり食べ過ぎないでくださいね!」


木下がシホへ厳しく注意している。


当面の間の出費は、ファロスが肩代わりしてくれる・・・

つまり、オレたちはファロスに借金をすることになる。


この町の『ヒトカリ』で何か依頼を達成して、早く稼ぎたいところだが、

木下の見張り役、ペリコ君との約束がある。

1週間後に、隣国『ソウガ帝国』の、とある町の宿屋で合流するという約束。

まだ1日しか経っていないが、あのギルじぃの船のおかげで、

かなり移動距離が稼げたはずだ。

だから、オレたちは一日も早く約束の町へ行き、

ペリコ君が来るまでの間、その町の『ヒトカリ』で依頼を達成させ、

ファロスへの借金を返済し、失った旅費を稼ぐ・・・という作戦だ。


ペリコ君との約束を、ほかのみんなに伝えることなく、

木下が、テキパキと今後の説明をして、そういう予定になった。


だから、オレたちは、なるべく質素な生活をしなければいけないところだが・・・。


「ここの唐揚げ、旨いんだよ! ユンムさんも食べてみなよ!

そんなサラダばかりじゃ、体力がつかないぜ。」


「いえ、脂っこいのは遠慮します。

あ! 何、勝手に、人の皿に唐揚げ入れてるんですか!」


「でも、ユンムさん、これ、本当に美味しいよ。」


「ニュシェちゃんまで・・・もう・・・。」


半ば強制的に、魚の唐揚げを食べさせられている木下。

そういえば、海賊の村にいた時も、サラダばかり食べていたような気がする。

以前、肉類は好きじゃないと聞いていたが、

肉も魚も、まったく食べられないわけではないだろうに。


「たしかに美味しいですね・・・でも・・・。」


「なんだよ、ユンムさん。好き嫌いは良くないぜ?

ほら、この魚がたっぷり入ってるシンカイドンって料理も旨いぜ!」


「いえ、けっこうです!」


「本当だ! ユンムさん、これも美味しいよ~!」


女性陣3人のやり取りを見ているだけでも、微笑ましくて、

ついつい酒がすすんでしまう。


「お、佐藤殿、コップが空のようでござるな。

店員、酒を1杯追加だ!」


「あ、ファロスさん! それ以上、おじ様に酒を与えないでください!」


ファロスが気を利かせて、酒を追加注文してくれたが、

すぐに木下が気づいて、注意してくる。


「め、面目ない・・・しかし、注文してしまったので、

次の1杯は目をつぶってほしいでござる。」


まじめなファロスは、すぐ木下に謝った。


「まぁ、気にすんなよ、ファロス。

でも、おっさんには本当に飲ませ過ぎないでくれよ?

酒を飲み過ぎたおっさんのイビキは、本当にうるさいからな!」


「うっ・・・。」


「そ、そうなのでござるか・・・。

気を付けるでござる・・・。」


シホのやつ、余計なことを・・・。

しかし、イビキがうるさくなるのは本当のことなので、

オレは何も反論できずに、赤面するしかなかった。


「はいよ、アッカダイの唐揚げ!

それと、カシズエール!」


店内のテーブルは、数十人の客で埋め尽くされている。

その対応に、店員たちは大忙しだが、

さっき注文した分が、もう届けられた。


「どうぞ、佐藤殿。」


「すまんな。」


すかさずファロスが、届いた酒をオレの目の前に置いてくれる。

本当にまじめで、気が利くやつだ。

長谷川さんも酒好きだったし、ファロスもきっと飲める口だろう。

1週間後には、こいつと楽しく酒が飲めそうだな。


「ほい、ユンムさんの分!」


「あぁ! だから、勝手に皿へ入れないでください!」


シホが気を利かせて・・・いや、逆に気を利かさずに、

また勝手に、木下の皿に、今届いた魚の唐揚げを入れた。

すかさず苦情の声をもらす木下。


「なんだよ、ユンムさん。本当に嫌いなのか?

それとも、もう腹いっぱいなのかよ? 美味しいだろ?」


「美味しいですよ・・・美味しいから・・・困るんです。」


あまりにも木下が嫌がるものだから、

シホのやつが、その理由を知りたがっているようだ。

先ほどの唐揚げも、嫌々とはいえ、

さらりと食べきったところを見れば、嫌いというわけではなさそうだが。


木下は少しうつむき気味に、チラチラとオレとファロスの顔を見た。

なんだろう?

なにか、オレたちに聞かれたくない理由なのだろうか?


「腹いっぱい食べなきゃ、体力がつかないのは本当だぜ、ユンムさん。

このパーティーの中では一番体力が無いんだから、

もっとたくさん食べなきゃ・・・!」


「わ、分かってますよ。でも・・・でも・・・。」


「?」


木下は、やはりオレたちの顔色をうかがうように、チラチラ見てくる。

そして、シホに向かって、手招きしだした。

シホが不思議そうな表情のまま、木下に顔を近づける。

オレたちを目の前に、2人だけのコソコソ話を始めたが・・・


「・・・この前の・・・水着で・・・お、お尻の、お肉が・・・。」


「あ・・・。」


オレは、なんとなく聞こえてきた小声で、

なんとなく木下の『女性特有の悩み』を察してしまった。

それを耳打ちされて、シホの顔色がさっと引いていく。

・・・どうやら、シホの身にも当てはまる話だったようだ。


オレもファロスも、顔を逸らし、聞こえていないふりをした。

ファロスも、よく分かっているようだな。


それにしても、どうして女性というのは・・・

気にしないでいいやつほど気にして、

気にしなければならないやつほど、気にしないのか。


オレの女房もそうだったなぁ。

まぁ、これに関しては、

『男が理想とする女の体型』と

『女が理想とする女の体型』に違いがあるから、

男は、絶対に口を出してはならないのだ。

口を出したが最後・・・

長期間、空気のような存在として扱われてしまうのだ・・・。


オレは、当時の女房の表情と態度を思い出し、少し身震いした。

あー・・・酔いが覚めそうなほど、イヤな思い出だ。


「?」


ニュシェにも聞こえていると思うが、

ニュシェにはまだ『女性特有の悩み』が理解できないと見える。


木下のコソコソ話を聞き終えたシホが、急に、


「うん、分かった。俺もおなかいっぱいだったわ。ごめん。」


「は!?」


「ですよね? 私も、もうおなかいっぱいなんです。」


「え!?」


「残すのも、もったいないから、おっさんとファロスで全部食べてくれ!」


「えぇぇぇ!?」


シホと木下は、そんなことを言い出して、

食べかけの料理まで、全て、オレとファロスの目の前に押しやってきた。

2人の態度が急変し、オレとファロスは驚くしかない。


「お、おいおい、さっきまでの勢いはどうした、シホ!?

それに、さすがのオレたちでも、こんなには食べられ・・・。」


「なに言ってんだ、おっさん! ドラゴン倒すんだろ!?

たくさん食べなきゃ強くなれないぜ!?」


「お、おい! そんな大声で言うな!」


ざわざわざわ・・・


シホの大きな声で、いつの間にかオレたちの周りの客たちが、

好奇の目で、オレたちを見ている。

は、恥ずかしい!


こうして、木下とシホに押し切られる形で、

オレたちは、早急に残飯処理をさせられることになった。

そうして、逃げるようにしてお店を後にしたのだった。


くっ・・・食べ過ぎた。

メシよりも、もう少し酒を、ゆっくり味わいたかったのに・・・。






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