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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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姉からの伝言



「私は、逃げると見せかけて、桐生ガンラン氏の後をつけていました。

その時に桐生ガンラン氏は、私から奪った『血判跡』を使ったのです。

桐生ガンラン氏が焦っていて、必要以上の魔力を流してしまったのか、

『血判跡』の耐久力がちょうど尽きてしまったのか、

『血判跡』はユンム様がいる方角を示したのちに、粉々に砕けてしまいました。

そのおかげで、私もユンム様の居場所を知ることが出来たのですが・・・。

そういう理由で、桐生ガンラン氏は、二度と『血判跡』を使用できなくなったので、

これから、しばらくは桐生ガンラン氏に急襲される心配はないかと。」


「そうだったんですか?」


ペリコ君は、はっきりそう言った。

木下にとっても知らない情報だったようで、聞き返している。

本当に、その魔道具が壊れて使用不可になったのなら・・・

この先、いきなり襲われることはない・・・のか?


「しばらく、というのは?」


「先ほど言ったように、『血判跡』は私の姉も所持しています。

もし、『ソール王国』にいる姉が桐生ガンラン氏に『血判跡』を奪われれば・・・

再び、ユンム様の居場所を知られてしまいします。」


そうか、『血判跡』はもう一つあるんだった。


「しかし、『ソール王国』まで距離もありますし、

私の姉が桐生ガンラン氏にやられるとは限りません。

なので、しばらく時間がかかると予想されます。

あと、『血判跡』以外の方法として、国中の至る所に

目撃者や情報屋たちがいるので、そこからユンム様の居場所を

特定される可能性もありますが、私がウソの情報を流しておきますから

この方法も、それなりに時間がかかるでしょう。

なので、どちらにしても、しばらくの間だけ安心だということです。」


「なるほど。」


・・・ペリコ君の話は、筋が通っている気がする。

説得力がある。用意した答えに隙が無い。

これが、『スパイ』か・・・。


「・・・なにか?」


「いや、なにも!?」


真っ暗な部屋の中だというのに、

木下は、オレの意味ありげな視線に気づいたようだ。

こいつも、一応、『スパイ』なんだな。


「話を続けます。

当面のユンム様の安全が確保できたわけですが、

ただし、新たな問題が発生しました。」


「え・・・なんだ、問題って?」


ペリコ君は、木下を横目で見ながら報告し始める。

木下は、まるでヘビに睨まれたカエルのように、縮こまっている。


「桐生ガンラン氏が『ダブルスパイ』かもしれないという

容疑がかかっていることを、

ユンム様が喋ってしまったので、桐生ガンラン氏は、

ユンム様のみならず、『諜報部』の全員を口封じすると・・・

海の上で、そう宣言されたとか・・・そうですよね、ユンム様?」


「うぅ・・・、はい、その通りです・・・。」


苦しそうに木下が答えた。

あー、木下がガンラン本人に直接聞いてしまった話か。

そうだ。

ガンランは、去っていく前に、そんなことを言っていた。


「『諜報部』の仲間たちの命が危険であるということですが、

さすがの桐生ガンラン氏も、それを実行するとなれば、無事では済みません。

それを実行すると、ほかの部署にもバレて、自分の首を絞めることになります。」


「じゃぁ、ガンランは、下手に動くことは無いということか?」


「それは、ないですね。

裏切りの情報は早く消してしまわないと、自分が不利になっていく。

・・・そう考えるでしょう。

そのままにしておくはずがありません。早急に行動するはずです。

桐生ガンラン氏が自ら動くのではなく、

『ソウルイーターズ』の仲間に指示する可能性もあります。

こちらのほうが可能性としては高いです。

国に知られることなく、自分の手を汚さず、『諜報部』だけを始末する・・・。

やはり危険であることは間違いないと言えます。」


ペリコ君は、淡々とそう告げる。

やっぱり危険だな、あの男は。

いや、例の組織が存在している限り、安全とは言えない。


「なので、このことは早急に『諜報部』へと報告しなければなりません。

問題は、手紙や速達では間に合わないので・・・

『諜報部』へ報告するために、私が

ある場所まで行かなければならないということです。」


「ある場所?」


「・・・場所のことは聞かないでいただけると助かります。」


ペリコ君が静かにそう言った。

言えない・・・ということは、

『ハージェス公国』にとっての機密事項か。

『スパイ』だけの秘密の場所だろうか?

そこに、なにがあるのか・・・知る由もないか。


「その離れている間、ユンム様の見守りが出来なくなり、

また、報告後に、見守り役に戻るためにも、

ユンム様を見つけなければなりません。」


「わ、私は大丈夫ですよ?

見張り役がいなくても立派に・・・ひっ!」


木下が、何か言おうとしていたが、ペリコ君が無言で木下を見た。

木下が言葉を詰まらせ、息をのむ。

・・・無言の圧力がすごいな。


「立派に・・・なんですか?」


「・・・いえ、なんでもありません。」


木下がすっかり委縮して、うつむいている。

暗くて分からないが、あいつ、泣くかもしれないな。

無言のペリコ君の言いたいことは分かる。

「誰のせいで、こういう事態に陥っているのか?」と言いたいのだろう。

木下も自覚があるから、何も言えまい。


「ふぅ・・・落ち込まれることはありません。

この事態を招いたのは、私の弱さです。

桐生ガンラン氏が、あれほど腕を上げているとは・・・不覚でした。」


「・・・。」


今度は、ペリコ君がうつむく。

木下の落ち込む様子を見て、責め過ぎたと反省したのか。

そして、自責している。

こいつも、根はマジメで、優しい性格なのだろうな。


「そこで・・・本来、こんなことを他国の者に

お願いするなど、前代未聞ではありますが・・・。

佐藤様に、恥を忍んでお願いがあります。」


「お、おう? な、なんだ?」


ペリコ君が顔を上げて、オレを見つめてくる。

何を言ってくるつもりだ? 身構えてしまうな。

そして、改めて顔を見ると、やっぱり

『ソール王国』でお茶を運んでくれていた金山君本人にしか見えない。


「私が見守り役を離れている間、ユンム様をお守りしていただきたいのです。

そして、この先の隣国『ソウガ帝国』で、私に合流する機会を与えてください。

お願いいたします。」


そう言って、ペリコ君が頭を下げた。

木下の身を案じてのお願いだろう。

オレとしては、特別なお願いでもない。

今までも木下を守ってやっているつもりだったから。


「頼まれなくとも、ユンムは、

『ソール王国』でいっしょに『特命』を受けた者同士であり、

ともに旅をするパーティーの一員だからな。

今まで通り、守っていくさ。」


「ありがとうございます。」


「よろしくお願いいたします。」


オレがそう答えると、木下とペリコ君が礼を言った。

ペリコ君が礼を言いながら顔を上げた。

作り笑顔だった・・・オレがこう答えることも想定内ということか。


「それより・・・

ここから東の国は『ソウガ帝国』なのか?」


地理に疎いというか、母国の『ソール王国』以外は、

興味が無いから他国のことは分からない。


「はい。と言っても、この国に隣接している東の国は

『ソウガ』だけではありません。

ここから南東には『スクピドトポス国』という国がありますが、

国のあちこちで内乱が起きています。

元々、法がとても緩く、治安がとても悪い上に、

『諜報部』からの情報によれば、去年あたりから、

この国の海賊たちが少なからず『スクピドトポス国』へ流れていったので、

陸も海も危険な状態です。

ですから、ここから北東に位置する『ソウガ帝国』を通っていく道のりを選びます。」


何も知らないオレに、さっきまで委縮していた木下がそう教えてくれた。


「内乱か。物騒な国だな。

では、その『ソウガ』のほうは治安がいいのか?」


「・・・良いとは言い切れません。

帝国の圧政により、民衆が不満を抱え、各地で抵抗運動が繰り広げられていて・・・

いつ内乱へ発展するとも限りませんが、

とりあえず、今は争いが起こっていないため、

ユンム様たちが通過する間だけなら、問題は起きないかと。」


今度は、ペリコ君がそう説明してくれた。

聞いているだけでは分からないが、どの国も大変そうだな。

オレたちが通り抜ける間に、

何も起こらないことを祈るしかないか。


「合流地点は、『ソウガ帝国』の南西にある『クリスタ』という町にある

宿屋『リュンクス』にさせていただきます。

私が報告を済ませて、再び合流するまでに、

余裕をもって想定すると、1週間かかると思われます。

ユンム様たちが、ここから『ソウガ帝国』を目指して、

その宿屋へ到着する日数も、余裕をもって想定すれば、

それぐらいで到着できるでしょう。

もし、早めに到着された場合は、足止めして申し訳ないのですが、

約束の日数が過ぎるまで、そこで滞在してほしいのです。」


なんだか覚えることがいっぱいある気がするが、


「明日から7日後に、

その宿屋へ辿り着いていればいいわけだな。分かった。」


オレは、即答した。

まぁ、難しい段取りは、木下が分かっているだろう。


「そして、約束してください。

もしも、約束の日数が過ぎても、その宿屋に私が現れなかった場合・・・

それ以上、そこで待つ必要はありませんので、出発してください。」


「ペリコさん・・・。」


「・・・。」


ペリコ君は、覚悟をしている目だ。

いや、『スパイ』という職業柄、いつでも覚悟は出来ているのだろう。

『ハージェス公国』へ早く情報を知らせる方法が

どんなものかは分からないが、

それが出来る秘密の、特定の場所があったとしても、

その場所は、同じく『スパイ』であるガンランにも知られている場所かもしれない。

となれば・・・情報を知らせないようにガンランが妨害してくる可能性がある。

ペリコ君の実力は計り知れないが、ガンランには敵わないのだろう。

しかも、今は片腕を失っているペリコ君だ。

戦力半減、いや、それ以下かもしれない。

次に、ガンランと遭遇したら・・・命はないか。


「分かった。約束しよう。」


「・・・ありがとうございます。」


オレは、そう答えるしかなかった。

木下も心配そうな顔をしているようだが、

引き留めることが出来ないだろう。

ペリコ君の無事を祈るしかない。


少し重い空気になったところで、


「それでは、佐藤様との話し合いは以上で終わりです。

夜分遅くに失礼いたしました。

これからも、よろしくお願い致します。」


ペリコ君は、軽くお辞儀して、そう告げた。

無駄がないというか、最後まで淡々としているやつだな。


「では、参りましょうか、ユンム様。」


「はい。あ、でも、もう夜も遅いですし、

私は、ここで寝て行っても・・・。」


「ユンム様?」


木下が、変なことを言いかけていたが、

ペリコ君の圧力がかかった。


「いえ、なんでもありません・・・。

うぅ・・・おじ様、おやすみなさい。」


「あぁ、おやすみ。」


ペリコ君の圧力に負けて、部屋から出ていく木下。


「ペリコ君も、おやすみ。」


最後に部屋を出て行こうとしているペリコ君に、

そう声をかけたのだが・・・


「そう言えば、佐藤様は、

たまに朝の歯磨きを怠ってしまうようですね?」


「え?」


なにを言い出すんだ、こいつは!?


「朝の挨拶をした時に、佐藤様が、

とんでもない口臭を放っている日があると、姉から聞き及んでおりました。

そんな日は、あえて渋いお茶をお出しして、

口臭を消して差し上げていたそうです。

寝る前と、起きた後は、必ず歯磨きをしていただくようにと・・・

特に、晩酌をした日は必ず、そうするようにと・・・

姉からの伝言でございます。

それでは、おやすみなさいませ。」


「・・・。」


そう言い残して、音もなくドアを閉めて、部屋を出ていった。


か・・・金山君・・・そんなことを思っていたのか。

そんな、しょうもないことを妹に伝言させるとは・・・。

くそっ! ・・・とても恥ずかしい!


金山君ーーーーー!!!





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