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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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妹からの警告




翌朝。

疲れていたのに、昨夜遅くまで、木下たちと話し合ったせいか、

よく眠れなかったため、寝起きは最悪な気分だった。


ズキィン・・・


「っ!」


昨日までは、なんともなかったのに、

今朝には、右肩が熱を持っていて少し痛い。

昨日、竜騎士の剣技を乱発した反動だろう。

筋肉痛と同じで、遅れて症状が出るあたりは、

歳のせいなのだろうな。


さらに、オレの最悪な気分に追い打ちをかけたのは、

荷物から歯磨き粉を取り出した際に、

袋からこぼれおちた手紙だ・・・。


差出人は、昨夜の話し相手・・・金山ペリコ君からだ。


いったい、いつの間に手紙を入れたのか?

それよりも、昨夜、淡々と必要な会話だけしていたペリコ君が、

去り際に、あんなことを言ったのは、オレに

この手紙を読ませることが目的だったのだと気がついた。


木下の前では話せない内容だ。


手紙には、こう綴られていた。






「   【警 告】


突然の手紙、無礼を承知で、したためさせていただきます。


ユンム様の前では、細かい自己紹介が出来ませんでしたが、

私は、幼い頃から『スパイ』としての教育を受けており、

ユンム様が生まれた時から、木下家でお世話係として働いておりました。

ですから、ユンム様は私の主であり、妹のように、大切に想っております。


私の見守り役という任務は、ユンム様を見張るだけでなく、

ユンム様が請け負った任務を、滞りなく遂行させるために、

陰ながら、補助する役目も担っております。


まずは、お礼をさせてください。


身分と任務の自白を、他人に漏らしてしまうという、

『スパイ』として、あるまじき行為をしてしまったユンム様を

厳しく処分することなく、こうして今日まで、

『ソール王国』からの『特命』を受けた者同志のように

扱っていただき、大変感謝しております。


もしも、あの城門の一室で、佐藤様が

ユンム様に危害を加えようとしていたら・・・

私と姉で、佐藤様と小野寺様を始末せねばならぬところでした。


その後の佐藤様のご活躍も、私は陰ながら拝見させていただきました。

『窃盗団』の壊滅や、『バンパイア』の討伐・・・本当にお見事でした。

ユンム様からお願いされているように、

今後も、私たちにご助力いただけると助かります。


さて、佐藤様は気づかれていないと思われますが・・・

ユンム様からお聞きした『ソール王国』での、

最後の任務を覚えていらっしゃいますか?


『ソール王国』出身者の遺伝子をいただくという任務です。


ユンム様は、この最後の任務を、

『ソール王国』の王様に対して色仕掛けをして、失敗に終わり、

現在、帰国の途中なのですが・・・

ユンム様は、まだ任務を諦めておられないようです。

この旅の間、ユンム様は佐藤様に、ずっと色仕掛けをされています。

今は、佐藤様の、鉄のような騎士道精神により、

ギリギリのところで、ユンム様の任務は失敗に終わっているようですが、

今後も、隙あらば、ユンム様は任務を遂行されると思われます。


正直、申し上げますと、私は、これまで幾度か・・・

ユンム様と寝ている佐藤様へ向けて、

鋭利な物を投げそうになっておりました。

私も『スパイ』ですので、忍耐力には自信があったのですが、

私の絶対的な主であり、妹のように可愛がっているユンム様に、

汚らわしい男が近づいただけで、私は自身の荒ぶる怒りを抑えられません。


ユンム様の最後の任務は、『諜報部』部長である

ユンム様のお母様からも言われている通り、

必ず任務完了しなければならないものではないので、

失敗した任務のことは忘れていただくように、

何度かユンム様へご提案させていただきましたが、

ユンム様は、聞く耳を持たれませんでした。

危うく、ユンム様の任務を妨害しそうになりましたが、

やはり私は、ユンム様の任務を本気で止めることはできません。


佐藤様におかれましては、これからも鉄のような精神力で、

今後も、ユンム様のお誘いを断固拒絶していただき、

甘い誘惑に、打ち勝ち続けていってほしいと思います。


私は、しばらくユンム様から離れますが、

どうか、くれぐれも、お間違いや勘違いを起こされませんように。

今までも、ユンム様を守っていただいたわけですが、

これからも、そのお力で、どうかユンム様をお守りください。


よろしくお願い申し上げます。




   【追 伸】


この手紙のことは、ユンム様には、

どうか、ご内密にお願いいたします。


私の姉は、最近、佐藤様の奥様と親しくさせていただいております。

奥様のお耳に、いつでも

佐藤様のご活躍を報告することが出来ます。

どうか、その報告が・・・残念な報告にならぬように。

佐藤様の忍耐力にかかっていることを、今一度、

ご理解いただきますよう、お願い申し上げます。」






・・・背中に、どっと冷や汗をかいた。

手紙を持つ手が震えた。

最初に書かれている『警告』なんて、生易しい物ではない。


これは、完全な『脅迫状』だ。


つまり、この『脅迫状』を要約すると、

ペリコ君では木下の任務を止めることが出来ないから、

木下が任務を諦めていないことに気づかないふりをしながら、

拒み続けろということだ。

さもなくば、暗殺・・・

いや、それどころではない。

女房に即行で報告されてしまうというわけだ!


なんてやつだ、ペリコ君!

いや、あの姉妹の共謀か!?

女房にチクられるなら、

いっそ鋭利な物で殺されたほうがマシだ!


手紙の一番最後には、

「読み終えたこの手紙を必ず水に濡らすこと」と書かれていたので、

オレは、手紙をぐしゃぐしゃに丸めて、

乱暴に洗面台へ投げ入れ、水浸しにしてやった。

よく見れば、濡れた瞬間に、

手紙がみるみる溶けて、消えていった・・・。

そういう魔道具の手紙だったのだろう。

秘密を残さず消すとか、いかにも『スパイ』らしいな。


もう気分の悪い文章を見ることは無くなったが、

すでに、この目に焼き付いている。


・・・道理で、木下のやつが、やたらとくっついてくるわけだ。

こんなジジィといっしょに寝ようとしてくるのも、

すべて『スパイ』任務遂行の為だったとは・・・。

母親からの命令に、健気に応えようとする、その姿勢は、

マジメそのもので、応援してやりたくなるが、

目的が、オレの遺伝子ならば、話は別だ。

今まで通り、オレは、断固として拒絶する!


オレは、女房の怒り狂った顔を想像して身震いした。


金山君・・・姉のカナリ君が『ソール王国』に残っているのは、

このためだったのだろうか?

いや、本当の目的は、きっと木下が探れなかった情報を得るためと・・・

小野寺が、木下の情報を漏らしてしまわないか、見張るためだろう。


小野寺も、まさか、毎日お茶を出してくれている金山君に

見張られているとは思うまい・・・。

身の危険を知らせてやりたいが・・・

下手に手紙などで知らせて、金山君に気づかれたら・・・

知らせるのは逆効果になるか。

小野寺が、マジメに「他言しない」という約束を

守り続けてくれることを祈るしかないか。


「ちくひょぉっ! ふぉのれぇ~~~!」


オレは、乱暴に歯磨きをしながら悪態をついた。

『ハージェス公国』のせいで・・・!

いや、真の原因は、『ハージェス公国』を乗っ取った、

『ソウルなんとか』という組織のせいか!

やつらのせいで、とんだ災難だ!



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