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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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地下牢からの解放




「うっめぇー!」


「あったかーい! おいしー!」


「はぁ・・・これはうまいな。」


「・・・。」


シホにカギ束を取ってもらい、オレたちの手錠と足枷が外された。

あの老婆が階段に置いて行った回復用の薬も、

シホに取ってきてもらって、さっそくオレに飲ませてくれた。

全身の傷や打撲、腫れ、痛みが、あっという間に消えていった。

通常の薬よりも、効果が高い、高値の薬だったのではないだろうか。

顔面の腫れも、口の中の切り傷も、あっという間に治っていった。


手と足の錠が外れたことにより、

魔力の枯渇状態に起きる気持ち悪さも和らぎ、

こうして、食事することも苦ではない。

あとは、ゆっくり魔力が回復するのを待てばいい。


しばらく元気がなかったシホだったが、

みんなでいっしょに食事を始めると、

すぐにいつも通りの元気が戻ったようだった。

心の中までは分からないが、腹が満たされれば、

とりあえず元気を取り戻してくれるだろう。


オレたちが食べ始めて、数分後に、木下がゆっくり食べ始めた。

鉄格子の扉を開けっぱなしにして「逃げろ」と

言っているのと代わりない態度だった老婆。

今さら、毒入りの食事を出すとは思えないが・・・

オレに対しては「復讐したい」と言っていたくらいだ。

オレのほうが木下を見習って、

もう少し警戒してから食べるべきだったかもな。


それにしても、美味しい。

単なるスープだが、いろんな魚介類が入っていて、

元気が出るような、そんな味だ。胃に沁みていく。


・・・当然ながら、毒は入っていなかった。

改めて思えば、あの老婆や年老いた男、そして村長や海賊たちは、

大切な仲間がやられて、「復讐したい」というのが本心だったとしても、

心のどこかでは、自分たちの『海賊稼業』のことを

よく理解しているのではないだろうか。

『賊』というのは、他人の物を盗む者たち・・・

やるか、やられるか・・・そういう世界で生きているのだから、

逆に、やられる覚悟もあるはずだ。


だからと言って、命を奪っていいということにはならない。

俺も命はとられたくない。

ここから、早く去りたいものだが・・・。


「・・・ふぅ、美味しかった。」


オレは空になった器を置いて、ふと、階段下を見た。

おびただしい血溜まりが出来ている。

死体は運ばれて行って、そこにはないが、

長谷川さんが殺した海賊たちの血だ。


・・・長谷川さんは、今、どこまで行っただろうか?


あの気持ち悪い武器のエネルギーが去って、そこそこ時間が経っている。

海賊たちの船に乗って、海へ出て・・・

もう目当ての『海獣』に遭遇しているだろうか?


そういえば、長谷川さんは『海獣』を追って、

この国までやってきたと言っていた・・・。

結局、長谷川さんの追っている『海獣』とは、どんな魔獣なのか?

詳しく聞くことができなかったな。


今、長谷川さんは、何を思っているのだろうか・・・。




鍋の中身が空になり、鍋の周りには

オレたちが食べ終わった空の器が並んでいる。


オレは体中の怪我が治り、腫れていた目が治ったおかげで

薄暗い地下牢でも、よく見えるようになった。

改めて・・・目の前に、例の『水着』姿のままの

美女3人と向き合っている、この状況が、

なんとも・・・すごい光景だなと思いつつ・・・。


「さて、改めて・・・シホの意見を聞こうか。」


3人の姿をじろじろ見ないようにしつつ、

シホの目を見て、そう聞いた。

あの老婆の言葉を聞いてから、

シホの考えがどう変わったのか、変わっていないのか。


シホは、オレの目をまっすぐに見てから答えてくれた。


「・・・ここを出る。」


決意した表情だ。

老婆の言葉を聞いても、ここに残ると言われたら

どうやって説得すればいいか、困るところだった。


「イルばぁに、あこまで言われたら

もう、ここには残っていられないよ。

シャンディーの命令ってのは、本当か、ウソか、

分からないけれど・・・なんとなく、

シャンディーなら、そう言いそうな気もするし。

俺がシャンディーの立場なら・・・

やっぱり同じことを考えていたと思うから。」


そう言ったシホは、少しだけ寂しそうな表情をした。

でも、あの老婆のおかげで、

ようやく海賊たちのさりげない優しさに気づいてくれたようだな。


「それに、ここにいたら、

おっさんが殺されちゃいそうだからな。

パーティーの仲間を守るためなら仕方ないさ。」


やれやれと言わんばかりのシホに


「そうしてくれると助かる。」


オレは、笑顔で答えた。

木下とニュシェも顔を合わせて、少し笑っていた。




あの老婆が言っていたように、牢屋から出て、

階段より奥の突き当りに、ほかの牢屋とは違う部屋があり、

中には、たくさんの樽や木箱が置いてあった。

ここは武器庫なのだろうな。

木箱は、すべて空であり、オレたちの荷物は

その部屋の中央に、置いてあった。


「うー、肌寒かったぁ。」


そう言って、シホが自分の荷物から

大きめのタオルを取り出して羽織った。


「あたしは涼しくて快適だけど。」


ニュシェはそう言った。木下の方も別に寒がっている様子はない。


「俺も地上にいたときは、この格好でも快適だったけど、

さすがにここは涼しすぎて、この格好だと冷えるんだよ。」


シホの言う通り、今は初夏の季節。

地上では雨が降らなければ少し暑いくらいの気温だったが、

この地下なら、真夏でも低い温度のままだろうな。

シホたちの格好では、少し寒いだろう。


「・・・。」


しかし、改めて見ると・・・本当に・・・ほぼ下着姿だな。

ニュシェは、元々、体温が高そうだし、

木下は・・・ちょっと肉付きがいいから体温が高そうだ。

2人に比べてシホは・・・筋肉はついているが、

その分、余計な肉がついていないから

気温の変化が、もろに体に影響するのだろう。

暑さも寒さも苦手なようだ。


「・・・おじ様、今、何を考えていたのですか?」


「うぇっ!?」


いきなり木下に顔を覗かれて

慌てすぎて声がうわずってしまった。

木下の眼光が鋭い・・・!

オレの浅はかな視線と考えを見透かした目だ。


「あぁ、いや、その・・・!

ここは武器庫のようだから、なにか使えそうな物は無いかと思ってな!」


我ながら、お粗末な言い訳だ。

ここにある樽や木箱は、どれもが乱雑にフタが開いていて、

空であることが一目瞭然なのだから。


「おいおい、おっさん。

いくら相手が海賊だからって、勝手に持ち出すのはダメだろ。」


「あ、あぁ、たしかに、その通りだった。すまん。」


シホに注意されて、謝っておく。

本当に、ここから何か持ち出そうとは思っていなかったが、

シホたちにまで自分の浅はかな考えがバレるのは良くない。


「・・・私、もう着替えようかな。」


オレの視線と考えを見抜いた木下が、そう言い出した。

それはそれで助かる。

オレとしても、目のやり場に困っているからだ。


「いや、まだダメだ、ユンムさん。

せめて、この国から出た後じゃないと。

国境を越える前に町や村で、俺たちが見つかれば、

あのイケメンに情報が流れちゃうかもしれないからな。」


「うーん・・・そう言われたら、仕方ないですね。」


「じゃぁ、またお化粧するの?」


「化粧は、この村を出て、森を抜けてからにしよう。

汗とか、また雨でとれちゃうかもしれないから、

次の町か村に入る手前で、化粧したほうがいいね。」


シホは、案外、この変装作戦に限っては

しっかりしている。木下も反論の余地が無いようだ。

残念ながら、まだまだ、

オレの目のやり場は困ることになりそうだ。




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