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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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子供の頃からの癖




「・・・。」


ファロスは、黙ってしまった。

その表情は困惑している顔だ。

長谷川さんを止められず、国宝である『刀』も消滅してしまった。

そして、母国も乗っ取られている可能性が出てきた。

ファロスは、今後について、

自分がどうすべきなのかを考えているのだろう。


オレもいっしょに行って、チカラになってやりたいが・・・

オレの立場としては、他国のことに

これ以上、あれこれ言える立場ではない。

ファロスの今後のことは、

ファロスが帰国後に、自身が決めるべきだろう。


長谷川さんにしても、ファロスにしても、

王様から直々に命令されたり、その側近から命令をされるあたり、

オレと同じく、国に仕える公務員なのだろうな。

それも、かなり責任ある役職なのかもしれない。


そういえば・・・


「そういえば、ファロス殿は、たしか『さむらい』という職業なのだな。

オレは、あまり他国のことを知らないから、

そういう職業があるのも初耳なのだが、『侍』というのは、

どういう職業なんだ?」


「え? あぁ、拙者が名乗った『侍』というのは、

職業というよりは、身分のようなものでござる。

他国でいえば・・・貴族などにあたるのかもしれません。

主君に忠義を尽くす者たちの総称みたいなものでござる。」


「そ、そうだったのか。貴族か。

オレみたいな一介の傭兵が対等に話せる者ではなかったわけだな。」


「いやいや、主君に忠義を尽くすという姿勢が、

他国の貴族と似ているというだけで、

庶民よりも階級が上というわけではござらんので!

これまで通りで、大丈夫でござる!」


オレが、少し頭を下げたので

ファロスが慌てて、そう弁解した。


「そうか。そういうことなら、こちらとしても助かる。

長谷川殿に対しても、ファロス殿に対しても、

いろいろ無作法な態度をとってしまっていたからな。」


おそらく、ファロスの優しさだろう。

オレと同じで、公務員だからとか、

資格や身分によって威張るような性格ではないようだ。


「ん? ということは、長谷川殿も、本当は『侍』なのか?」


「な、何を申される!? 父上こそ、『侍』の中の『侍』!

誰よりも主君への忠義心が厚く、

『侍』であることに誇りを持っていた人でござる!

拙者は、そんな父上を敬愛し、

立派な『侍』になれるよう、日夜、研鑽して・・・!」


オレの言葉に、ファロスが興奮して反論した。


「あ、いや、長谷川殿の忠義心が厚いのは分かっている!

立派に、命を賭けて『密命』を果たしたのだからな。

ただ、最初に会った時、長谷川殿は自らを『剣士』と名乗っていたから・・・。」


「え・・・?」


オレが慌てて、そう言うと、

ファロスの興奮は一気に冷めて・・・真剣な顔つきになった。


「・・・。」


オレの言葉に、何を感じたのか分からないが、

ファロスは真剣な顔つきになったまま、黙ってしまった。

なんとなく、青ざめているようにも見える。


「えっと・・・まぁ、長谷川殿は『密命』を果たすために、

オレのような他国の者には、

偽りの身分を名乗っていたということじゃないか?」


おそらく長谷川さんが『侍』だと名乗っていなかったことに

ファロスはショックを受けているように感じた。

だから、オレはそう言ってみたのだが、


「・・・それはないでござる。

主君の『密命』のためとはいえ、

父上が誇りである『侍』を名乗らないわけがござらん。

身分を明かすことと、『密命』を明かすことは同義ではござらぬゆえ・・・。」


「そ、そうか。」


ファロスに否定されてしまった。

オレとしては、それほど重要なことではないと感じてしまう。

身分を名乗ろうが、偽ろうが・・・。

しかし、オレが「重要ではない」と感じているわけだから、

わざわざ偽っていたことがおかしいということか?


「・・・。」


再び黙ってしまった、ファロス。

興味本位で、つい聞いてしまっただけなのに、

何か、余計なことに首を突っ込んでしまったような気がする。

ふと、木下の顔が目に浮かんだ。

自重しなければ。


「あ」


「え?」


自重しなければならないと自覚したところだが、

オレには、まだファロスへ伝えなければならないことを思い出してしまった。


「そういえば、長谷川殿からファロス殿へ伝えていないことが、

まだあったことを思い出した。」


「はい。」


「それは・・・。」




オレは、長谷川さんが最期に見せた、あの笑顔と笑い声を思い出しながら、

長谷川さんの遺言を伝えた。




「な、なんと!?」


ファロスは、オレの話を聞いて、驚きながら、

顔を真っ赤にしてしまった。

その様子がおかしくて、オレは、ついつい笑顔になってしまう。


まだ伝えていなかった、長谷川さんの遺言というのは、

ファロスが「技の名前を叫びながら戦っている」という話だ。


やはり本人に自覚が無かったようで、そこを指摘されて、

恥ずかしくなったようだ。


「わ、笑わないでいただきたい!」


「あ、いや、すまん。

なんというか、長谷川殿も、あの時、笑っていたのでな。はっはっは!」


恥ずかしがっているファロスが、面白く感じて、

オレは、つい笑ってしまっていた。


「そ、それに、拙者には、そんな子供染みた癖など・・・!」


そう言いながら、否定してくるファロス。

指摘されても、自覚が無いからピンときていないようだ。


「まぁ、そうだな。

癖というのは、自覚が無くて当たり前だからな。

言葉で伝えることは出来ても、

あとは実践して、自分で意識して直していくしかないからな。」


オレは、そう言ったのだが、

ファロスは、なにか思うところがあったのか、

少し考えるような顔をして


「では、佐藤殿・・・陸へ着いたら、

軽く手合わせを願いたいでござる!」


「え・・・!?」





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