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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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静かな宴




オレたちが食べ始めてから、数分後ぐらいに

村長と、年老いた男が部屋へ入ってきた。


「おぅ、シホ。もう宴は始めてるか!?」


「やっと来たか、シャンディー! もう始めてるぜ!」


村長の問いかけに、友達のように答えるシホ。

宴とは・・・ただ食べるだけなのか。

オレとしては、もう少し大人の飲み物が・・・酒が欲しいところだが。

これだけの料理を用意してもらっているから贅沢は言えない。


「ほほぅ、これは豪勢じゃな。」


年老いた男が上機嫌で、そう言いながら、

オレの隣りに座って、さっそく料理に手を出している。

村長は、酒ではない飲み物を自分のコップに注いでいる。


「さて、宴だ、宴! 堅っ苦しいのは抜きだ!

『シラナミ』様を討伐した俺たちの偉業を祝えー!

あっはっはっはー!」


「おー! いいぞ、シャンディー! 祝えー!」


村長が、酔っぱらっているのかと思うほどに

テンションをあげて、そう宣言した。

一応、村長としての、宴を始める挨拶だったのだろう。

シホも酔っぱらっていないが、陽気に応えている。


しかし・・・


「?」


ここにいるのは、オレたち5人と、村長と、年老いた男だけだ。

宴というからには、さきほどの老婆たちなど、

村人が大勢集まってやるものと思っていたが・・・。

実際、広い部屋だから、30人以上集まっても余裕だと思うが・・・。


もしかして・・・


「あの、ほかの村の方々は、もしかして・・・?」


木下が、村長に尋ねた。


「あぁ、お前たちには関係ないことだ。気にするな。」


村長は、そう答えたが


「なんだよ?」


シホのやつが気になったようだ。


「もしかして・・・みんな、おっさんのことを嫌ってるからか?」


「え!?」


シホの予想が的外れで、ニュシェが驚いている。

いや、的外れでもないか。

実際、オレを嫌っている村人が多いだろうから、

こっちに顔を出さないというのも、うなづける。

しかし、おそらく、それだけの理由ではない・・・。


「まぁ、そんなとこだ。

おっさん、お前は相当、みんなに嫌われてるな!

はっはっはー!」


村長は、本当の理由をしゃべる気がないのか、

シホの予想を肯定する返事をして笑った。


「・・・。」


ニュシェが、あからさまに暗い表情になった。

どうやらシホや村長の言ったことを真に受けているらしい。

自分のことではないのに、優しいやつだな。


ニュシェの右隣りに座っている木下が、それに気づいて、

ニュシェの頭を撫でてやっている。


「まぁ、当然の結果だから、仕方ない。

オレが逆の立場なら、やはりそういう感情を抱くだろうからな。」


立場が違えば、オレもそうだ。

仲間を殺した相手と、宴を開くなど・・・。

きっと、この宴のせいで

村人たちからの村長への風当たりも強かったのではないだろうか。


「さすが、よく分かってるじゃねぇか、おっさん。

この際だから言わせてもらえば、俺もおっさんは好きじゃねぇ。

でも、俺たちが『シラナミ』様を討伐できたのは、

あの地下牢で、おっさんが賭けを持ちかけてくれたからだ。

あれがなければ、間違いなく、俺たち『オルカ一族』は、

今朝の時点で、全滅していた・・・そこだけは、感謝してる。」


「んぐ・・・ぷはぁ、強運の持ち主じゃな、お前は。」


村長が真面目な表情で、軽く頭を下げた。

普通、恩を感じていても、

仲間を殺した相手に頭を下げるなんて、なかなかできるものじゃない。

権力を振りかざすだけのリーダーは、よく見かけるが、

この村長は、偉そうにしているだけのリーダーではないようだ。

オレも軽く頭を下げた。


それにしても、年老いた男は、

この場にある飲み物を飲んでおらず、自分の水筒の飲み物を飲んでいる。

あれ、絶対、酒だろ・・・うらやましい。


「まぁ、この宴はそういう意味も含めてるってことだ。

湿った話は、これで終わりだ! 全部食べてくれ!」


「よし、食べよう!」


村長が、照れ隠しのように話を切り上げて食べ始めた。

それに応じて、シホもいっしょになって食べる。

オレも、遠慮なく、食事を再開した。

木下も、ニュシェといっしょに食べ始めた。

ファロスは、決して楽しそうに食べる感じではないが、

自分のペースで食べている。




今日一日で、壮絶な出来事が立て続けて起きたわけだが、

この村は、今朝、長谷川さんによって、全滅しかけたのだ・・・。

『伝説の海獣』を討伐できた快挙は、とても喜ばしいことだけど、

それで、今朝の凄惨な出来事が無かったことになるわけではない・・・。


おそらく、今夜は、村全体で、葬儀を執り行っているはずだ・・・。


国や地域によって、死者を弔う儀式の形式は違うだろうが、

どこの国でも、死者が出れば弔うものだ。

村長たちは、この宴の前に、その葬儀に顔を出してきたのだろう。

そして、オレたちがいなければ、宴など開かず、

今夜は葬儀だけで終わっていたはずだ。

この村に、いったい何人が暮らしていたのかは知らないが、

その村人たちが、家族たちが、たった一日で、全滅寸前に追い込まれたのだ。

本来は、宴どころではない・・・批判の声もあっただろうに・・・。


それでも、宴を開いた理由は、

木下に、ガンランの詳しい話を聞くためか・・・。


強引に木下を引っ張ってきて、強引に話を聞き出すような

やり方は、海賊たちなら出来たはずだが・・・

それをしなかったのは、木下が女だからか。

この村では、女性に暴力を振るうことは禁止されているらしいからな。

宴は、さりげなく、木下を村へ連れて帰るための口実だったのかもしれない。

それと・・・シホの存在も、村長の中では大きいのか。

この短期間で、どれほどの関係が

築けているのかは分からないが、少なくとも

2人を見ていると、まるで友達のような関係に見える。

そんなシホを、捕虜のように捕らえることはしないだろうし、

シホの仲間である木下やオレに対しても、そうそう手を出せない・・・

そんなところか。


「しかし、本当に強いんだな、おっさんは。

シホの言う通りだったな。」


「だろ~?

なんたって、うちのパーティーの『殺戮グマ』だからな!」


「船の上で飛び回っている姿を見る限りでは、

『クマ』っていうより『サル』って感じだったな!」


「あはは! たしかに!」


シホと村長が笑い合って、オレをコケにしている。

そんなシホたちの会話を聞きながら、

ニュシェといっしょに、美味しそうな料理を食べている木下。


さて、このあと、

木下は、どんな話をするつもりなのだろうか・・・。






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