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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第四章 【初恋と伝説の海獣】
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かたじけない




「やってやらぁ!!!」


「『シラナミ』様だろうと関係ねぇ!」


「ぶちのめしてやるぜぇぇぇ!!」


「俺たちの海を取り戻すぜぇぇぇ!」


・・・オレの賭けは、うまくいったようだ。

海賊たちの雄たけびを聞いていると、

たぶん、こいつらも、野盗として、ここで死んでしまうより、

海賊として、『海獣』討伐に行きたかったのだろう。


「野郎ども! 出航準備だ!!!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


「!」


村長が、勢いよく命令していて、

男たちも勢いよく返事をしているが、まだ外は雨だったはずだ。

こんな時に、船を出せるのか!?


「ありったけの武器を積み込んで行く!

準備しているうちに、雨は収まる!

すぐに船を出せるようにしろ!!」


村長は、雨雲の動きが読めるらしい。

そろそろ雨が止むことが分かっているようだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


ドタバタ ドタバタ ・・・


また急に慌ただしくなった。いや、活気づいたというべきか。

さっきまで積み上げられていた、魔道具の木箱の山もさっさと運ばれていく。

あれも船に積まれるのだろう。

村長の命令で、男たちが、次々に荷物を運んで、上へと駆け上がっていく。


「か・・・かたじけない、佐藤殿・・・。」


「!」


あまりの騒々しさに、誰もが長谷川さんの存在を忘れているようだった。

そんな中、オレは長谷川さんを見ていた。

長谷川さんは、その場に座り込み、オレに向かって深々とお辞儀した。

それは、ほとんど土下座だった。

長谷川さんの頭から垂れ下がった白髪にも、ところどころ血が付いている。


「なんの・・・オレは、何も・・・はぁ、はぁ・・・。」


「おじさん・・・。」


「おじ様・・・。」


ジャラララ・・・ ジャラララ・・・


オレの体を気遣って、木下とニュシェが

オレをそっと座らせてくれた。

立っているだけでも痛かったが、

座る動作でも、やはり激痛が体中に走る・・・!


「くっ・・・!」


立ち上がる動作も、座る動作も、ままならない体。

今、オレができることは、本当に何もない・・・。


「・・・おっさん。

ユンムさん・・・ニュシェ・・・。」


いつの間にか、シホが鉄格子のそばに立っていた。


「ご、ごめん。俺・・・薪を拾ってる時に、

この村に気づいて、それで・・・襲われてしまって・・・。

気づいた時、すぐにテントへ戻ればよかった・・・ごめん・・・。」


シホが、うつむきながら謝罪してきた。

ものすごく反省している表情だ。

今にも泣きそうな・・・

こんなに猛省している者に、オレは何も言うことは無い。

木下も、ニュシェも、何も言わなかった。


「・・・お前が・・・無事でよかった。」


「っ! うぇぇぇぇ・・・!」


オレが一言、言った途端に

シホが、その場で泣き崩れ、ヒザをついた。

怖かっただろう・・・そして、こういう事態になってしまったことを

自分のせいにして、ずっと自分自身を責め続けていたことだろう。

その心の苦しみが、今のオレの一言で払拭してくれたら、それでいい。


「おい! そこの牢屋のジジィ!

これは、俺と貴様との賭けだからな。

俺たちは、雨が上がり次第、こっちのジジィを連れて、

『海獣』を討ちに行く! オルカ一家、総出の討伐だ。

ここに、貴様たちだけを残していく。

俺たちが『海獣』に勝って帰れば・・・

賭けは貴様の勝ちだ。貴様たちを逃がしてやる。

俺たちが失敗して全滅すれば・・・ここには誰も帰ってこない。

貴様は賭けに負けて、貴様たちは、この地下牢で飢え死にだ。」


「・・・。」


オレの挑発に、あえて乗ってくれた村長。

賭けにしても、圧倒的に、オレたちのほうがラクだ。

オレは、ただ『海獣』討伐をそそのかしただけに過ぎない。

その討伐に、命懸けで挑む村長と男たちのほうが

一番ツラくて、厳しい戦いを強いられることになる。


村長が、くいっと顎をあげる仕草をすると、

そばにいた、あの年老いた男が、


カシャカシャッ ガチャン・・・キィィィィィ・・・


鉄格子の扉を開けて、


「そういうわけだ、シホ。

生贄は要らなくなった。牢屋に入ってくれ。」


村長は、泣き崩れていたシホに、静かにそう告げた。

シホは鼻をすすりながら、黙って立ち上がり、

年老いた男によって開けられた扉をくぐって、こちらへ入ってきた。

素直に言うことを聞いているようだ。


「「シホさん!」」


ジャララララ!


「ユンムさん! ニュシェ!」


すぐに、木下とニュシェが、シホに抱き着き、

3人でギュッと抱き締め合っている。


キィィィィ、ガチャンッ カシャカシャン


そして、年老いた男によって、再び扉に鍵を掛けられた。

どうやら、シホには、あの手錠も足枷も付けないらしい・・・?


「あー・・・その、なんだ・・・。」


村長が、鉄格子の前で、背中を向けながら


「シホ・・・お前と話してると楽しかったぜ。」


ボソっと、そんなことを言う、村長。

それを聞いたシホが、鼻をすすりながら、


「ぐすッ・・・シャンディー・・・これで終わりみたいなこと、言うなよ。」


「!」


「必ず、戻って来いよ。ここで待ってるからな。」


シホが、木下とニュシェに抱き着かれながら、

鉄格子の向こう側にいる村長の背中に向かって、そう言った。


「あ、当たり前だ! 絶対、戻ってくるからな!」


村長は振り向かずに、強く返事をした。

さすが、シホだ。

短時間で、本当に村長と仲良くなったらしい。

パッと見て、シホと村長は歳も近いのだろう。

今の会話も、まるで友達のようだった。


「おら、そこのジジィ! 立て! 船へ行くぞ!」


「・・・うむ。」


村長に急き立てられ、長谷川さんが、スッと立つ。


ビュン! ビシャァ!


「!」


長谷川さんは、左手に持っていた『刀』を振り、

血を振り払い、腰の後ろに差していた鞘に納めた。


「お、驚かせんなよ!」


村長が少し驚いて、長谷川さんを叱る。

長谷川さんは、村長の言葉に動揺する様子もなく、

オレに向かって、もう一度、


「・・・さ、佐藤殿・・・、かたじけない・・・恩に着る・・・。」


そう言って、深々と頭を下げた。


「は・・・長谷川殿・・・ご武運を・・・!」


長谷川さんも声がかすれているようだったが、

オレのほうも、かすれた声しか出せず、

本当なら、もっと力強い声援で送り出してあげたかったが、

今のオレには、こんな言葉しか出てこなかった。


ザッ ザッ ザッ


そうして、村長が階段を登りだして、

その後ろを付いて行くように、長谷川さんも階段を登っていった。

あの宿屋で別れた時と同じように、

一度も振り向かずに、立ち去って行かれた。


そして、あの時と同じように・・・


ゾクゾクゾク・・・


長谷川さんが立ち去った後も、

ずっと、あの気持ち悪い武器のエネルギーを感じていた。




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