お荷物
城門に残ったオレと小野寺。
小野寺のさっきの返事では
まだ木下は、ここを通っていないことになるが、
そろそろ約束の時間だ。
東の国境行きの大型馬車は、
一日に、そう何度も来るものではない。
早めの馬車で、
早めに国境を越えてしまいたいところだが・・・。
「まさか・・・とんずら、か?」
「まさか!」
木下をスパイだと知っているのは、
オレと小野寺だけだ。
オレの独り言に、小野寺はすぐに反応した。
「まぁ、そうなっても
オレのやることは変わらない。
むしろ、余計な『お荷物』がない分、
かなり気楽な旅になると思うがな。」
「そうですか。
では、そうなったときは・・・
木下秘書を指名手配させていただきます。」
マジメな小野寺らしい、警備の模範のような回答だ。
「ところで・・・
『通行許可帳』で、なにか分かったか?」
小野寺に調べるように頼んでいた件だ。
「いえ、なにも。
定期的に通行している業者が数名いますが、
積荷も、入荷先の店も、特に怪しい点が
見つかりませんでした。」
「手がかり無し、か。」
木下が白状した言葉だけが証拠か。
「余計な詮索はしない約束になっているが、
木下の動きは常に監視してみる。
なにか不審な動きや証拠、
わが国が不利になりそうな事が発覚すれば、
そのときは・・・約束を破ってでも捕縛する。」
「佐藤隊長・・・。」
小野寺は、オレが木下を
完全に信頼していると思っていたのだろう。
信頼はしたいが・・・
オレは、この国は守りたい。
数十年、守り続けた、この国を・・・。
そうこうしている内に、
遠くから、こちらへ歩いてくる
女性の姿を発見した。木下だ。
しかし・・・
「・・・なんだ、あれは・・・。」
「さぁ・・・。」
オレと小野寺は、唖然としてしまった。
木下の姿は、王宮で着ているドレスと同じで、
そして、ありえない量の荷物を
引きずって来たのだ。
屋台の荷車ほどの大きな荷物を・・・。
「ふぅ・・・おはようございます!」
木下が、ひと仕事終えたような
溜息をついて、挨拶してきた。
「お・・・」
「お?」
「お前は、なにを考えているんだーーー!!!」
オレの怒号が城門前に響いた。
こいつは、本当の『お荷物』らしい。




