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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
334/502

かなづち




オレが風呂からあがると、年老いた男の案内で、

オレとファロスは、また村長の家へと歩いた。


陽はすっかり落ちて、外は真っ暗になっていた。


村長の家へ入り、最初に案内された部屋へ戻ったら、

そこで、木下たちがくつろいでいた。

木下たちは、例の『水着』ではなく、すでに元の格好に戻っていた。

風呂に入ってから着替えたのだろう。

あのガンランに、変装がバレていたわけだから、

もうオレたちが変装する必要はなくなったわけだ。


「あ、おじ様。やっとキレイになりましたね。」


「あぁ、この・・・じいさんのおかげだ。

いい風呂だったぞ。」


木下に声をかけられて、そう答えた。


「お前らも、さっぱりしたようだな。」


「うん、すっごく広いお風呂だったよ!

あんなの、初めて!」


「だよな! 宿屋の『熱泉』と同じくらい広いよな!」


ニュシェとシホが、興奮しながら答えてくれる。

村長の家の風呂は、そんなに広いのか。

さすが、海賊の長ともなると、そういうところにお金をかけるんだな。


ニュシェは宿屋の『熱泉』に入れなかったから、

きっと嬉しかっただろう。


「2人とも、お風呂ではしゃいで大変でしたけどね・・・。」


木下が、ぼそっと愚痴をこぼした。

・・・ニュシェとシホが裸のまま、

広い風呂場ではしゃいで、それを注意する木下・・・

なんとなく、容易に想像できる。


「ところで・・・。」


この部屋に、村長の姿はなかった。

オレが、探すようにキョロキョロしたので


「あぁ、シャンディーは用事があって、後で来るってよ。

先に宴を始めててくれって言ってたぜ。」


「そうなのか。」


シホが、そう教えてくれた。


「・・・わしも、用があって、後でここへ来るからの。

食事は、もうじきイルばぁたちが運んできてくれるじゃろうから、

お前たちは、ここで待っておれ。」


年老いた男が、そう言って、部屋を出ていった。


「・・・。」


年老いた男が出て行ってから、なんとなく

この場にいる全員が無言になった。

その原因となっている人物に、視線を送る。


「・・・。」


ファロスだ。

うつろな目。生気のない表情。

そういう精神状態になっている原因も、

この場にいる全員が知っていることだから、誰も話しかけられないでいる。

いつもなら気さくに話しかけるシホですら黙ってしまうぐらいだ。


この部屋には、大きな四角いテーブルが中央に置いてあり、

その周りに、たくさんのイスが並んでいる。

食堂みたいな部屋だ。

村長が宴を開くと言っていたぐらいだから、

実際、この部屋はこの家の食堂なのかもしれない。

木下たちは、並んでイスに座っている。

何かの施設ではなく、一般の家の中に食堂の部屋があるなんて、

金持ちの家と同じだな。


「立っているのも、なんだ。座るか、ファロス殿。」


「・・・はい。」


オレが、そう促すと、静かに返事をするファロス。

オレは、木下たちの対面に位置するイスに座った。

ファロスが、オレの隣りに座る。


そして、


「・・・。」


また沈黙・・・。


「それにしても、まさか、おっさんが泳げないとはなぁ!」


「んなっ!?」


その沈黙を破ったのは、シホだった。

たしかに、この沈黙を破るには、

ファロス以外の誰かに話を振るのが得策だろう。

そして、この中ではオレをいじるのが妥当だと思うが、

まさか、そのことについて触れてくるとは・・・!

無様に溺れてしまった自分を思い出して、途端に恥ずかしくなった。


「私も驚きました。

おじ様は、優れた運動能力だけが取り柄だと思っていたので、

まさか、泳げないなんて・・・。」


「ぅぐっ!」


シホの話に、木下まで乗ってきやがった!

しかも、木下の言う通りだったので、ぐぅの音も出ない。


「あたしも、泳いだこと無いから泳げないと思う。

だから、おじさんといっしょだね。」


「ニュシェ・・・。」


ニュシェが、そんなふうに慰めてくれた。

なんとも、ありがたいやら、情けないやら。

自分の村から出たことがなかったニュシェが泳げないのは分かるが、

オレは・・・。

『ソール王国』に海はないが、小さな川はある。

たしか、戦闘訓練の時に入って・・・

しかし、泳ぐほどの深さではなく、ひざぐらいの水位だったから・・・。

オレも泳いだ経験がなかったのだ。


「オレは・・・海がない国で育ったからな。

自分でも泳げないことに気づいてなかったんだ。」


オレが、そう言うと


「あれ? 『ハージェス公国』って、海が無いんだっけ?」


「え!? いや!? んん!?」


シホが、そんなことを言い出したので、

オレは、思い切り動揺してしまった!

た、たしか『ハージェス公国』も海が無いと、木下が言っていたはずだ!

『ソール王国』も海が無いから、辻褄が合うと記憶していたのに!


「おじ様、ボケるには早すぎますよ?

『ハージェス公国』は海に面してませんよ。

シホさんが思い違いしているだけです。」


すかさず、木下が助けてくれた。

木下の・・・オレを見る目がちょっと怖い。


「お、おぉ、すまん!

シホのボケにつられてしまった! はははっ・・・。」


シホの天然ボケめ!

オレは慌てて、苦笑いしながら、そう返した。

背中に、イヤな汗をかいた。


「おいおい、俺をボケ扱いするなよ。

まぁ、実際、うろ覚えだったけどな。

さすがのおっさんも、泳ぐ環境が無かったら、泳げないものなんだな。

海がない国で育ったってことは、ユンムさんも泳げないのか?」


「いえ、私は他国の海へ行って、泳いだことがありますよ。

おじ様といっしょにしないでください。」


シホは、お茶目そうな表情で、

オレからのトゲある言葉をうまくかわしながら、

木下へと話を振っていた。


パーティーの仲間なのに、こうして油断せずに

会話しなければならないとは・・・。

しかし、これは必然なのだ。

オレたちの『特命』と、木下の母国の話は、他人に知られてはいけない。


オレは、木下を見ていた。


「今宵の宴で知っていることを話してもらう」と村長は木下に言っていた。

木下も「話します」と答えていた。


・・・いったい、何を話すつもりなんだろう?

ガンランの正体だけか? それだけで話は終われるのか?

国のことを聞かれたら、正直に話すのか?

それとも、新たなウソをつくのか?


いずれにしても、木下の話は、オレ自身にも関係がある。

ウソの設定では、オレと木下が同じ母国で親戚関係だからだ。

今のように、その場でウソの話を繰り広げられても、

オレの能力では話についていけなくなる。


ウソというのは、必ず、いつかボロが出る。絶対、ばれる。


オレはバカだし、いつもそう思っているから、

なるべくウソはつかないようにして生きてきた。

この『特命』の旅に出てからは、

この任務を隠さねばならないせいで、本当に苦労している。

木下がいなければ、とっくに『特命』のことなんて、

オレの口からポロっと他人に言ってしまっていただろう。


だから、木下には感謝しているが・・・

今回も木下に任せっぱなしでいいのだろうか?


村長たちとの宴が・・・とても不安だ。






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