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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第一章 【異例の特命】
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握り飯






明朝。

まだ夜が明けて、間もない時間帯。

やっと人々が起きだす時間帯に、

オレは、城門まで歩いてきた。

この時間帯では、まだ大型馬車は動き出していない。


「えっ!佐藤隊長!?」


「おはようさん!変わりないか?」


「はっ!異常ありません!」



夜間勤務の隊員たちが、

オレに気づき、集まってくれた。

季節は春だが、この時期の早朝は

まだまだ風が冷たい。

差し入れとして、温かい握り飯を持ってきた。


「おぉ、握り飯だ!

佐藤隊長、ありがとうございます!」


若い隊員たちは、テンションがあがって

我先にと握り飯に手を伸ばす。


「ひさびさに自分で握ってみたんだが、

味は大丈夫だと思う。遠慮なく食べてくれ。」


「さ、佐藤隊長の手作りでしたか!

ありがとうございます!」


「ただ米を握っただけだ。

手作りというほどではない。」


以前、女房にドヤ顔で握り飯を

ご馳走したつもりだったが、

毎日、料理している者からすれば、

それは料理のうちに入らないと・・・

大喧嘩になったのを思い出す。


「もう耳に聞こえていると思うが、

オレは、昨日で城門警備の任を解かれ、

本日から『特命』の任を全うするため、

長い旅に出る。

昼勤務の者たちには、説明と別れを伝えていたが

キミたちには、まだ何も言っていなかったのでな。

面と向かって、別れを言いに来た。」


「佐藤隊長・・・。」


握り飯をほおばるのを止めて、

隊員たち全員が、

静かにオレの言葉を聞いてくれている。


「思えば、オレは一度言い出したら

部下の話もよく聞かない、ダメな上司だった。

この歳になって、今さら性格を変えられるわけでもないが

謝っておく。すまなかった!」


昨日の小野寺の言葉を思い出して、

苦笑いしながら、頭を下げる。


「そんな!いつも、

佐藤隊長の判断に間違いはなかったです!

気にしないでください!」


夜間勤務のリーダー・今井がそう言う。

こいつもマジメなヤツだ。

小野寺の次は、こいつが隊長になるだろう。


「そう言ってもらえると救われるよ。

キミたち、今まで支えてくれて、ありがとう。

今日から、昼間勤務の小野寺が隊長の任に就くだろう。

小野寺のことも支えてやってくれ。

そして、次期の隊長になれるよう、

キミたちもがんばってほしい。」


「はい!!!」


隊員たちの気合いが入った返事を聞き、

安心して、ここを離れられると感じた。


王国から支給されていた、剣や鎧、マントなど

こまごまとした物を、隊長室に置いた。

あとで、人事のヤツが取りに来るだろう。

返却は人事室と決まっていたが、

こんな急な辞令を出した人事が後始末をするべきだ。


「・・・と、最後に細かいことを言うようだが、

いつ、いかなる時も、油断をしてはいかん。

今回は、オレが差し入れた握り飯だが、

これに毒が入っていれば、キミたちは即死だ。」


「んぐっ!」


若い隊員が、握り飯を詰まらせたようだ。


「平和な国だが、いつ、敵襲や魔獣による

襲撃があるか分からんからな。

ここを守るキミたちがやられたら、

それらの脅威が王国になだれ込む。

油断だけはしないでくれ。」


「はい!!!」


隊員たちの顔が引き締まった。

油断していたことを自覚できたようだ。

差し入れだけで終わらせておけばよかったが、

ちょっとお節介な老婆心というやつが顔を出してしまったか。

しかし・・・スパイが

数年間も、のうのうとこの国で働いていたのだ。

やはり油断は厳禁だと知らせておきたかった。


「小野寺さんが来るまで、

ここで待たれないのですか?」


帰ろうとしていたオレを今井が引き留める。

しかし・・・


「これから宿題を提出して行かねばならんのでな。」


「えっ?宿題ですか?」


オレは、ニカっと笑って答えていた。



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