新たな仲間
「そうだろうな・・・。あのガンランという男も無関係ではないだろう。
いや、間違いなく、関係しているだろうから、
直接、聞くのが真実への近道だろうな。」
「おじ様・・・。」
「そうでござる。そして、主君の死に
やつが関係しているのであれば、その時こそ、
わが主君の仇、父上と母上の無念、
大津波に飲まれた国民たちの仇、拙者が、必ずや果たすでござる!」
ファロスの言い分は、筋が通っている。
あのガンランという男と接触するためには、
命を狙われているオレたちといっしょにいたほうが、
ファロス1人で探すよりも遥かに確率が高い。
「それに・・・情けない話でござるが、
拙者は、まだまだ未熟者でござる。
今までは、父上以外に負けたことがなかったのですが、
先刻、佐藤殿に手合わせいただき、貴殿にも負けたでござる・・・。
あの手合わせで、佐藤殿は、父上と同格の実力だと確信いたしました。
そして、あの瞬間、拙者は覚悟が決まりした。
佐藤殿に付いて行って、修練させていただきたい!」
「えぇ!?」
オレが長谷川さんと同格?
いやいや、オレは、あんな化け物ではない。
「・・・おじ様? どういうことですか?
ファロスさんと手合わせって?」
「え!?」
木下の目が鋭くなって、オレを睨んでくる。
あ・・・ファロスと手合わせしたことを言ってなかった。
「あ、いや、その、話の流れで・・・。」
「見事な圧勝じゃったの。わしが見届けた。」
オレが、説明しづらそうにしていたところ、
ちょうど玄関に来た、あの年老いた男が口を挟んできた。
「なんじゃ? 本当のことじゃろ?」
オレは恨めしそうな目で見たが、年老いた男は、きょとんとしている。
本当の事だから、何も言えない。
タイミングがいいのか、悪いのか。
「おじ様・・・?」
「うっ・・・。いや、その、長谷川殿の最期の伝言を、だな。」
木下の視線が痛い。
「どうして、そんな余計なことを?」と
言葉にせず、責められている気分だ。
「拙者が、実力不足で、証拠不十分のまま、
『ロンマオ』へ帰って・・・拙者の推測が当たってしまった場合、
拙者の命はそこで尽きるでござる。
だから、拙者は、今から己を鍛え、証拠を集めるため、旅へ出るでござる。
佐藤殿に付いて行けば、それらが効率良く実行できますが、
付いて行くことが叶わぬならば・・・それらを得るために長き時間がかかります。
その間、拙者は、その刀を受け取るに相応しい実力がないので、
その刀は、しばし、佐藤殿に預かっていただくことになります。」
「な、なんだと!?」
「そんな・・・!」
オレが木下にうまく説明できていない内に、
ファロスがとんでもないことを言い出す。
木下も、虚を突かれたのか、すぐさま反論できない。
「ファロス殿! これは長谷川家に代々伝わる家宝だと言っていたではないか!
こんな大事な物を、赤の他人のオレに預けるなんて・・・!」
「ほほぅ・・・家宝なのか、それは・・・。」
「っ!」
オレが反論している横で、年老いた男の目が光った。
完全に、お宝を見る、賊の目をしている。
オレがこれを預かる場合、ずっと大切な物を奪われないように、
紛失しないように、余計な気を使い続けることになる。
「佐藤殿の実力ならば、拙者が持っているよりも安全でござるよ。
拙者は、数か月、いや数年の歳月を経て、佐藤殿の実力に近づけるよう、
修練していくでござる。そののちに、必ずや、
佐藤殿を探し出し、その刀をもらい受けに行くでござる。」
「す、数年だと!?」
ファロスが途方もないことを言い出している。
その目は、しっかりとオレを見ていて、
冗談でも、ウソでもなく、本気で言っていることが伝わってくる。
「ただ・・・拙者を仲間に加えていただければ、
こちらとしても、数年の歳月をかけなくて済むので、
非常に助かるのでござる。
その刀も、今すぐ受け取らせていただくのだが・・・。」
「!」
そこで、初めてファロスの視線が逸れた。
そして、この言い回しは・・・なるほど、これは交渉か。
ファロスの言い分は、もっともな理由で筋が通っている。
そして、オレが仲間入りを拒否した場合も、
きちんと想定して、覚悟しているようだ。
オレが拒否すれば、本気で『刀』を受け取らず、
危険な一人旅をやってのけるだろう。
なんと言っても、あの長谷川さんの息子だからな・・・。
これを却下するためには、こちらも
それ相応の理由を用意しなければならないし、
ファロスの覚悟に似合うくらいの覚悟が、
こちらにも必要ということになる。
「何を迷う必要があるんだよ?
ファロスさんの実力は、おっさんに及ばないにしても
俺たちよりは強いわけだろ?
俺たちパーティーの即戦力じゃないか。」
タイミングを見計らっていたかのように、
シホがファロスの仲間入りを了承する声を上げる。
こいつの言うことは、もっともな話だが・・・。
「あ、あたしも・・・ファロスさんは
悪い人じゃないと思うし、強い人だと思う。
あのおじいちゃんに似てて、優しそうだし。」
シホに続いて、ニュシェまでも、
ファロスの仲間入りを了承する声をあげた。
ニュシェのほうは、直感的な判断のようだが、
オレも直感的に、ファロスは仲間として信頼できる男だと感じている。
「かたじけない、シホ殿、ニュシェ殿。」
2人の了承を得られたことに感謝しているファロス。
「なんじゃ、お前たちは、本当に仲間じゃなかったんか。
てっきり、仲間だとばかり思っておったわい。」
年老いた男が、そう言った。
他人から見ても、オレたちには仲間のように見えていたのか。
「ふぅ・・・おじ様。」
「・・・。」
ふと木下に視線を送ったが、
木下は小さな溜め息をついて、うなづいていた。
つまり、木下でも、ファロスの提案を拒否する理由が
思い浮かばなかったようだ。
・・・迷う理由はある。
問題は、最初からあるのだ。
シホの時も、ニュシェの時も、同じ問題で悩んだ。
オレが『ソール王国』出身者であり、『特命』を受けていること。
木下とオレが赤の他人であること。
木下の母国が、すでに『例の組織』に乗っ取られていること。
そして、木下が『スパイ』であること。
それらを隠して、旅を続けているということだ。
しかし、シホの時も、ニュシェの時も、
この問題は解決できず、問題を抱えたまま2人を仲間に加えた。
それは、なぜか?
「・・・分かった。パーティー全員の意見が一致した。」
その人物が、オレたちにとって必要な人物だったからだ。
「そ、それでは!?」
ファロスの真剣な表情が、少し明るい顔へと変わっていく。
・・・やっと、柔らかい表情になったな。
「あぁ、長谷川ファロス殿!
オレたちパーティーの仲間になってくれ!」
オレは、力強く、そう言って、
再び、『刀』をファロスへ向けて差し出した。
「願ってもないお言葉! かたじけない!!」
ファロスの方も、力強く礼を言って、
やっと、オレの手から『刀』を受け取ってくれた。




