冤家路窄(えんかろさく)
「ガ、ガンラン・・・先輩・・・!」
木下が青ざめていた理由が分かり、
オレたちも青ざめることになった。
小船を操縦していたのは、あのガンランだったのだ。
「な、なぜ、ここに!?」
シホが、力なく、そう言った。
オレたちは変装して、あの町を出たのに・・・。
いったい、いつ、バレたのだろうか?
それとも、最初からバレていたのか?
シホは自分の作戦に自信を持っていたから、
余計にショックが大きいようだ。
「あー・・・あははっ! いいね、あんたら!
そんな格好で、俺を誘惑してるのか? あはは!
特に、ユンムの、その姿は・・・そそられるなぁ~!」
「くっ!」
ガンランが笑いながら、そう言った。
木下とシホは、すぐに顔を赤らめながら
お互いの体を隠すように抱き締め合った。
ニュシェは・・・ガンランの言っている意味が分からなかったようだ。
恥ずかしがる様子がない。それはそれで問題なのだが・・・。
今は、それどころではない。
「おいおい、またお前らの知り合いなのか!?
ここまでくると、お前らが黒幕じゃないかって思えてくるな!」
村長が冗談ぽく、オレたちに向かってそう言った。
いや、実際、疑われても仕方ない状況だ。
こんなところへ、オレたちの知っている人物が現れたら、
疑うしかないだろう。
しかし、村長の口調からすると、本気でそう思っていないようだ。
「ち、違う! こいつは、オレたちの敵だ!」
オレは村長の誤解を解くために、そう言った。
「あー・・・いきなり敵対宣言かぁ。まぁ、そうだよなぁ?
あんたらは、俺の目を欺くために、そんな破廉恥な格好して、
こっそりと町を出て行ったんだもんなぁ?」
「・・・!」
ガンランの言葉を聞いて、背筋に寒気がした。
こいつ・・・全て、知っている!?
もしかして、初めから尾行されていたのか!?
「どうして・・・!?」
「どうして分かるのか? どうしてだろうなぁ? ユンム~?」
「っ!」
オレの問いに、挑発だと分かる言葉を使う、ガンラン。
あの言い方は・・・木下なら、分かっているという意味か?
裏稼業の情報屋が、ガンランにオレたちの情報を流した・・・。
木下は、そんな予想っぽいことを言っていたが、
それも真実かどうか分からない。
もしかして、『スパイ』同士で、いつの間にか情報のやり取りをしていたのか?
いや、そんな素振りは無かったはず・・・有り得ない。
「・・・。」
木下は、黙っている。
黙って、ガンランを睨んでいる。
今は、木下を疑っている場合ではないな。
それこそ、仲間割れさせるのがガンランの策略だろう。
ガキィン! キキン! キィン!
「ファ、ファロス! ま、待て・・・!」
まだ闘い続けている長谷川さんたち。
また、長谷川さんがファロスに制止を求めたが、
「はぁ、はぁ! 待てば、
その刀を拙者に渡してくれるのか!? 父上!」
「そ、それは・・・出来かねる・・・!」
「はぁ! はぁ! ならば、待てぬ!! はっ!」
ギィン! カカン!
一瞬だけ止まったファロスの攻撃が再び始まった。
もはや、長谷川さんが、あの武器を手放さない限り、
ファロスの攻撃が止まることは無さそうだ。
・・・いや、もうひとつ止める方法がある。
それは、長谷川さんがファロスに勝つことだ。
「あー・・・そこにいるのは、『ロンマオ』の大将じゃないかぁ。
あ、今は、大将じゃないんだっけ?
あははっ! ・・・まぁ、ここに来るのは分かってたけどね。
遠路はるばる、仇討ちとは泣けてくるねぇ。
一度、負けたのに、ノコノコ来るなんて・・・あははは!」
「・・・ガ、ガンラン・・・! き、貴様ぁ・・・!」
「!?」
「なに!?」
ガンランが、長谷川さんを知っている!?
長谷川さんの、あの反応からすると、一度戦ったことがあるのか!?
ファロスのほうは、よく分かっていないような、不思議そうな顔をしてる。
ということは、長谷川さんだけがガンランを知っている?
長谷川さんが、チラチラとガンランを見て・・・睨みつけている!
ヒュン! ヒュヒュン! カキン!
長谷川さんが、ガンランに気を取られ始め、
それでもファロスの猛攻は止まらず、
徐々に、長谷川さんに余裕がなくなってきている。
ギリギリの際どい防御になってきた。
「待てよ、おい! シホ!
もしかして、シホが言ってたイケメンの敵って、こいつのことか!?」
村長が、ガンランと長谷川さんを無視してシホに話しかけた。
「その通りだ! こいつは俺たちの敵だ!」
シホがガンランを睨みながら、そう叫んだ。
どうやら、村長とともに過ごしている間に、
ガンランのことまで喋っていたようだ。
「あー・・・俺ってそんなに嫌われてるのかぁ。
ユンムから、あること無いこと、聞いちゃったのか?
ユンムは、ウソが下手なくせに、ウソつきだからなぁ?」
「・・・!」
ガンランが、へらへらとした笑みを浮かべて、
また木下を疑わせるような言葉を吐いている。
あからさま過ぎて、オレはガンランの言葉を鵜呑みにしないが、
シホなんかは、すぐに信じてしまう気がする。
「だったら、話は早い! シホの敵は俺たちの敵だ!
『シラナミ』様を倒す前に、そこのイケメンを倒す!」
村長が、そう宣言して、
後ろにいる男たちに号令を出そうとした時、
「ま、待て! やつには手を出すな! くっ!」
ヒュッ! ザシュッ!
「!!」
長谷川さんが、村長へ叫んだ時、その隙をつき、
ファロスの攻撃が、長谷川さんの右腕をかすめた!
なにを焦っているんだ? 長谷川さんは!?
「あー、そこの元・大将の言う通り、ちょっと待った方がいいよ。
今、俺を殺しちゃうと・・・俺の魔獣が暴れることになる。」
「え・・・!?」
「な、なにを言って・・・!?」
「まさか・・・!」
みんなが、ガンランの言葉に不気味さを感じている中、
木下だけが、何かを知っているかのような反応だ。
「ユンム、なにか知っているのか!?」
オレは、すぐ木下に聞いた。
とにかく、ガンランは得体が知れない敵だ。
情報が少なすぎる。だから不気味に感じて、否が応でも恐怖を感じてしまう。
情報が分かれば、対策も対処もしやすい。
「ガ、ガンラン先輩は・・・!」
しかし、木下から有益な情報を聞いても、
「『ビーストテイマー』なんです!!」
「!?」
無知なオレには、それを理解できなかった。
オレが首を傾げている間に、
ガンランの魔力がわずかに上がり、指を鳴らした!
パチンッ!
ゴポォッ ゴポゴポゴポォ! ドドドドドド! ゴパァァァ!!
その瞬間、やつが乗っている小船の後方の海面が
泡立ち、大きく盛り上がった!? デカい!
「なにか、いるぞ!?」
「な、なんだ!?」
「うわっ!」
「あ、あれは!?」
グラグラグラグラ・・・!
ふ、船が揺れる!!
「ご対面~♪」
慌てふためくオレたちをからかうように、
ガンランの上機嫌な声が聞こえた。




