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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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親子の絆



ザザザザザ・・・


「うっく・・・!」


船の揺れが激しくなっている。

立っていることに、かなり慣れたつもりでも、

気を緩めると、たたらを踏みそうになる。


ゴオォォォォォ・・・!


シホの風の魔法は、角度をつけて帆に当てていて、

跳ね返ってくる風を、うまく後方へと逃がしているらしく、

その角度を保ちつつ、ずっと両手を構えなければならない。

それに加えて、船の揺れに耐えなければならないから、

シホは最初にロープで体を固定させたのか。


「・・・ふぅ。」


魔法に集中しているシホが、小さな溜め息をつく。

少し疲れ始めたのかもしれないが、表情はまだ明るい。

ただ魔法を出し切るのではなく、長く出し続けるのは、相当、難しいはずだ。

風力の加減を一定に保たなければ、

帆が壊れてしまうらしいから、至難の技だ。


今、気づいたが、シホはいつもの装備をしていない。

いつも両腕に巻いている、魔道具の包帯をしていない。

たしか、魔力の調整を補う道具だったはず。

それを付けずに、自分のチカラだけで魔法を使っているのだ。

きっと、いつもよりも集中力が必要なのだろう。


今は、シホに話しかけないほうがいいな。


ふと後方を見れば、遥か遠くに陸が見える。

本当に、あっという間に移動できるのだな。

これも、シホの作戦のおかげだ。


「!」


「・・・。」


視線を感じて、視線の元を見たら、

木下と目が合った・・・。目が怖い・・・。

なにか言いたいようで、なにも言ってこない。


・・・木下の言いたいことは分かっている。

オレが勝手な行動をして、今の状況になったことを責めたいのだろう。

オレの一存で、木下たちに相談も無しに走り出したことを・・・。

シホとニュシェは、あの態度からして

オレの行動に賛同してくれている感じだが、木下は違うようだ。

ただ、この状況でオレを責めると、もれなくファロスを責める形になる・・・。

ファロスの手前、オレを責められない・・・そんなとこだろう。


オレは申し訳ない気持ちで、木下へ向けて、静かに頭を下げた。


「・・・ふん。」


木下は、鼻息を鳴らして、そっぽを向いた。

・・・木下に、本当に反対する気持ちがあるならば、

船が走り出す前に、言いだしていただろう。

反対意見を言わず、魔法で船を動かすシホの作戦に、

魔獣による襲撃の注意だけで終わらせたのだから・・・

全面的に反対したかった・・・というわけではないと願いたい。

いや・・・「諦めた」というほうが正しいかもしれない。


しかし、やはり相談も無しに、この状況になってしまったことは、

いつか埋め合わせしなければいかんな。

あとで小言や説教をくらう覚悟をしておこう・・・。


「ファロス殿!」


「!」


オレは、かじという部品を握っているファロスに話しかけた。

そうは言っても、オレが船の先端にいて、

ファロスは船の後方、シホの後ろにいるわけだから、

オレの声は、全員に聞こえているだろう。


船の向かう先を見ていたファロスが、

オレの呼び声に反応して、オレの目を見た。


「長谷川殿を、どうやって止めるんだ!?」


「・・・。」


森の中をいっしょに走っている時に、

聞きたかったことを、今、聞いてみた。


『海獣』を討伐するためだけに、ここまで苦難の道を

たった一人で歩いてきた長谷川さん。

多くの犠牲と、自分の命を引き換えにしてまで、目的を成就しようとしている。

あの長谷川さんに、今さら何を言っても止められないような気がしている。

いや、オレでは止められないが、

息子の声ならば、止められる・・・かもしれない。


ファロスに、何か策があるのかと思って聞いてみたが・・・


「・・・拙者は、ここへ来るまでに、

幾度となく、父上を止めるため、言葉を交わし、闘いを挑みましたが、

父上を説得することも、闘いに勝つことも叶いませんでした・・・。」


渋い表情のファロス。


やはり・・・か。

息子の言うことも、聞く耳持たず、か。

あの長谷川さんを止めるには、闘うしかないと思っていた。

そして、息子が相手なら油断するかもしれないと思ったが・・・

そんな甘い男ではないか。


いや、甘さはある・・・。

もしも、長谷川さんに甘さが無ければ、

闘いを挑んだファロスを・・・斬っているはずだ。

何度も闘って、五体満足でいられるのは・・・

ファロスの実力があってのことかもしれないが、

少なからず、長谷川さんが手加減しているからだろう。


「父を止めるには、父を超えるほか、道は無し。

拙者も、ただやられていただけではなく、

父上の技や癖を、ずっと見極めて参りました。

次こそは・・・超えてみせます!」


「・・・。」


ファロスの実力は知らないが、長谷川さんの実力は

間違いなく、オレよりも格上だ。

その長谷川さんの技や癖を見極めたとしても、

そこを突けるほどの実力が伴わなければ、負ける。


ファロスに、長谷川さんの弱点を聞いて、

代わりにオレが・・・。

いや、長谷川さんの技を見たことがないのに、

初見で、その技を見極めて、弱点を突くことなど不可能だ。


やはり、ここは・・・。


「そうか。では、ファロス殿に任せるぞ!

長谷川殿に勝って、見事、止めてくれ!」


「はい!!」


力強く返事をするファロス。

あの強い長谷川さんに挑むというのに、

ファロスの目は、まったく怯えていない。

「絶対に勝つ」と信じている目だ。

勝敗は別として、頼もしく感じる。




・・・息子が父を超える・・・か。




息子・直人が『騎士』を目指さないと言ったのは、

かなり早い段階だった気がする。

高校受験の頃だったか・・・大学受験の頃だったか・・・。


あいつは、幼い頃から優しい性格で、いろんなことに興味があって、

最初から『騎士』を目指している感じではなかった。

オレはオレで、もう『騎士』の時代ではなくなってきているのを感じていたから、

直人に、オレと同じ道を歩ませたいとか、強制する気持ちは無かった。


だから、剣の稽古をつけさせようとしても

あいつは、ぜんぜん乗り気じゃなくて。

そんな直人の態度を見ても、ショックは受けなかったのだが・・・。

それでも、やっぱり、心のどこかでは、

「そういうこと」を期待していたのかもしれない。

直人の口から直接「騎士を目指していない」と告げられた時のショックと・・・

なんとも言えない寂しい気持ちは、今でも覚えている。


なんだったのだろうか・・・あの気持ちは。


オレ自身、『騎士』は騎士でも『竜騎士』という

『なんちゃって騎士』の資格しか持っていないことで、

ほかの騎士たちへの引け目を感じていたのは事実で。

オレみたいな『なんちゃって騎士』に、直人がならないようにと

願っていたはずだったが・・・。

心のどこかでは、自分の息子が立派な騎士になってくれることで、

周りの騎士たちを見返してやりたいとか、そういう・・・

ちっぽけで、くだらない見栄とかプライドみたいなものが、

オレにもあったのかもしれない。

だから、淡い期待があって・・・

それを、直人の一言で壊された気分だったのだろう。


今は、もう、なんとも思っていない。


直人は、オレよりも頭が良く、

自分の道を、自分のチカラで歩んでいるのだから。


とうの昔に、ちっぽけなオレを超えていったのだ・・・。


あいつは、今ごろ、どこかの国で

調査とか研究とか、オレには分からない世界の

難しい仕事に取り組んでいるんだろうな。


ただ、なんとなく・・・今、一瞬だけ・・・


長谷川さんとファロスの関係を、うらやましく感じてしまった。

「超える、超えない」の話だけじゃなくて・・・

なんというか、こう・・・

離れていても、強い『きずな』で結ばれている感じが・・・。


たぶん、それが・・・オレたち親子には無いんだよな。

育児を女房に任せっきりにしたツケか・・・。





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