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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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もう一人のスパイ




「と、とにかく!

・・・ガンラン先輩の裏切りのウワサは、本当だったということです。

このことに関しては、『諜報部』へ直ちに知らせなければなりません。

ガンラン先輩は、『諜報部』全員を手にかけるようなことを

言い残していましたから・・・。」


「知らせるって・・・どうやって知らせるんだ?」


「それは、あとで説明します。

それよりも、今は、最後まで喋らせてください。」


「わ、分かった。」


仲間に知らせる手段を、こいつは持っているのか?

手紙・・・じゃないのか?

オレと旅をしている間も? 今までも、そうだったのか?


「ガンラン先輩は、わが国の『暗殺部』に配属されながら、

『ソウルイーターズ』の仲間になっていました・・・。

そして、『暗殺部』の仕事をこなすために、各国へ出向き、

あちこちで『ソウルイーターズ』の仕事である交渉もしていた・・・。

それは、つまり・・・。」


「つまり?」


「こちらの情報が、

『ソウルイーターズ』に筒抜けだった・・・と考えるべきです。

私たちの専門用語で『ダブルスパイ』という言葉があります。

味方の『スパイ』のふりをして、敵側の『スパイ』として暗躍する者のことです。

私を始め、『諜報部』は、『ソウルイーターズ』に乗っ取られた国を調査したり、

『ソウルイーターズ』と『ソール王国』の関係性を調査するため、

密かに、各国へ散らばっていましたが・・・

その計画や動向が、ガンラン先輩によって、

すでに『ソウルイーターズ』に知られている可能性が高いです。」


「!」


なるほど・・・。

木下たちの秘密にしている任務も、同じ『スパイ』仲間には筒抜けで・・・

ガンランが『ソウルなんとか』へ情報を横流ししている可能性が高いわけか。


「そうなると・・・ガンランだけじゃなく、

その組織のやつらにも、ユンムたちのことは全て把握されているわけか。」


「そうです。私たちの居場所が分かるだけでなく、

私たちの当初の計画も、全て筒抜けだったからこそ、

ガンラン先輩は、この国で私たちを待ち伏せていた・・・。

そう考えることが出来ます。

ただ・・・いったい、いつから、そうだったのかは分かりませんが・・・。」


木下が、『ソール王国』へ来たのが数年前のことだったはずだが、

その間にガンランが裏切ったのか? それとも、もっと前から?

『諜報部』たちが、その組織を調べるために各国へ散っているという計画は

いつから、その組織に知られていたのか?

計画がバレていたなら、ガンランだけじゃなく、

ほかの仲間が刺客として、『ソール王国』に来ていた木下を

口封じすることもできたはずでは?

知っていて、そのまま泳がされていたというのか?


「その組織のやつらが、今まで接触してこなかったのが不気味だな。」


「はい、そうですね・・・。

私が離れている間に『ハージェス公国』で、

何も起こっていなければいいのですが・・・。」


木下が、不安そうな声で言った。

きっと親のことが心配なのだろうな。


「ユンムの居場所が分かるっていう魔道具に関しては?

あれも本当のことなのか?」


「はい。一部は本当のことです。」


「一部? い、一部というのは?」


「『血判跡けっぱんせき』の話は本当です。

おじ様は知らなかったでしょうが、そういう希少で高値の魔道具がありまして。

ただ、決まった大きさがなく、大きい物ほど高値ですが、

国によっても値段が変動しますし、

小さい物は、案外、安く手に入る国があったりします。

効果は、みなさんに説明した通りですが、

あれは何も、王族や貴族が家族だけに使用するとは限りません。

『スパイ』や裏稼業の方々にも使われている魔道具です。」


「そ、そうなのか!?」


「はい。相手の血さえ手に入れば、

魔道具を使うのは、いつでもいいので・・・。

追跡したい相手がいる場合に有効な魔道具なのです。」


そう言いながら、木下はパジャマのズボンのポケットに

片手を入れて、ごそごそとし始め、


「これです。」


オレの目の前に、ネックレス?のような輪っかを出した。

ただ、真っ暗なので、よく見えない。


「さ、触ってもいいのか?」


「いいですけど、石の部分は、あまり触らないでください。

とても繊細なので、おじ様のチカラだと壊れてしまうかもしれません。」


木下にそう言われて、慎重に受け取った。

輪っかの部分は、普通のヒモ?のようだ。

そして、そのヒモに、小指ほどの大きさの石がぶら下がっている。

暗くて色までは分からないが、


「まるで、ネックレスのようだな。」


「その通り、ネックレスですよ。

本と同じくらいの大きさの『血判跡』を、小さく割って、

『諜報部』のメンバーに分けたものです。

石は粉々にしない限り機能するので、加工して、いろんな形にできます。

そうすることで、それが魔道具だと知られないようにするんです。」


「なるほど・・・。」


オレが魔道具系に疎いだけなんだろうな。

すべて初耳だが、もしかしたら『ソール王国』でも

魔道具屋で売られていたのかもしれないし、

こんなネックレスなどに加工されていたら、

一般の装飾品と見分けがつかない。

オレが気づかなかっただけで、いつの間にか、

この魔道具を見たことがあったのかもしれない。


オレは、そっとネックレスを木下に返しながら、


「これは、すでに誰かの血を吸わせてあるのか?」


「はい。暗くて確認できないと思いますが。

最初は赤い『血判跡』に、血を吸わせると真っ黒になるんです。

なので、これは今、真っ黒な石になってます。

この『血判跡』には、私のお母様の血が使われています。

もしもの時には、この『血判跡』に、自分の魔力を流すことによって、

お母様の居る場所・・・つまり、『ハージェス公国』への方向が分かるわけです。」


「なるほど。自国へ帰還する時、

方向を見失った時には便利そうだな。

ちょっと使うところを見てみたいものだが・・・。」


「それは、無理です。この『血判跡』も永久に使えるわけではありませんし、

これだけ小さい物だと耐久力も落ちてしまいます。

だから、本当に、もしもの時にしか使えません。

それに、今は・・・魔力を使えないですからね。」


そうだった。隣りの部屋のファロスに気づかれるか。


「そうか。では、逆に、

それを使わなくていい状況の方が望ましいわけだな。」


「そういうことになりますね。

これを使わざるを得ない時は、迷子になっている時でしょうから。」


木下の説明で、『血判跡』のことはよく分かった。

もしもの時には便利な魔道具だが・・・

誰かに奪われたり、悪用されれば、危険な状況に陥ってしまうわけだ。


「それと同じ物を、ガンランが持っているわけか。」


「ガンラン先輩も、他国へ出向く時には、

『ハージェス公国』の『スパイ局』局長の『血判跡』を持たされているはずです。」


なんだ、『スパイ局』局長という役職の者が他にいるのか。

てっきり木下の母親が、『スパイ学校』の校長であり、

その『スパイ』をまとめ上げている役職に就いているのだと思っていたが。


「『暗殺部』と『諜報部』では、持たされる『血判跡』が違うのか。」


「あ、そうですね。

『諜報部』を取り仕切っているのは、私のお母様ですが、

各部署ごとに仕切っている部長がいて、『血判跡』が用意されています。

『暗殺部』だけは、わが国の『スパイ局』局長直属の、

特別な部署なので、局長の『血判跡』が使われています。」


特別な部署・・・たしかに特殊だろうな。

暗殺なんて普通の部署ではないだろう。

オレにとっては『スパイ』自体、普通ではないが。


「そして、ガンランは、それとは別に、

ユンムの居場所が分かる『血判跡』を持っているというわけだな?」


「そうです。」


「元々は、ユンムの親父さんが持っていたんだろ?

それをガンランが盗んだ・・・ということか?」


「いえ、違います。」


「ん?」


「じつは、私の居場所を示す『血判跡』は・・・

ほかにも持っている人がいたのです。」


「なっ!?」


木下から、新たな真実を聞かされた直後、

いきなり、木下の背後から人影が出てきた!?


「!!」


思わず、声を上げそうになりながら、

オレは、ベッドの後ろへと転がった!

ベッドの後ろには、オレの荷物が置いてあり、そこにオレの剣がある!

すかさず、剣を手に取ったが・・・


「お、おじ様、落ち着いてください!

あまり大きな音を立てると、家の中に響きますから!」


小声で、木下が注意してきた!

これが落ち着いていられるか!

まったく気配を感じなかった!

いったい、いつから部屋の中にいたんだ!?


オレは剣を抜かずに握ったまま、人影を睨んだ。


「驚かせてしまって、ごめんなさい。

お初にお目にかかります・・・と言っても、

見た目は、見たことあると思いますが・・・。」


真っ暗な部屋の中、人影が、そう言いながら、木下の横に立った。

人影は小柄な形をしていて、女性の声だ・・・。

しかも、聞いたことあるような、誰かの声に似ている・・・。


「おじ様、この人は、私の見張り役です。」


「み、見張り役!?」


そう紹介された人影が、丁寧にお辞儀する。

敵意はないのだろう。殺気を感じない。

いや、気配も感じなかったから殺気も消せるかもしれないが・・・。


「・・・。」


木下を信じるしかないか。

オレは、剣を荷物に戻しながら、

元のベッドの位置へ移動して、座り直した。


ベッドとベッドの間には小さなテーブルがあるのだが、

ちょっと近づいただけで、人影の顔がぼんやり見えてきて・・・


「・・・はっ!?」


驚きの声をあげてしまった。

真っ暗な部屋でも、目が慣れてきたから、なんとなく分かる。


そこに立っていた顔は、

『ソール王国』の城門事務員・・・金山君だった!




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