似た者同士の頑固者
・・・ピチョン・・・
地下牢に響く水滴の音が、小さくなり、その間隔が広がってきた。
階段の上の方から聞こえてきていた、激しそうな雨音も
今は聞こえてこない。
もしかしたら、地上では、もう雨があがっているのかもしれない。
しかし、いまだに長谷川さんの武器のエネルギーを
オレとニュシェが感じ取っているから、
まだ長谷川さんたちはこの村にいると思われる。
オレたちは、まだ牢屋の中ではあるが、
オレは、なんとなく、もう助かった気でいた。
なぜなら、オレたちと違って、あとから入ってきたシホには
例の手錠も足枷もされていないからだ。
架せられた者の魔力を奪う、特殊な魔道具の手錠と足枷をしていないシホなら、
魔法を使って、この牢屋から脱することが出来るはずだ。
あとは、タイミングだけだ。
あの武器の気持ち悪いエネルギーが去っていけば・・・
海賊たちもみんな船で村を出ていったことになるだろう。
おそらく、戦えない女子供たちは村に残っているだろうが、
相手は戦えないのだから、逃げることは容易いだろう。
・・・と思ったのだが・・・
「そりゃダメだ、おっさん。
俺は、シャンディーと約束しちまったんだ。
ここで、シャンディーの帰りを待つって。」
真面目か!
「いや、あの、シホさん?
たぶん、それはシャンディーさんの優しい嘘というやつで・・・。」
どうあっても、この牢屋から出ていかないと言い張るシホ。
木下もオレも説得しているのだが・・・。
「だいたい、おっさんも、
シャンディーと賭けをしてるんだろ!?
だったら、なおさら、シャンディーが帰ってくる前に
ここを去るのは良くないぜ。」
シホの言い分は、もっともではあるが・・・
この機を逃せば、たとえ賭けに勝っても、オレの命の保証はないと思う。
村長たちが帰ってきた時には、オレたちを解放するという
約束だが、村長を始め、あの海賊たちには
仲間を殺された恨みが残っている。
仲間の死体を運んでいった、若い男たちの
オレを見る目が・・・オレの脳裏に焼き付いている。
女性には指一本触れない掟があっても、オレも、長谷川さんも男だから・・・
『海獣』討伐後、オレも長谷川さんも、ただでは済まないだろう。
「さっき、おっさんもカッコよく言ってたじゃないか。
あのじいさんに命を賭けるって。
あのじいさんたちが生きて帰ってくるって、
信じているから、そう言ったんじゃないのかよ。」
「だ、だから・・・長谷川殿が帰ってくるのを、
信じて、いるし、無事に帰ってくるのは、分かっている・・・。
しかし・・・賭けをした相手は、海賊だ・・・。
じょ、女性には優しいやつらだが・・・
仲間を、強く思う、あの村長が・・・
仲間をこ、殺した、オレと長谷川殿を、みすみす、逃すとは、思えん。」
シホは、あの村長と仲良くなっているから
村長を含めた海賊たちを信じているのだろうが、
オレは、その海賊たちに袋叩きに遭っているせいもあって
とてもじゃないが、信じ切ることは出来ない。
自分の命欲しさに、こう考えているわけではない。
オレは・・・オレには、果たすべき『特命』があるのだ。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
それに、オレたちが逃げることは、
海賊たちも分かっているはずだ。
少なくとも、村長と、あの年老いた男は分かっている。
そうでなければ、シホに錠をせず牢屋へ入れるはずがない。
だからこそ、あの村長は、
シホに別れの挨拶のような言葉を言ったのだろう。
「おっさん、あんだけ大口叩いておいて
こっそり逃げるとか、男として情けないぜ?
それって、騎士として、どうなんだよ?」
「うっ!」
シホのやつ・・・!
オレたちを見逃してくれる海賊の優しさすら
見抜けないぐらいバカなのに、
イラっとさせる言葉を投げかけてきやがる!
おのれ・・・!
オレが寝転がっている体勢だから、
オレの顔を覗き込んでいるシホが、
まるで上から見下しているように見えてしまう。
「・・・分かりました。
どの道、おじ様の傷が少しでも回復しないことには
ここから出ることは難しいでしょうから、まだ時間があると思うので、
それまでにシホさんを説得しましょう。」
木下が、やや呆れ気味にそう言った。
「いいや、俺は説得されないぞ。
たとえ、おっさんたちが逃げても、俺だけここに残って
シャンディーとの約束を守らせてもらうからな。」
シホは、ムキになってそう宣言する。
元々、頑固な性格を持ち合わせていると感じていたが、
ここまでとは・・・。
それとも、約束を守りたいと思わせるほど、
村長のことが気に入ったのか。
「あの、おじいちゃんに助けてもらえばよかったね。」
ニュシェが、ふと、そんなことを言った。
たしかに・・・知らない仲ではないし、
長谷川さんの強さなら、それも可能だっただろう。
しかし、オレたちを助けるとなると・・・
海賊たちを全滅させねばならなかっただろうな。
そうなると、長谷川さんの目的である、
「船を出させる」ことが出来なくなってしまう・・・。
もしかしたら、長谷川さんが去り際に言った
「かたじけない」というのは・・・
「助けられず申し訳ない」という意味も含まれていたのだろうか。
「大丈夫だって。
シャンディーたちが帰ってきたら、約束を守った俺たちを
絶対、解放してくれるって。」
シホは、ニュシェの肩をポンポン叩いて
明るい声で、そう言った。
村長に、全幅の信頼を寄せているようだ。
いつの間にか、もう水滴の音が聞こえてこない。
きっと雨があがっているはずだ。
海賊たちは、もうすぐ村を出発するだろう。
海賊たちが出発してから『海獣』の討伐までに、
いったいどれだけ時間がかかるかは分からないが、
逃走するならば、早いほうがいい。
オレの体の回復と、シホの説得に、どれほどかかることか・・・。
あちこちに痛みが走って、思い通りに動かせない体で寝ころんで、
オレの気持ちは、やや焦っている。




