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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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近づく再会





「それにしても、こうして船に乗ったのも初めてだったが、

まさか、海の魔獣の気配が分からないとは・・・。」


オレは、船の上に残った魔獣の死骸を見ながら、そうつぶやいた。

オレに襲い掛かってきて、ファロスに斬られた魔獣の死骸。

戦闘中は、体の色が、白色だったり赤茶色だったりしていたが、

今は、血の気がないような、真っ白な色になっている。

真っ黒な液体を垂れ流して、それが例の黒い液体なのか、

魔獣の真っ黒な血液なのか、混じっていて分からなくなった。

あちこちが真っ黒になっている。


ドン! ボチャーーン


オレは思い切って、魔獣の死骸を蹴飛ばして、海へ落とした。

ちょっと重かったが、魔獣の体はぬるぬるしていて、

蹴ったら、滑るように海へと落ちていった。

オレの服も装備も、すっかり染み付いて真っ黒になってしまった。

そして・・・臭い・・・。


「佐藤殿は、気配の察知能力に優れているようですな。

しかし、さすがに水中の生物の気配まで分かってしまう人物は、

そうそういないはずでござる。

それが出来れば、釣りの名人になれるでござろうな。」


ファロスが、後方の安全を確認してから、

こちらへ振り向きながら、そう言った。

ファロスは、ニュシェと交代して、船の部品を握り始めた。

ニュシェが、やっと肩の荷が降りたみたいな表情になっている。


ファロスの言う通り、海の生物の気配が分かれば、

魚の気配も分かるわけだし、漁師よりも魚の捕獲がうまくいくだろうな。


「わ、私は、学校で習いましたが、

気配というのは、生き物の呼吸などの、体から発生する

空気中の振動を察知する能力を鍛えないと、

感じることが出来ないと教わりました。

だから、空気がない水中は、逆に身を隠すには最適だとか。

誰もが察知できなくて当然だと思います。」


木下が、船の端を掴みながら、

揺れに対して踏ん張りつつ、そう言った。

やつも、船の揺れには慣れていないようだ。


しかし、木下の話は、おそらく

例の『スパイ』の学校で習った知識だろう。

オレも、学校で少しだけ習った気がするが、

たしか同じようなことを言われていた気がする。


学校でも実戦でも、水中の相手を想定して戦ったことがない。

『ソール王国』が海に面していないから・・・

これは、わが国の弱点かもしれないな。


「つまり、海の敵は、

陸の敵よりも戦いづらい相手ということか。」


実際、本当に苦戦した。

もし、ファロスがいなければ、オレはやられていたかもしれない。

それに、今回は、たまたま助かったが、

敵がオレたちではなく、船を攻撃してきたら、

オレたちが海へ沈んでいただろう。


海の敵は、陸の敵より強敵。

それは、つまり、長谷川さんが討伐しようとしている『海獣』にも

同じことが言えるはずだ。

さっきの雑魚のような魔獣よりも強敵であるはずの『海獣』・・・。

長谷川さんを止めたとして、

そのあと『海獣』を、どうやって討伐すればいいのだろうか・・・。


「ファロス殿、海の敵に有効な戦い方とか、

そういうものを知っているか?」


ファロスは、オレよりも海の戦い方を知っている感じだったから、

この際、聞いてみた。


「拙者の国の海には『ヘビタイプ』と『魚タイプ』の魔獣が出没するが、

海の敵には、氷の魔法か、雷の魔法が有効でござる。

ただ、海が変われば敵も変わるゆえ・・・

ここの海の敵に、それらが有効かどうかは分からぬでござる。」


「なるほど・・・分かった。ありがとう。」


オレとしては、あまり参考にならない答えが返ってきた。


魔法か・・・。

この先も、この程度で苦戦するようでは

実際に『ドラゴン』に遭遇しても、討伐なんて無理かもしれない。

隣国『レスカテ』で出会った、あの宿屋の店主のように・・・

剣術と魔法の両方を駆使すれば、本物の騎士たちのように、

高レベルな戦い方が可能だろうな。

これは・・・少しずつ魔法を復習する必要があるかもな。


しかし、今すぐ、どうにかできるわけじゃない。


海だろうと魔獣には変わらない。

魔獣も、獣と体の作りは同じだ。頭、首、心臓が弱点なのだから、

そこを攻撃できれば、仕留めることができる。

さきほどの魔獣も・・・よく見れば、でかい頭だったから、

そこを斬ってしまえば、恐れるほどでもないだろう。

黒い液体にだけは注意が必要だな。




ザザザザザッザザザ・・・


あれから、オレたちの船は敵に襲われることなく

順調に、長谷川さんたちの船を追っていた。


長谷川さんたちの船が、かなり近づいてきた。

あと数百mといったところか、それとも1kmぐらいか。

陸と違って、海では他の建物が無いから、距離感がつかみづらい。

それでも確実に近づいていて、

向こうの船が、だんだんよく見えるようになってきている。

つまり、オレたちの船のほうが速いということだ。


これなら・・・


ザザンッ・・・


「ん!?」


急に、船が減速した気がして、振り返れば


「はぁ、はぁ・・・ユンムさん、替わって・・・。」


今まで、一定の風を帆に当て続けていたシホの魔力が尽きたらしい。

青白い顔色のシホが、そう言って、

自分に巻き付けていたロープをほどいている。


「は、はい、分かりました。」


木下は、よろよろとシホに近づいて、シホからロープを受け取り、

自分の体に巻き付け始めた。


「お疲れ様、シホさん。」


ニュシェがフラついているシホに駆け寄って、

肩を貸して、ゆっくりと座らせている。


「よくやった、シホ。」


オレも労いの言葉をかけた。

できれば・・・シホの魔力が尽きる前に、追いつきたかったな。

木下の魔力を消費することなく、長谷川さんたちに追いつければ、

なにかあった時に、木下の魔法に頼ることもできた・・・。

まぁ、2人の魔法に頼るような状況にならないのが一番だが。


「はぁぁぁ・・・ふぅぅぅぅ・・・いきます!

・・・わが魔力をもって、空を漂う風よ、戦塵を払う風となれ・・・!」


木下が深呼吸してから、両手を帆に向かってかざし、魔法の詠唱が始まった。

徐々に、木下の魔力が高まっていく。

向かい風である潮風にも負けないくらいの風が、木下の周囲に発生し始めている。


魔法に集中しているからか、顔が強張っている木下。

おそらく、この魔法も初めて使うのだろうから

うまくいくかどうか、緊張しているようだ。

しかも、急がねばならない。

早く魔法を使わないと、長谷川さんたちの船が離れていってしまう。


「フルトゥーナァ!」


ブボォ!!!


「うわっ!?」


「わわっ!」


「ぬぉ!」


木下の魔法が発動したが、

突然の急発進に、ガクンっと船が大きく揺れた!

みんなが、たたらを踏んでいる!

木下の風の魔法が、少し強かったようだ!


「ご、ごめんなさい!」


フオォォォォォー!


木下が謝り、すぐに風力を調整し始めたようだ。


ザザザッザザザザザ・・・


すぐに船は安定して、走り始めた。

さっきまでのシホの風と、同じぐらいの速さだ。


「ふぅ・・・。」


シホよりも木下の方が、魔力が強いのかもしれない。

魔力は強ければ強いほど、その調節が難しい。

まして、今回は「思いっきりチカラを出し切って終わり」ではなく、

「一定のチカラを長く出し続ける」わけだから、その調節は

魔法に長けた上級者であっても難しいだろう。

すぐに調整できた木下は、さすがと言うべきか。


強張った表情のまま、木下は魔法に集中している。

オレたちに出来ることは、木下の集中を妨げないことだけだな。


オレは、船の進行方向へと目を向けた。


長谷川さんたちの船との距離は・・・


ゾゾゾゾゾゾゾッ!


「はっ!」


「わわわっ!」


「っ!」


まだ距離があると思っていたが、

とうとう、長谷川さんの武器のエネルギーを感じ取れる距離まで

近づいたようだ。身の毛がよだつ、気持ち悪いエネルギーを感じる。


オレが再び振り返ると、ニュシェの顔色が悪くなっていて、

ファロスが険しい表情になっていた。


「とうとう追いついてきたな。」


オレが、そう言ったら、


「あ、あの『ヴィガンサ』のエネルギーが

ここまで増大になっているとは・・・!」


ファロスが低い声で、つぶやいた。


そうか、ファロスにとっては、久々に

長谷川さんに、ここまで近づいたのだろうな。

しばらく会わないうちに、長谷川さんは

多くの生き血を、あの武器に吸わせてきたのだ。


ゾクゾクゾクッ・・・


船の上で日光を浴び続けているから、体は熱いのに、

背筋に冷たいモノが走って、肩が震えてくる。

それほどまでに気持ち悪いエネルギー・・・。


「・・・この前よりもエネルギーの範囲が広くなってる気がする・・・。」


ニュシェが、ぶるぶる震えながら、そう言った。


「たしかに・・・そう感じるな。」


初めて、このエネルギーを感じ取った時は、

大きな宿屋だけの範囲だった。

それが、今朝、感じ取ったエネルギーは、

村全体を覆いつくすほどの範囲ぐらいに感じた。

たった数日の間に、そこまでエネルギーが大きくなってしまうとは・・・。


「実際、あの刀のエネルギーが大きくなっていて、

漏れている範囲も広がっているでござる・・・!

おそらく、もうあの刀の限界を超えて・・・

これほどまでに・・・父は・・・人を・・・!」


ファロスが、前方の船を睨んでいる。


ファロスの口ぶりでは、長谷川さんのことを慕っていると感じる。

きっと尊敬できて、信頼できる父親のはずだ。

だからこそ・・・今、心の中は複雑だろうな。


ザザザザザ・・・


このまま行けば、すぐに追いつけそうだ。

もうあっちの船は、こちらの船に気づいているだろうか?

あとは、どうやって海賊たちを説得すればいいか・・・。






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