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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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双子の見張り役



一瞬で、頭の中が混乱した!


「な、なぜ!? お前が!? 金山君が!? ここに!?」


「少し声が大きくなってきてますよ、おじ様。」


木下が、オレをなだめるように注意してきたが、

オレの頭の中は、それどころではない。


「慌てないで、落ち着いてください。

今、ゆっくりご説明いたしますから。」


人影が、優しい口調で、そう伝えてきた。

暗くて分かりづらいが、

服装は『ソール王国』の事務員のものではないようだ。

髪型は、後ろで縛っているのか・・・。

しかし、その声といい、口調といい・・・金山君だ!


「か、金山君が、ここにいるということは、

お、お前も『ハージェス公国』の『スパイ』だったのか!?」


「まずは、自己紹介をさせてください。

私の名前は・・・金山ペリコです。

『ハージェス公国』、外務大臣のご息女・ユンム様の見守り役をしております。」


そう名乗った人影・・・金山君は、また丁寧にお辞儀した。

金山・・・ペリコ?

金山君の下の名前を、よく覚えていなかったが、

そんな名前だっただろうか?


「『ソール王国』では、姉のカナリが、お世話になっておりました。」


「いや、こちらこそ・・・って、あ、姉!?」


そうだ、カナリだ!

金山君は、カナリという名前だった!

つまり、目の前の金山君は金山君じゃない!?


「おじ様、声を抑えてください。」


「す、すまん・・・あまりにも突然で・・・。」


木下に注意されて、オレは口を手で抑えながら小声で答えた。


「『ソール王国』に、現在も事務員として働いているのは、

私の双子の姉です。

このように、驚かせるような真似をして申し訳ありません。

佐藤様だけに私の正体を明かすとなると、

どうしても、このような遅い時間に直接会うしかなかったもので。」


金山君が申し訳なさそうに、そう言った。

いや、金山君じゃないんだったな。

しかし、金山君にしか見えない・・・。


「そ、そうか。シホたちにも話せればいいのだが、

事情が事情だけに誰にでも話せるわけでもないしな・・・。」


「本来なら、佐藤様にもお話していい事情では

なかったのですが・・・ね。」


「うぅ・・・。」


金山君がトゲのある言葉を、さらりと木下に言って、

木下が、申し訳なさそうに、うつむく。

その様子からして、木下がオレへ『スパイ』任務のことを

ベラベラと喋り過ぎてしまったことを、知っているようだ。

それは、つまり・・・『スパイ』としては大失態のはずだ。


「・・・もし、ユンムが大臣の娘じゃなかったら、

オレともども消していたのか?」


「!」


オレは、この際、気になっていたことを聞いてみた。

『見張り役』ということは、そういう後始末も兼ねているのではないか?


木下が単身で『ソール王国』へ『スパイ』として潜入していたなら、

失敗したところで、遠く離れている『ハージェス公国』に伝わるのは遅いだろうし、

すぐには、木下をどうこうできないだろう。

しかし、木下の見張り役が2人もいたのなら、話は別だ。

木下の失敗は、即座にバレていただろうし、

オレや小野寺に情報が漏れてしまったことも、すぐに伝わっていたはず。

ならば・・・それ以上の情報漏洩を阻止するべく『スパイ』として、

木下を始め、オレと小野寺の口封じをしてくるのではないだろうか?

しかし、今の今まで、この見張り役は何も仕掛けてこなかった・・・。

木下が大臣の娘だったからか・・・何かほかに意図があったはずだ。


オレの問いに、木下の方が驚いていたが、


「さて、どうでしょう?

『ソール王国』出身者は、みんな、他国の者たちよりも

屈強な者たちのようですから・・・

そんな簡単な話では済まなかったと思います。

それに、仮定の話は、あくまでも空想ですので、

現在と違う未来の話をしても、意味がありません。」


何やら小難しいことを言われたが、

金山君からは、どちらともとれる答えしか返ってこなかった。

暗くて分かりづらいが表情一つ変わらなかった。

口封じすることによって、国同士の戦争に発展するのを恐れたか?

たしかに、現在、オレは襲われていないのだから、

「もしも」の話をしても意味はないか・・・。

でも、否定はしなかった・・・な。


「ふぅぅ・・・。」


オレは、深く息を吐いた。

今の会話によって、少し頭の中の混乱がおさまって

冷静さを取り戻せた気がする。

そういえば、いつの間にか頭に残っていた眠気も吹き飛んでいた。


「・・・か、確認させてほしいのだが、

つまり、『ソール王国』にいた金山君は、

あー、どっちも金山君だったか・・・。

えっと、カナリ君は、あんたの姉で、えっと・・・?」


「私は、妹のペリコです。」


「そうか、ペリコ君は妹で・・・。

えーっと、つまり、2人とも『ハージェス公国』出身者だったわけか?」


「その通りです。

姉も私も『ハージェス公国』出身者で、

2人ともユンム様の見守り役でした。」


驚いた。

いや、驚きはしたが、さきほどよりは冷静に話を聞けた。

そして、なんとなく、妙に、腑に落ちる感覚もあった。


城門で働いていた金山君が、『ハージェス公国』出身者だったとは・・・。

たしか、違う国の出身者であることは聞いていた気がするが、

『ハージェス公国』とは違う国名だったはず。

あれも『スパイ』任務のための、ウソだったわけか。

金山君は、木下よりも先に、長く『ソール王国』で働いていた気がするが、

大臣の娘を見張るために、先にわが国へ潜入していたのか。

そういえば、他人の気配を察する能力には、そこそこ自信があったオレだが、

金山君は、時々、いつの間にかオレの背後にいたり、

いつの間にか近くの給湯室で、こちらの話を聞かれていることがあった。

なるほど・・・気配を消せるほどの実力ある『スパイ』だったわけか。

普段の態度や様子からは、そんな素振りも見せなかったから、

オレは、いや、オレたちはすっかり騙されていたわけだな・・・。


「金山・・・カナリ君は、今、現在も

『ソール王国』に残っているようだが、理由はなんだ?」


「ユンム様と同時に姉が『ソール王国』を去るのは不自然すぎるので。

姉は、もうしばらく、あの国で働いてから、円満に退職する予定です。

ご心配なさらずとも、姉はきちんと事務の業務を全うしますので。」


オレの問いに、すかさず答えてくる金山君・・・いや、ペリコ君。

暗くて、はっきり表情が分からないが、さっきから笑顔を崩していない。

あれは出会った頃の木下と同じく、作り笑顔なのだろうな。

そして、あらかじめ答えが用意されていた・・・そんな印象を受ける。


おそらく、木下が探れなかった情報を、

あっちの金山君が『ソール王国』に残って探しているのかもしれない。

それとも・・・まさか、小野寺の口封じを狙っているわけではないだろうな?

いや、考え過ぎか。

小野寺が木下のことを喋ってしまわないように見張っている・・・のか?

あー・・・小野寺に知らせてやりたい。


しかし、木下と違って、目の前のペリコ君は、

オレがこれ以上、突っ込んで聞いても、正直に話してくれそうにない。

あの作り笑顔が物語っている。


「・・・それもそうだな。

あっちの金山君は、とてもマジメで優秀な事務員だった。

『ソール王国』としても、急に金山君に辞められては困るからな。

円満に退職するために残ってくれたのは、こちらとしてもありがたい。」


「!・・・そう言っていただけると、きっと姉も喜びます。」


オレの反応が予想外だったのか、

一瞬、妙な間があったが、目の前の金山君・・・ペリコ君は、

声色を変えずに、そう答えた。


「では、軽く自己紹介も済みましたので、

ここからは、私のほうから簡潔に順を追ってご説明いたします。」


ペリコ君が、そう言って説明を始めた。


「先ほど、ユンム様がおしゃっていた、ユンム様の居場所を示す

魔道具『血判跡』は、外務大臣から分けていただき、

見張り役の姉と私が持っておりました。

もちろん、先ほどもユンム様がおっしゃったように、

分けた魔道具は小さく、耐久力も弱いため、『もしも』の時にしか使えません。

ですから、姉も私も、誰にも奪われぬように肌身離さず携帯し、

この旅でユンム様の後を追っている間も、決して使うことはありませんでした。」


「ちょっ、ちょっと待ってくれ。

かな、ペリコ君は、ずっとオレたちを尾行していたのか?」


「はい。・・・あぁ、そういうことですか。

事前に、佐藤様の、気配を察する能力が及ぶ範囲を

姉の方から聞いていたので、しっかりと、その距離を保ちながら、

気配を消して、ここまで、ずっと後をつけさせていただきました。」


「なっ・・・!」


オレの質問の意図を、すぐに察してペリコ君が、そう答えた。

なんということだ!

尾行されていることに、今の今まで、全く気付かなかった!

しかし、言われてみれば、そうか。

こいつは木下の見張り役・・・。ずっと木下を見張っていたわけか。

こうして、いつの間にか部屋へ侵入されていたぐらいだから、

オレが気づけるはずもない。


「じゃ、じゃあ、あの『レッサー王国』の時や、

『レスカテ』の時にも、ペリコ君は・・・。」


「えぇ、だいたいユンム様が見える範囲に

私はいましたが・・・質問はあとにしてもらえますか?

先に、『血判跡』についてのお話を終わらせますので。」


「す、すまん・・・。続けてくれ。」


信じられない。

『レッサー王国』での野盗たちとの戦闘の時も、

『レスカテ』のバンパイアとの戦闘の時も、

こいつは、しっかり見ていたというのか・・・!

助けてくれてもよかったのに・・・。

いや、木下は、こいつのことを『見張り役』と言ったが、

こいつは、自分で『見守り役』と言っていた・・・。

同じように聞こえるが、役割が違うのだろう。


「結果から言いますが、

桐生ガンラン氏に『血判跡』を奪われたのは、私です。」


「え・・・。」


「・・・。」


唐突な結果を聞かされて、言葉を失う。

木下は、先にこの結果を聞いていたのだろう。

あまり動揺している様子がなく、黙って聞いている。


「申し訳ありません。ユンム様たちの変装を見破れず、

うっかりお姿を見失って、焦っておりました。

そこへ、桐生ガンラン氏に襲われ・・・『血判跡』を奪われたのです。」


「・・・。」


あんな変装でも、『スパイ』の目を欺くことに成功していたのだな。

一瞬、こいつのせいで!と思ったが、

淡々と喋るペリコ君の、作り笑顔が、少し強張った気がした。


「・・・襲われたのか?」


「はい。不覚を取りました。」


あのガンランに襲われたわりには、ピンピンしているような気がしたが・・・

オレは、気づいてしまった。

どうやら、こいつは『スパイ』として、相当な精神力の鍛錬ができているらしい。


「その左腕は、その時に?」


「・・・おっしゃるとおりです。お恥ずかしい。」


暗い部屋の中で分かりづらかったが、

ペリコ君の体の輪郭がおかしかった。

左手の袖が、わずかにゆらゆらしているのに気づいた。


こいつ・・・左腕がない。


なのに、こいつは平然とした態度で、淡々と、

ガンランに襲われたことを報告していたのだ。


「この左腕を犠牲にして、なんとか逃げました。

そして、恥を忍んで、こうして生き延びました。」


「ううん、恥だと思わないで。ペリコさん。

あなたが生きててくれて、本当によかった。」


自分を責めるような言葉を使ったペリコ君に、

木下は、そう慰めながら、そばで突っ立っているペリコ君の

腰に抱きついた。


ほんの少し、ペリコ君の作り笑顔が緩んだ気がした。





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